第四話 おでん
「クロ、これどうやって食べるの?」
昆布を片手に首をかしげながらケフォルが私に話しかけてくる。今私たちは海の都ウヨリズミに来ている。漁業が盛んで海の幸が豊富な街である。先ほどまで街の中で買い物でもしており見つけたであろう、ケフォルが持つ昆布を見ながら、さてどうしたものかと考える。そのまま食べるのもいいが、昆布と言えばやはり出汁を取るのが良いだろう。冬に入り本格的に寒くなってきた今、おでんなどは体も温まりよいであろう。
『ふむ、ではそれを使って今日は料理を作ろうか』
「ほんとう?これおいしいの?」
『うむ、なかなかうまいぞ』
「わーい、楽しみだね!!」
そう嬉しそうに笑うケフォルをしり目に出汁を取り始める。鍋に水と昆布を入れ付けておく。その間にダイコン、ジャガイモ、タマゴ、オクトパスヘッドの足、こんにゃく、ミノタウロスのすじ肉、魚の練り物を取り出しそれぞれ下処理をし始める。ダイコンとジャガイモは皮をむき、下ゆでをしておく。その方が味が染みやすくなるのだ。タマゴはゆで卵にしておき、こんにゃくとオクトパスヘッドの足、ミノタウロスのすじ肉、魚の練り物は食べやすい大きさに切り分け湯がいておく。
そろそろよいころ合いだろうと昆布の入った鍋を火にかけ、そこへ乾燥させた魚の塊を削りながら鍋に入れていく。そこへ醤油、砂糖、塩、みりんを加えてそこへ下処理を済ませた具材を加えて、あとはじっくりと時間をかけて煮込むだけだ。
途中で昆布を取り出し食べやすい大きさに切り分け、丸めて串刺しにして鍋に放り込む。せっかくなので出汁だけでなく本体もケフォルに食べさせてやろうと思ったのだ。
「なかなかよい匂いがしておるな」
そう言って声をかけてきたのはバフだ。彼は人間界では〈賢者〉と呼ばれ、その称号は知識、魔法技術のもっとも優れた者に送られるものらしい。初めて聞いたときはこの飲んだくれが?と思ったものだが話してみると確かに素晴らしい知識量で、私の知らない話も多く、なかなか興味深いものだった。まあ飲んだくれに変わりはないのだが。
「ほう、おでんか」
『知っているのか?』
「うむ、昔訪れた街で食べたことがあってのう。その時一緒に飲んだ清酒は最高であった」
そういえば清酒があったかと思い目の前に出してやる。
「ほー!!それは清酒ではないか!!素晴らしい!!」
そう目を輝かせながらはしゃぐ男に苦笑いを浮かべる。この清酒は昔私の元を訪れ鱗を武器に加工したいと言ってきた男にもらったものだ。当然始めは何を言っているのだと追い返していたのだが、しつこく付きまとわれ面倒臭くなって一枚渡したら、そのお礼だとしこたま渡されたのだ。さて、今頃は元気にしているだろうか。そうこうしてるうちにおでんが出来上がったのでそれぞれ取り分けていく。
「よく味が染みてておいしいね!!」
「肉が少ねえが、まあうまいな」
「くぅーっ、清酒との相性がたまらんっ!!」
口々にそう言いながらおでんを食べてゆく仲間の中にケフォルもいて、首をかしげながら昆布を口にしていた。
「変な食感だけどおいしい!!」
そんなことを言いながらおいしそうに食べている。どうやら気に入ってもらえたようで何よりだ。その姿を見ながら私もおでんを食べる。具材に味がよくしみ込んでおり、ジャガイモはホクホクでよく体が温まる。
「昆布おいしかったね!!」
『そうか、それはよかった』
満足そうな顔でそう言うケフォルを見て私も嬉しくなる。酒瓶片手に幸せそうな顔をしながら眠っている飲んだくれを視界の端にとらえながらそう思うのであった。
せっかく海の都に来ているのだ、明日はケフォルの大好きな魚料理でも作ろうか。明日の献立を考えながら初冬の夜が更けていくのであった。
オクトパスヘッド
海に生息している全長3メートルほど巨大なタコ。魔物には分類されず、純粋な魚介類の一種である。ウヨリズミでは好んで食されているが、他の都市ではその見た目から、あまり食べられることはない。