第四十三話 マスター
日も高く上ったお昼時、私は王国首都イアロヒにツツジと共に訪れていた。門での検閲はつつがなく済み、むしろ効果がありすぎたようで凄く丁寧な対応をされた。街に繰り出して早々ツツジお勧めのカフェに入った。小奇麗な内装で落ち着いた雰囲気を纏い、お客の入りもそこそこでにぎわっている訳でもないが、廃れた感じでもなく心地い空気に包まれた店であった。ツツジが気に入るのもうなずける。
席についてさっそくメニューとにらめっこを始める。予想通り紅茶だけでもかなりの種類がありかなり悩んでしまう。一応説明が書かれているのだが目移りしてしまい唸りながら悩んでいるとツツジが笑いながらこちらを見つめていた。
「悩んでるわね」
『種類が多くて決められん』
「私のおすすめはこれね」
結局そう言ってツツジの選んでくれたものに決め、軽く軽食も一緒に頼む。運ばれてきたサンドウィッチを食べながら紅茶を一緒に楽しむ。さっぱりとした口当たりで料理の邪魔をせず、飲みやすいものだった。なるほど、紅茶そのものの味だけでなくそれを飲む場面でも味の選択が必要なのだ。紅茶の奥深さを再確認し、満足げにため息を吐き食後のデザートを選んでいるツツジを眺める。すると店員らしき男がこちらに近づいてきた。
「楽しんでいただけましたかな?」
「あらマスター、美味しかったわよ」
『美味かった』
マスターと呼ばれたのは初老の男性で、白髪まじりの頭髪にしわの刻まれた顔に笑みを浮かべながらこちらに目線を向けた。
「ツツジさんが男性と共に来られるのは初めてですね」
「彼は一緒にパーティーを組んでる仲間よ」
『クロという、よろしく』
「私はこの店を経営している者です。マスターとでもお呼びください」
そう言ってマスターは手に持っていたケーキをテーブルに置いた。
「試作品をよろしければ味見をしていただけませんかな?」
「あらいいの?」
「ええ、よく来て下さるお客様の評価をいただきたいのですよ」
「いいけど厳しいわよ、クロは。彼が私たちの料理を作ってくれてるのよ」
「ほう、ではあなたが噂の〈料理番〉なのですか。でしたら尚更是非とも食べていただきたいですな」
そう言われては断りようもない。ありがたく試作品のケーキをいただく。栗を使ったケーキは栗の風味をしっかりと味わえ、マスターの腕が相当なものである事がうかがえる一品だった。
『美味いな』
「美味しいわね」
「自信作なのですが今一つ決め手に欠けるのです」
『上に乗ってるクリームにも栗を混ぜるのはどうだ?』
「なるほど、それでしたらもう少し甘くした方がよさそうですね」
そうして二人でああでもない、こうでもないと話を詰めていく。
「ありがとうございます!!おかげでより良いものが作れそうです」
『それはよかった』
「もしよろしければコーヒーでもいかがですか?」
『コーヒー?』
マスターの口から告げられた未知の言葉に私は疑問と期待が膨らむのであった。




