第十九話 肉じゃが
日が真上に上る頃、私は森にある開けた草原で魚を干したり肉の解体を行っていた。珍しくパーティー全員が街に行き、久しぶりに1人で過ごしていた。夜には帰ってくるとのことなので、それまで調味料やスープの素、肉の下処理などを行っておく。余った時間は新しい料理や調味料の開発を行う。なかなか成功はしないが、新しいものを作るのは嫌いではない。
そうこうしているうちに良い時間になってきたので夕飯の準備を始める。まずは風呂敷からミノタウロスの肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、白イモのこんにゃくを切り分ける。鍋に油を入れ、タマネギを炒め、次にミノタウロスの肉を加えさらに炒め、残りの具材も加えて少し炒める。そこへ乾燥させた魚の塊を削ったものでとった出汁を入れ、煮込んでいき仕上げに醤油、砂糖、みりんを加えひと煮立ちさせていく。
その間に味噌を作ったスープを作る。鍋に水を入れ沸騰させて、先ほど切った白いものこんにゃく以外の具材を入れて、乾燥させた魚の塊を削ったものでとった出汁と特製の味噌を溶いて煮込んで完成だ。
この組み合わせにはパンより米の方が良いだろうと米を炊いていた時だった。
「とても良い香りがするね」
そういって声を掛けられた。振り返ると見たことのない少女がそこにいた。薄っすらと笑みを浮かべている少女はしっかりとこちらを見据えていた。私の姿を見た人間で動じずにいた者は初めてではないだろうか。そんなことを考えていたらまた少女が話し始める。
「これ、あなたが作ったの?」
『そうだ』
「そうなんだ。あまりにも良い香りがしたから覗きに来ちゃった」
『えらく深いところまで来ていたのだな』
そう、ここは森の中でも相当深いところなのだ。当然だろう、私の姿を見られると困ったことになる。なのでいつも街からは相当離れた、人が来難いところにいるのだ。だが私の目の前には少女が居る。不思議に思い首をかしげていると気がついたように少女が説明をしてくれた。
「こう見えても一応腕ききなんだよ。依頼されたから森の奥まで来てて、今帰りなんだ」
『そうだったのか』
「こんな良い香りを嗅いじゃったからお腹がすいちゃった。早く帰ってご飯を食べたいよ」
『よかったら食べるか?』
「・・・え?いいの?」
『ああ、見ての通りたくさんあるからな。1人分ぐらい構わない』
そう言って出来上がった肉じゃがと味噌のスープ、それと炊きあがった米をさらによそって少女に差し出す。
「ありがとう」
そう言って少女は差し出された料理を食べ始めた。
「・・・!!おいしい!!」
一口食べて驚きの表情を浮かべながらそうつぶやいた。どうやら気に入ってもらえたようだ。おいしそうに食べている少女をしり目に、食後用に緑茶を淹れる。食べ終わった少女にお茶を差し出す。
「こんなにおいしい料理は初めてだよ。ごちそうさま」
『そうか、それは良かった』
「そろそろ日も沈み始めてるからお暇させてもらうね」
そう言って少女は立ち上がり、立ち去ろうとしてこちらを振り返った。
「またね、ドラゴンさん」
去り際にそう呟き行ってしまった。なんとも不思議な少女であったな。そう思っていると聞き慣れた騒がしい声が聞こえてきた。どうやら腹ペコな仲間が帰ってきたようだ。名前を聞き忘れた少女のことを頭の片隅にやり、仲間の帰りを待つのであった。
乾燥させた魚の塊を削ったもの
人間界では鰹節と呼ばれている。後にエルメアより名前を教えられるまで必死に名前を考えていたクロが行きついた名前がこれである。
特製の味噌
街で買ってきてもらったいくつかの味噌をブレンドしたもの。自分で作ろうと試行錯誤しているがなかなか成功までは至っていない。




