第四十一話 鯖の塩焼き
トライスクイヘッドを討伐して数日、私たちはウヨリズミに滞在をしていた。暑い気候ではあるが海の幸を気に入ったパーティーメンバーが多かったので数日滞在する事になった。基本的に日中は街で過ごし日が落ちると外で野営かそのまま街で泊まるかに分かれて過ごしている。私は日中も街には入らず外で過ごしていた。本当は街で色々と見て回りたかったのだが、一緒に回ってくれる者がいなかったのだ。エルメアは挨拶回りで忙しく、ノイリーは暑さでダウン、ツツジは街に行きたくないと言い、バフは今回旅に来ていない、アリーには任せられないとエルメアに言われ、ケフォルでは迷子が増えるだけだと却下された。そのため今回は街の外で先日使った麺の補充や日光浴を楽しんでいた。
この日も日光浴をしてうとうとしているとケフォルが釣竿を持ってきた。
「クロ、釣りに行こー!!」
元気いっぱいにそう言われ釣竿を差し出された。
『ふむ、釣りか』
「すぐそこに海岸があったからそこでしよ!!」
『そうか、では行こうか』
山に籠っていた頃は川でよく釣りをしていたが、海では釣りをしたことがない。どんな物が釣れるだろうか?ケフォルと共に期待に胸を膨らませながら海岸に向かうのであった。
「えい!!」
気の抜けた掛け声とともに釣竿が振られ、ちゃぽんと音を立てて釣針が海に落ち沈んでいく。さすがにケフォルに渡された釣竿では小さいので風呂敷より違うものを取り出し同じように釣り糸を垂らす。私の肩に乗りながら日差しを避けているケフォルとじっと待つ。波が海岸に打ち寄せる音に数羽のカモメが鳴きながら飛びまわっている。時折正面から吹く潮風に体をなでられながら釣竿を揺らす。
数十分もすれば飽きてしまったのだろう、ケフォルがうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。穏やかな時間がゆっくりと流れていく。すると私が垂らしていた釣竿が大きくしなった。
『む、大きいな』
海岸沿いでここまで手ごたえのある物がかかるとは思っていなかったので少し驚いた。手にしていた釣竿を一気に引き上げと二メートルを超えるであろう魚が勢いよく海面から飛び出し、地面にたたきつけられた。
「・・・あ、釣れたの?」
ケフォルが眠たそうに目をこすりながら釣れた魚に目をやる。すると嬉しそうに耳をぴんと立てて肩から滑り降りながら魚の方に駆け寄る。
「わー、鯖だ!!」
『これが鯖なのか』
鯖はよく街で買ってきてくれる魚だったのだが、すでに切り身の状態であったので本体を見るのは初めてだ。ここまで大きい魚だとは驚きだ。せっかくなのでここで処理をして食べるとしよう。
サッと三枚に下ろし、それぞれ食べやすいように切り身にして残ったものは風呂敷に詰める。食べるように切り分けたものに塩をまぶして少し擦り込んでおく。それが終われば火をおこし米を炊いておく。その隣に網を置き、先ほどの鯖にもう一度塩を振り網の上でじっくりと焼き上げていく。鯖の脂が火に落ちて辺りに良い香りが漂い始める。炊きあがった米は昆布の佃煮を具にしたおにぎりを作る。作り終わった頃に丁度鯖も焼きあがったようで、仕上げにレモンを少し垂らして完成だ。
「んふー、おいしい!!」
もともと魚が好きなケフォルは口いっぱいに魚とおにぎりを詰め込んで頬をパンパンに膨らませている。そんな様子を目に私も鯖を食べる。やはり釣りたては新鮮で、生臭さは感じられず脂の乗った身は程良く引き締まっておりいい塩梅の塩加減がおにぎりを頬張らせる。あっとうまに二人とも平らげてしまう。
『さて、では帰るか』
「うん、帰ろう!!」
少し食休みをし、野営をしている地点までゆっくりと帰る。夕飯は鯖を使った料理を作り、ケフォルは嬉しそうに釣りたての鯖の美味しさをみんなに説明をしていた。それを皆微笑ましそうに話を聞くのだった。若干一名はその話に涎を垂らしながら羨ましそうに聞いている者もいたが。
ウヨリズミ鯖
ウヨリズミ近海で生息する鯖。普通の鯖よりも大きく脂が良く乗っている。普段は沖の方に生息をしているが、トライスクイヘッドの影響か海岸の方に生息する個体も出始める。




