表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーの料理番  作者: ゴン太
1/44

第一話 シチュー

まったりと更新していきます。拙作ですがどうぞよろしくお願いします。



そうだ、シチューにしよう。日も暮れ始め今晩の献立はどうしようかと悩んでいた時にふと思いついた。今日は盗賊の掃討のために森の中に来ている。パーティーのメンバーはちょうど盗賊を蹴散らしているところであろう。しかし日帰りには厳しいため今夜はここで野宿であろうからどうしたものかと考えていたところだ。最近秋も深まり肌寒くなってきたし、今朝焼いたパンも余っているのでちょうどいいだろう。


さっそく持っていた風呂敷から材料を探す。この風呂敷は昔知り合いから作ってもらった特別製で見た目よりたくさん入る。というよりなんでも入る。いまだに中身がいっぱいになったことのない魔法の風呂敷だ。そこからジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キノコ、コカトリスの肉を取り出し食べやすい大きさに切る。実は料理をする行程で今1番苦手なのがこの切り分けることだ。今までは切るなんてことはせずそのまま入れていたから小さく切り分けるのは苦手なのだ。いつもは暇そうにしているやつに切ってもらっているのだが今は1人で拠点のお留守番をしているので仕方がない。


無事に材料を切り分けたらコカトリスの肉に塩とコショウで下味を付け軽く焼いておく。次に鍋にバターとタマネギを入れて炒めてジャガイモ、ニンジン、キノコを加えさらに炒める。全体に火が通ったらミルク、私特製のスープの素、水を加えてじっくりと煮込んでいく。ある程度煮込んだら、焼いておいたコカトリスの肉を鍋に入れ、ここで飲んだくれより拝借しておいた葡萄酒を少し加えてさらに煮込んでいく。なに、1本ぐらいばれやしないだろう。そうこうしている間に帰ってきたみたいだ。


「うわー、いいにおい!!」

「こりゃうまそうなにおいだな!!」

「む?わしのとっておきの酒の香りがするような…」


約1名なかなかするどい奴がいるようだ。


「クロ、今日の晩ご飯は何かな?」


そう言って鍋の中を覗き込んでいるのはこのパーティーのリーダー、エルメアだ。無邪気に鍋を覗き込む姿からは想像もつかないが人間の中では「勇者」と呼ばれ、大昔にその称号を持つ者が「魔王」と呼ばれる魔族を倒し世界が平和になったことから人間の中で勇者とは平和の象徴として敬われ、その称号は代々引き継がれている。とは言っても今は魔王など居はしないのでもっぱら世界を旅して各地の問題を解決して回っているらしい。勇者なんて仰々しく言われてるけど便利なお助けマンみたいなものだよ、と本人は言っていたが。


『今日はシチューだ』

「やったー!!私クロが作ったシチュー大好きなんだ!!」

『そうか、それはよかった』


そう言いながら鍋をかきまぜる。


『そういえば盗賊の方は片付いたのか?』

「うん、そんなに規模も大きくなかったし今回はみんながいたから」

「わたしも斥候がんばったんだよ!!」


そう大きな声で言ったのはケフォルだ。このパーティーでは最年少の獣人だ。


『そうか、よく頑張ったな』


そう褒めると嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


そんな他愛もない会話をしているうちにシチューが出来上がったのでケフォルに取り分けてもらう。それにパンを付け合わせて完成だ。


「うめぇ!!」

「おいしい!!」


そう口々に言いながら皆食べていく。それをながめながら私もシチューを食べ始める。ミルクの優しい味とバターのしっかりとした味がして特製のスープの素の味を引き立たせている。そこに野菜とコカトリスの肉が良い味を出している。


「うまかった~」

「お腹いっぱい」

「もう食べれません・・・」


鍋はすっかり空になっていた。皆満足そうな顔をしながら一様にくつろいでいる。やはり料理を食べさせるというのはいいものだな。そう思っていたらパーティーで1番食べるアリーが口を開いた。


「しかし、相変わらずこんなうまいもんをお前さんが作ってるだなんていまだに慣れねーな」

「そう?私は慣れたわよ。それにこんなにおいしい物を食べれるんだから見た目なんてどうでもいいわよ」

「わしも慣れたが、さすがに初めて会うた時には驚いたものじゃ」


それに対しツツジが応えとバフが笑いながら言葉を返す。そういえば初めて会った時には皆大層驚いた顔をしていたな。まあ無理もない。


「私も助けられた時は驚きましたよ。だって、目を覚ましたら大きなドラゴンが鍋をかき混ぜてるんですよ、あの時は食べられてしまうのだと恐怖したものです」


口の周りに食べかすを付けながら感慨深げにノイリーが言った。その割には鍋のものをものすごい勢いで食べていた記憶があるのだが。


そんな会話を聞きながら夜も更けていく。なかなか騒がしい者たちだが気心もよく、何より私の料理をおいしそうに食べてくれる。そんな空間を心地よく思いながら私はまどろみに誘われ目を閉じていくのだった。




世間では勇者のパーティーは広く知られ有名である。〈勇者〉エルメア、〈魔術師〉ノイリー、〈賢者〉バフ、〈戦士〉アリー、〈弓術師〉ツツジ、〈陰者〉ケフォル、そして〈料理番〉クロ。各人様々な噂があるが奇妙なことに料理番だけが誰も姿を見たことが無いという。実は絶世の美女、絶世の美少年、筋骨隆々の大男、しわくちゃのお年寄りなど様々な憶測が飛び交っており、それを聞いた彼もまた頭を悩ますのであった。


これはひょんなことから勇者パーティーの料理番となったドラゴンとその仲間たちのお話である。




コカトリス

頭がトカゲ、胴体が鶏、尻尾が蛇の魔物。前後に目があり毒を吐いてくるため厄介な相手で、討伐の際は上級冒険者数人で行われる。体内の毒袋をきちんと取り除けばおいしい鶏肉となるので、高級食材として扱われている。


私特製のスープの素

鶏がらなどを煮詰めて作ったもの。現代で言うコンソメスープ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ