第二十五話 化け物
今回は〈天断〉視点です。
目を覚ますと茶色の天井が見えた。どうやら眠ってしまったらしいな。先ほどまで森で魔物の討伐を行っていて、帰りにでかいドラゴンを見つけて・・・
そこまで思い出してベッドから飛び起きた。そうだ、俺はあのドラゴンに切りかかって、気が付いたら吹き飛ばされて・・・そっからどうなった?駄目だ、思い出せねえ。吹き飛ばされたとこまでは思い出せるがそっからの記憶がねえ。
必死に思いだそうとしていると、部屋の扉が開けられて男が入ってきた。
「どうやら手ひどくやられたようだなブレイズ」
そう言って薄く笑みを浮かべながら組合長がベッド横の椅子に腰を下ろした。こいつが居るってことはここは王都の冒険者組合か。
「なんで俺はここに居るんだ?」
「ん?何でってお前が死に体で王都に続く街道で倒れているところを、荷馬車が通って助けてくれたんだよ。後で礼を言いに行っとけよ」
「街道で・・・」
ということはあの一撃でそこまで吹き飛ばされたということか。その一撃に思わず身震いしていると、組合長が口を開いた。
「最上位冒険者が一人、〈天断〉のブレイ・ザウェイが何だってあんなボロボロになってたんだ?」
そう尋ねられて、重くなっていた口を動かし声を絞り出す。
「・・・化け物に会った」
「それは・・・漆黒の鱗を纏ったドラゴンか?」
「知ってんのか!?」
思わずベッドから身を乗り出して声を荒げる。
「そう慌てるな。先ほど報告書が挙げられてな。まずはお前の話を聞かせてくれ」
その言葉に少し興奮を鎮め、森での出来事を説明し始めた。
「あんたからの依頼で、森の調査と魔物の討伐に行ったのは分かってるよな?依頼をこなした帰りにでかい湖に寄ったんだよ。そしたら黒い鱗におおわれたデケードラゴンが昼寝してやがったんだ。」
「なるほどな。そこからは俺でも分かるぞ。わざわざ切りかかって、怒らせてやられたんだな」
そう言って呆れ声で顔を顰めた組合長に、俺は消え入りそうな声で言い直した。
「切りかかったまでは正解だ。だがそっからは違え。・・・起きてすらなかった。俺の全力の斬撃を受けてビクともしやがらなかった。それどころか、寝ぼけて振るった尻尾の一撃を受けてあの様だ」
自嘲気味に言葉を吐き捨てた。部屋に静寂が訪れる。
「・・・怒らしたわけではない、か」
ぽつりと零した組合長の言葉に思わず反応する。
「何やら知ってるようだが、さっき言ってた報告書のこと聞かせてくれよ」
そこで聞かされた内容は衝撃だった。あのドラゴンが無害だと?俺を寝ぼけ様に放った一撃で戦闘不能にしたあいつが?そんな馬鹿な!!そう思ったが報告書を寄こした奴の名前を聞いたらそれが本当の事だと嫌でも理解させられる。〈魔剣〉レイン。俺と同じ最上位冒険者が書いたものだ。内容は事実だと言える。・・・あいつが手も足も出ないと判断したこともだ。
「実際一撃を受けてみてどうだったんだ?」
組合長に尋ねられて少し思案してから口を開く。
「・・・正直なところ分からねえ」
「分からない?」
「見つけた時に何にも感じなかったんだ、何にもだ。今思えばおかしな話だ。あんなデケー奴を湖に近づいて目にするまで気付けなかったんだ」
「・・・それで切りかかって気が付けば吹き飛ばされていた、か」
「正直勝てるイメージが沸かねえ。一人でも、何人で掛ってもな」
そう言って俺はベッドに横になって目を閉じた。少しすると組合長が部屋を出る音がして、静かになった部屋で今までの話をまとめて考える。害のない知性のある底が知れないドラゴンか。そう言えばレインのやつが報告書に料理がうまかったと書いていたんだったな。体が治ったらあいつに話を聞いてみるか。そう考えながらもう一度眠りについた。
ブレイ・ザウェイ
最上位冒険者の一人、〈天断〉の異名を持つ。飛龍の群れを一撃で引き裂いたことからこの名前が付けられた。




