第三十四話 迷子の迷子の
ヘレンより身分証を受け取った私たちは、城を出て街に繰り出していた。数え切れないほどの人が歩いており、道を急ぐ人や場所を走らせる商人らしき人、道行く人々に商売を行っている人など絶えず喧騒が響いており、まるでお祭り騒ぎの様な様子だ。これがいつも通りの風景であるというのだから驚きだ。普段森や山の中で過ごしている私からしたらこの喧騒もまた物珍しく映る。
さらに人が多く行きかうだけでなく、そこらかしこで様々な店が開いているのだ。思わず目移りしながら時間を掛けて街を練り歩いていく。屋台で売られている串に刺し焼いた肉にソースをかけただけのものを皆で食べたが、肉は固く臭みが残っており味の濃いソースで誤魔化したもので正直味はいまいちだったが、皆でこのようにして食べるからか、うまいと感じてしまう。味だけでなく食べる場所や雰囲気も大事なのだとそう感じた。
さらには食べ物だけでなく日用品や雑貨が売られている店もたくさんありついつい足を運んでしまう。ふらふらと店から店へと行き来を繰り返して、少し興奮が収まりふと辺りを見渡しある事に気が付く。
『む?・・・皆どこへ行った?』
一緒にいたエルメアとノイリーが居なくなっていた。先ほど串焼きの肉を食べた時までは確実に一緒にいたのだが、それから店を見て回るので夢中になり、気が付けば一人になっていた。まあそのうち帰ってくるだろうと思ったが、今は街中で私はいつも通り料理を作って待っているのではなく同じように行動をしているのだ。ということは私のところに帰ってくることはないのだ。そう言えば良くケフォルが迷子になってと話で聞かされていたがどうやら今の状況がそれらしい。もっとも迷子になったのは私のようなのだが。
まさか迷子になるとも思っておらず集合場所なども決めていなかったので、どうやって探そうか頭を悩ませていると後ろから声を掛けられた。
「もしかして、ドラゴンさん?」
振りかえるとそこには以前森で出会った少女が驚いたような表情でこちらを見つめていた。
クロたちが食べた串焼き肉
一般的な串焼きの肉でそこそこ評判の店。冒険者に人気でオイルリザードの肉を使用している。
オイルリザード
体長1メートル程のトカゲ型の魔物で、口から油を吹き出して攻撃をしてくるがそこまで威力はない。よく初級冒険者の初めての魔物討伐で利用される。




