第十二話 魚
気がついたら私の右足にケフォルがしがみついていた。うっすらと涙を浮かべながら小さな口をキュッと一文字に閉じている様は何とも言えない。後ろを振り返ればアリーがおろおろと落ち着きなさそうに佇んでいた。
『・・・何をしたのだ』
「俺が泣かしたわけじゃねえよ!!ただ、こう、ちょっとうまく助言できなかったというか・・・」
どうやら街で仲のいい子とけんか別れをしてきたらしい。仲直りがしたいがどうすればいいか分からずアリーに相談をして今にいたるらしい。
『何を言ったのだ?』
「いや、きっと向こうも忘れてるからとか、そんくらいでこじれるならそれまでの関係だとか…』
その返答に思わずため息を吐く。この男は見た目通りというか、なんというか・・・
右足にいるひっつき虫に視線を向けて少し考えた後に、今夜の晩ご飯を魚にすることにした。ケフォルの大好物である。
まずはシンプルに焼き魚だ。これは油ののったブレードフィッシュが良いだろう。火を付け、網の上にブレードフィッシュを置いて焼いていく。そこへ少し醤油を垂らすと辺りに香ばしい匂いを放ち始める。付け合わせに大根をすりおろしたものを添えて焼きあがるのを待つ。
その間にムニエルを作る。風呂敷よりさばいてあるイタイイタイフィッシュに小麦粉をまぶして塩と胡椒を振る。そして鍋に火を掛け、油を引いて焼き始める。こんがりと焼き目が付いたらひっくり返して、反対側にも焼き色が付くまで焼いていく。
料理をしていると徐々に右足のひっつき虫が鼻をひくひくさせながらそわそわとし始めた。そんな様子を見ながら料理を完成させた。
「おいしい!!」
嬉しそうに魚を頬張りながらケフォルがそう言った。今回はシンプルな味付けだが、それだけに魚のうまみがよくわかり、いつもと違った趣があった。たまにはこういった料理も良いだろう。
食べ終わって少ししたらケフォルが控えめに訪ねてきた。
「お友達とけんかしちゃったの・・・。どうしたらいいかな?」
『ふむ、そうだな。そのものと仲は良いのか?』
「うん、一番の仲良しだよ!!」
『ならば大丈夫であろう』
「え…?」
『友とはそういうものだ。仲良くするだけでなく、時には喧嘩をして、時には手を取り合い、時には笑いあい、そうやって時間を共に過ごしていくものだ。今こうしてお前が友のことを考えていることが、そのものと友である何よりの証拠だ。きっと友も同じように過ごしていることだろう。』
「・・・うん。明日ごめんなさいして仲直りしてくる!!ありがとうクロ!!」
そう言ったケフォルの顔は先ほどの泣き顔と違い、晴れ晴れとした表情であった。
その後、ケフォルにいらぬ助言をしたことがばれたアリーは、エルメアにこってりと絞られるのであった。
ブレードフィッシュ
刃のような色と形をした魚。脂がよく乗っており、旬のものは丸々と太っており、人気のある魚である。
イタイイタイフィッシュ
叫び声をあげながら泳いでいる魔物に分類される魚。断末魔のような声のためこのような名前が付けられた。




