第三十話 街へ
今私の目の前には大きな門がそびえ立っていた。〈変身〉の魔法を習得し、二足歩行の練習をすること三カ月、ついにこの日がやってきた。今では走る事もスキップも完璧にできるようになった私は、初めて街へと繰り出すことになった。もちろんエルメア達と一緒だ。さっそく門の中へ入るために門番の検閲を受ける。
「いつもお疲れ様です」
「これはこれは勇者様!!今日はまた王城へ御報告に?」
「いえ、今日は観光に」
「観光・・・ですか?」
「はい、たまには仲間とともに羽をのばそうかと」
「なるほど、後ろのお方は初めて見ますがこちらは?」
『クロだ、よろしく頼む』
「なんと!?あの噂の〈料理番〉のクロ殿ですか!?」
『う、うむ?』
なにやら興奮気味の門番に圧倒されていると、エルメアが話をつけて無事に街の中に入ることができた。さっそく市場に向かいたいところだが、まずは身分証明書というものを発行しに行くらしい。今回はエルメア達〈勇者一行〉と共にいたため街に入れたが、本来ならば身分証明書がないと入れないそうだ。街の住人ならば役所が発行する住民票、貴族ならば王国が発行する貴族証、冒険者ならば冒険者組合が発行する冒険者プレートなど様々なものがある。
エルメア、ノイリー、バフは王国が発行したものを、アリー、ツツジ、ケフォルは冒険者組合が発行したものをそれぞれ持っているそうだ。私も発行するならば冒険者組合だろう。そう思っていたが、連れてこられた場所は王城であった。どうも私の素性が特殊であるため、私の事を知っているものに頼むらしい。
「と、いうわけでよろしくヘレン」
「どういうわけかしっかりと説明をしていただきたいのですが?」
そう言ってため息をつきながらこちらを見据えたのはヘレン・ユーストリア・イアロヒ、この国の第一王女である。事情を説明すると驚きの表情で私のことを見つめる。
「ではこの方がクロ様であると?」
「うん、そうだよ」
「信じられませんわ・・・」
『うむ、ではこれでどうだ?』
そういって私はドラゴンの姿に戻る。戻ると言っても大きさはいつもよりだいぶ小さくしている。その姿を見たヘレンは唖然とした表情を浮かべていた。
「・・・本当だったのですね」
「だから言ったでしょ?」
「分かりました、今日中に身分証明書を発行いたしますわ」
「ありがとう」
『うむ、すまんな』
「ですが条件がありますわ」
「え?条件?」
「ええ、私においしいものを作って下さいまし」
そういってはにかんだ王女様に私は料理を作る事になった。
クロたちが訪れた街
イアロヒ王国の王都。街の名前はそのまま「イアロヒ」。




