第三話 ハンバーグ
今日はハンバーグにしよう。エルメアの顔を見ながらそう決めた。彼女は勇者輩出国のイアロヒ出身で勇者としての活動報告を行うためにそこへ定期的に訪れている。
彼女曰く
「報告の時に王様とか教会とか国のお偉いさんがいっぱいいて無駄に緊張するんだよね。毎回大した報告もないのにね」
とのことで報告に向かうときはいつも憂鬱そうにしている。
なので少しでも元気を出してもらおうとエメリアの大好物であるハンバーグにしようと思う。エメリアは味の濃いものや油で揚げたものが大好物で、アリーに子供舌とからかわれていたな。私としてはおいしそうに食べてくれるので子供舌で構わないのだが。
さて、まずはタマネギをみじん切りにして火にかけた鍋にバターを落とし、タマネギが飴色になるまでじっくりと炒め、冷ましておく。その間にコカトリス、ミノタウロス、オークの肉をミンチにしたものに、ミルク、パンを細かく引きちぎったもの、ニンニク、塩、コショウを加え混ぜ合わせる。出来上がったタネを手に取り成型し空気を抜くために軽く手から手へと投げつける。
それを熱した鍋に放り込み、両面に焼き色がつくまで焼いて皿に引き上げる。肉汁の残った鍋にトマト、私特製のスープの素、ミルク、拝借中の葡萄酒、そして数十年前に偶然出来上がった漆黒のソースを加える。このソースは壺に野菜などを入れて置いたものを忘れていたら偶然出来上がったものだ。
「いい香りがしますね~、そのソースは何ですか?」
ソースの香りにつられてよってきたノイリーが声をかけてきた。
『これは野菜がもとで出来上がったものだ。偶然出来上がったもので私のお気に入りの一つだ』
「普通野菜はこんなに真っ黒にならないと思うのだけど」
そう言いながらツツジが少し顔をしかめながら言った。
「何を言ってるんですかツツジさん。こんなにいい香りがするのですからおいしいに決まってるじゃないですか!!」
「いえ、そういうことを言ってるんじゃないのだけれど…まああなたがそれで良いのならもう何も言わないわ」
などと言っている間にハンバーグソースが出来上がったのでハンバーグに掛けてゆく。付け合わせはジャガイモを焼いたものとニンジンをバターと砂糖で炒めたものだ。
「ハンバーグだ!!私これ大好きなんだ!!」
嬉しそうな顔でハンバーグを頬張っているエルメアを視界に収めながら私もハンバーグを食べる。噛めば肉汁があふれ、少しの酸味とトマト風味の深みのあるソースが非常にマッチしている。
「あー、おいしかった!!」
『そうか、それはよかった』
「ありがとうね、クロ。おかげで報告会議も乗り切れそうだよ」
微笑みながらそう言った彼女の顔を見て、ハンバーグにしてよかったと思い、私もまた嬉しくなる。報告会議とやらがどれほど過酷なものか私には分からないが、少しでも彼女の助けになれたのならばよかった。
報告を終えたエルメアにまたハンバーグをねだられるのは、数日後の話である。
拝借中の葡萄酒
バフより預けられている葡萄酒。お酒を預けらてはたびたび忘れられるので、こうして時折勝手に使用している。今のところばれたことはない。
オーク
二足歩行の豚。体長は2メートルほどで力持ち。しかし頭が悪く、素早さも低いので魔物の中でのランクは割りと低い。成長し強くなるにつれ、肉はうまくなっていくと言われている。