第十五話 親子丼
今私は困惑をしていた。目の前では人間の少女が白目を剥いて倒れ、男の騎士が尻もちをついてガタガタと震えていた。
「あー…やっぱりこうなったか」
『すまんが、説明をしてくれないか』
この2人を連れてきたであろうエルメアに説明を求めた。
「えっと、この子は私の友達なんだけど、昨日クロのお弁当を食べて気に入ったみたいで、直接食べたいって言いだして」
『私のことは説明しなかったのか?』
「説明するより直接見た方が早いかなーって…」
その結果がこの惨状のようだ。それはそうであろう。料理人を紹介すると言われて連れてこられた先には巨大なドラゴンが居たのだ。こうなるのも無理はない。
しかし、私の料理を食べに来たそうなので作ることにしよう。もっとも起きたところでまともに食べられるかは分からんが。
まずはブレスで火をおこし、米を炊いていく。その間に風呂敷から具材を取り出していく。今回はコカトリスの肉と火鳥の卵を使った親子丼を作ろう。お弁当を気に入ってくれたのであれば米を使ったものが良いだろう。
鍋に特製の魚出汁と水を加え火にかけ、砂糖、醤油、みりんを加え少し煮立たせる。その間にタマネギを薄く切り、コカトリスの肉を一口程度に切っていく。切った具材を鍋に加えさらに煮込んでいったん火を止める。そして別の鍋に1人分の煮立たせたものを入れて、そこへ火鳥の溶き卵を加えて半熟状態まで火にかけ、炊けたご飯の上に乗せれば完成だ。
その間に先ほどの2人が意識を取り戻したようだ。料理を運び終わるとおもむろに立ち上がり挨拶を始めた。
「先ほどはお見苦しい姿をお見せしていまい申し訳ございませんでした。私はヘレン・ユース」
『そうか、まあ食べるといい』
「・・・えっと」
『冷めるとおいしさが半減するからな。話はその後でも良いだろう』
そう言って料理を進めると、少し思案した後に食べ始める。すると、よほど気に入ったのか物凄い勢いで親子丼をかき込み始める。騎士よりも少女の方がいい食べっぷりなのは見ていて気持ちがいい。その様子を見ながら私も食べ始める。甘辛く、旨味のある出汁に味が染みたタマネギとコカトリスの肉が敷き詰められたご飯とマッチしており、食がよく進む。
全員が食べ終わり食後のお茶を出す頃にまた少女が話し始めた。
「改めまして。私イアロヒ王国第一王女、ヘレン・ユーストリア・イアロヒと申します。こちらは護衛のレーブンです。本日はおいしいお食事を御馳走になり、ありがとうございます」
そう言って綺麗なお辞儀をした少女を見てふと思い出す。昔目の前の少女のように私の目の前に立ち、この少女とは違い勝気な釣り目をこちらに向けた少女を。
特製の魚出汁
魚のアラや骨、海藻などを煮詰めてとった出汁。クロは米を使った料理に好んで使う。




