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勇者パーティーの料理番  作者: ゴン太
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第ニ話 パイ


さて、パンを焼くか。私が朝起きてまず思ったことだ。この間の盗賊退治の時に大量にパンを消費した(主にダメ魔法使いと大食い戦士が)のでそろそろ風呂敷にあるストックが心もとなくなってきたので追加で作ろうと思ったのだ。


そう決め、さっそく風呂敷からかまどと薪を取り出し火を付ける。もちろん私のブレスで一発だ。最近は慣れたもので、火加減はばっちりだ。最初の方は火加減が分からず辺り一帯を焦土と化したのは今ではいい思い出だ。


かまどを温めている間に生地を作ってしまおうと風呂敷より材料を取り出す。バター、パン作り用の小麦粉、バター、砂糖、塩、水、特製のパンをふわふわにする魔法の粉を並べる。この魔法の粉は百年ほど前に見つけたものでこれがあるとないとではパンのふわふわ加減が全く違うのだ。ちなみにこの粉はある特定の魔獣から得られるので見つけたら忘れないように回収するようにしている。取り出したバターと水以外を混ぜ合わせそこに水を加え混ぜ合わせる。


「おはよう。早いわね」


さてそろそろ手でこねようとしていたところで後ろから声がかけられた。


声をかけてきたのはツツジだ。彼女はエルフという種族でパーティーでは弓を使い遠距離からの攻撃を得意としている。今エルメア達は盗賊退治の依頼達成の報告のために街に繰り出しており、私自身はドラゴンなので街中にはもちろん入れないのだが、森で育ったエルフのツツジは街中にいるのは苦手らしくよく私と街の外で待機していることが多い。今回はもう1人戦士のアリーもいるが、彼は街中が苦手というわけではなく単に用事が無いとのことで一緒にいる。今頃は鍛錬でもしているのだろう。


「何を作っているのかしら?」

『パンを作っている。この間で食べつくされたのでな』

「ああ、そういえばシチューの時によく売れていたものね」


そう言いながら手元を覗き込んでくる。暇そうであったのでこねてみるかと尋ねたらやると言った返事があったので2人でこね始める。始めはべたべたと手にくっついてくるので嫌そうな顔をしながらこねていたツツジだが、段々とまとまって行くにつれほんのりと楽しそうな雰囲気をまとい始めた。人にしては表情の変化の乏しいツツジだが、こういった作業を手伝ってもらっている時や、私の料理を食べている時などはこういった表情をする。私としては少し嬉しいものだ。


ある程度まとまったのでツツジから生地を回収し少し強めに生地をこねる。引き延ばしたり台にたたきつけたりしながらさらにこねる。これを繰り返した後に少し溶かしたバターを加えてさらにこねる。


「すげー音がしてると思ったらパン作りかよ・・・」


上半身裸で汗を拭いながら呆れた様子でアリーが声をかけてきた。すげー音とはパンを叩きつけていた音であろうか。あれがあるとないとではパンのふくらみが変わるので欠かせない作業なのだ。いつも通りだったのだがうるさかっただろうか。


「まるで大砲をぶっ放してるような音だったぜ・・・」

『そうか、それはうるさいな』


そんなにうるさかったとは、慣れとは怖いものだ。今度からは気を付けよう。


「それより腹減った、クロ、朝飯にしようぜ。」

『そうか、もうそんな時間か』

「おう、俺は肉が食いたい」

「私は甘いものが食べたいわ」


アリーに続いてちゃっかりと自分の要望を提示するツツジに苦笑いをしながらさてどうしたものかと考える。肉と甘いものか、とパン生地に目を向けながらふと思いつく。


『そうだな、ではアリー、ツツジ、このパン生地を1人分にちぎって丸めておいてくれ』

「げっ、マジかよ」

「・・・骨が折れそうね」


直径1メートルほどもありそうな球体を見ながら2人は息をそろえてため息をついてからそれぞれ手を伸ばし始めた。


その間に先ほど生地を作った要領で、魔法の粉を抜いた状態で生地を作り少し冷やしておく。そして2つの鍋を火にかけておく。まずはタマネギ、ニンジン、ニンニク、トマト、ミノタウロスの肉をみじん切りにし、鍋に油とニンニクを入れ少し焼き色がつき始めたらタマネギとニンジン、ミノタウロスのひき肉を加え炒める。そこへトマト、塩、コショウ、私特製スープの素を加え煮込む。


同時にリンゴを小さく切り分け、鍋にバターを加えてリンゴを入れ炒め、そこへ砂糖とレモン果汁、クイーンビーの蜜を加えフタをして一煮立ちさせた後、水分が飛ぶまでさらに煮る。


「やっと終わった~」

「さすがにこの量は疲れるわね」


そうこうしている間にあちらも終わったようだ。


『終わったか、では魔法をかけるとしよう』


そう言って成型された生地に〈時間促進〉の魔法をかける。生地は数時間置いた方がいいと数十年かけて発見をしたのでこの魔法を開発した。そういえばノイリーが初めてこのパンの作り方を見たときは白目を剥いていたな。あの顔は傑作であった。


この2人はさほど気にならないようで、


「なんかキラキラした魔法だな」

「あら、魔法を使うのね」


と言った様相だ。

その間に先ほど作った魔法の粉抜きの生地にそれぞれ鍋で炒めていたものを包んでいく。そうこうしているうちに時間促進の魔法が終わったのでかまどに生地を投入する。あとは焼きあがるのを待つだけだ。


辺りにいい香りが漂い始めたころ、きれいに焼き色が付いてきたのでかまどから取り出す。


「焼きたてのパンの香りは素敵ね」

「おいクロ、肉が無いぞ」


そんなことを言っている2人にそれぞれ焼きあがったものを皿に乗せて渡す。ツツジにはアップルパイを、アリーにはミートパイだ。


「・・・パンじゃねえか」

「・・・パンね」

『そうだ、パンだな』

「肉は?」

「甘いものは?」

『食べればわかる』


そう促した後、2人はパイを口にする。


「肉だ!!うめー!!」

「甘い、これはリンゴかしら?」


2人の感想を耳にしながら私もパイを食べ始める。さっくりとしたパイ生地からトマト風味のひき肉があふれ出しアツアツで火傷しそうになった。しかし味はしっかりとしておりうまい。もうひとつもさっくりとした生地に甘く煮詰めたリンゴが流れ込んできて口の中が幸せに包まれる。


「あー、うまかった」

「こんなパンがあるなんて驚きだわ。とてもおいしかった」

『そうか、それはよかった』


2人の幸せそうな顔を見て私も幸福感に包まれるのであった。さて、そろそろパンのあら熱もある程度冷めた頃だろうと、大量のパンを風呂敷に詰めながら今晩は何を作ろうかと考えながら仲間の帰りを待つのであった。



そのあと、街から帰還したノイリーにアリーとツツジが自慢するようにパイのことを話し、駄々をこねるポンコツ魔法使いのためにまた作る羽目になった。まあ顔中パイ生地まみれのあの幸せそうな顔を見れたからよしとしよう。






パンをふわふわにする魔法の粉

セルビジアという魔物から取れる粉。セルビジア自体はそこまで強力ではなく、害にもならないためよく放置されている。しかし醤油などの発酵食品に使用されるので、採取依頼がよく出されており、低ランク冒険者のご用達である。


ミノタウロス

体長3メートルほどの二足歩行の牛の魔物。その剛腕と大きさの割に素早い動きをするため、危険な魔物であり中級冒険者では数人、上級冒険者では1人での討伐を推奨されている。しかしその肉は非常に脂が乗っており、いい値で取引をされている。


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