第十四話 お弁当
今回はエルメア視点です。
今日は朝からイアロヒ王国のお城に来ている。先日定期的な活動報告にお城へ来た際に、この国の第一王女に今度お茶をしようと誘われたのだ。そして今目の前に座っている人こそこの国の第一王女、ヘレン・ユーストリア・イアロヒである。まばゆいばかりの金髪に、ぱっちりとした目に通った鼻すじ、小さな桜色の唇、誰もが見とれてしまうような容姿の彼女が微笑みながらこちらを見ている。
彼女とは勇者を任命される前からの知り合いで、小さいころから一緒に育ってきたため、仲のいい友人である。そんな彼女とのお茶会は王城に報告行く中で唯一の楽しみだ。
「無事にまたお顔を見れて嬉しいですわ、エルメア」
「そっちこそ元気そうでよかったよ、ヘレン」
そういって挨拶もそこそこに話しこんでいく。久々に会った友人に、これまでの旅の冒険を語っていく。
「あ~、やっぱりうらやましいですわ。私も冒険がしたい!!」
「そうは言っても、さすがにお姫様が冒険はダメでしょう・・・」
そう言ってぶー垂れているお姫様に苦笑いを浮かべる。そうこうしているうちにお昼の時間が来たらしくメイドさんがお昼ご飯を運んでくる。
「あら、もうそんな時間ですのね。ではお昼にしましょうか」
「あー…実は今日はお弁当があって・・・」
さすがにお弁当があるのでお昼は断ろうとしたのだが、隣に座っていたケフォルがお弁当を取り出しながら大きな声で言い放った言葉に思わず頭を抱えることになる。
「クロのお弁当はね、とってもおいしいの!!」
その瞬間ヘレンの目付きが鋭くなる。この好奇心旺盛なお姫様が噂の〈料理番〉クロの料理に食いつかないはずがない。ケフォルの隣でしたり顔でお弁当を取り出すポンコツ魔術師を少し睨みつけながらため息を吐く。
「あら、もしかしてそれは噂の〈料理番〉クロ様の料理ですか?」
「そうだよ、街に行くからって作ってくれたんだ」
「まあ!!もしよろしければ、私にも少し分けていただけませんか?」
目を子供のように輝かせながらこちらに問いかけてくるヘレンに圧倒されつつ了承する。お弁当はおにぎりに、卵焼き、ソーセージ、トマト、サニーキャベツとオーク肉の野菜炒めが入っており、バランス良く彩りも綺麗なお弁当だった。
「お米をこのようにして食べるのは初めてですわ」
エレンが不思議そうにおにぎりを口に運ぶ。その瞬間目を少し見開き、次々とお弁当のおかずを食べていく。その勢いに驚きながら私もお弁当を食べ始める。おにぎりは少し塩を振ってあるようで中に梅干しが入っている私が大好きなタイプだ。卵焼きも甘じょっぱく、ソーセージにはトマトソースがかかっており、サニーキャベツとオーク肉の野菜炒めはご飯がよく進む味付けだ。
「とてもおいしかったですわ」
気が付くとすべて食べ終わっており、満足そうにヘレンはつぶやいた。どうやらクロの料理をお気に召したようで、そのことに私も少し嬉しくなる。すると、次の瞬間ヘレンがとんでもないことを口にした。
「今度は直接お料理をいただきたいですわ!!」
「・・・えっと、クロは街に入るのが苦手というか」
「では私が直接会いに行きますわ」
まずい、この目は本気だ。こうなったヘレンは梃子でも自分の意見を曲げない。非常にまずい。目の前に座る友人をどうにか丸めこもうと、必死に行動を起こしたがその甲斐空しく、翌日連れていく羽目になった。
サニーキャベツ
日差しが強い地域で夏場に収穫されることからこの名が付いた。火を通すことで甘みが増すことから、サラダよりも炒めものによく使われる食材。




