第十一話 ツツジの憂鬱
今回はツツジ視点です。
今日は使っている弓の手入れと矢の補給をするために久々に街に来ていた。エルフという種族は森に集落を作ってそこからほとんど出てこないため、人里に来るとどうしても奇異の目にさらされる。私自身視線にさらされるのは苦手なのであまり街にはいかないようにしている。でも他にも理由がある。
「よければお茶でもどうですか?」
ほらきた。内心でため息を吐きながら今日何度目かのお誘いを断る。街に来るたびに毎回のようにお茶に誘われるのは正直うんざりする。
弓の調整に時間がかかるとのことなのでどこかで時間をつぶそうと考えていると、男が近づいてくるのが目に入った。またか、と少し鬱陶しく思っていると男が声を掛けてきた。
「おいしいお菓子があるカフェが近くにあるのですがご一緒にどうですか?」
おいしいお菓子。その言葉に少し興味がわく。どっちみち弓の調整が終わるまで時間があるし、そのおいしいお菓子を食べながら待ってもいいかしら。そう思いその男とカフェに向かった。
思ったよりも綺麗でおしゃれな見た目の外装で、店の中も落ち着いた雰囲気で期待ができそうだ。男の話を右から左に聞き流しながらお菓子に期待を膨らませながら待ちわびた。
結果だけ言うと期待外れだった。出てきたのは普通のスポンジにただただ甘いだけのクリームが塗りたくっているケーキ。おいしくないわけではなかったが、前に座っている男の得意げな顔も相まって、私は店を飛び出し弓を受け取って街を出ていた。
以前ならばあのお菓子を、きっとおいしいと感じていただろう。しかし今では無理だ。だってもっとおいしいものを知っているから。
「甘いものが食べたいわ」
気がついたら真っ黒な鱗におおわれた背中にそう声を掛けていた。振り返った顔にはどこか困惑気味な黄金の瞳を浮かべていた。初めて見たときはそれは驚いたけれど、今では表情も分かるぐらいだ。
『今夕食の仕込みをし』
「甘いものが食べたいわ」
断られそうになったので今度は強めに言い直した。クロは意外と押しに弱い。今目の前で困った顔を浮かべているドラゴンはそこらの男よりも優しく、料理も上手でよっぽど頼りになる。
ため息をつきながら不思議な風呂敷から材料を取り出し始めたクロを見ながら、出てくるお菓子に期待を膨らませるのが最近のひそかな楽しみね。
ツツジが連れて行かれたカフェ
街で人気のカフェ。紅茶などの飲み物や、甘いお菓子の種類が豊富で、味の評判もトップクラス。女性をデートに誘うならココ!!と言われるぐらいである。




