悪魔祓いと魔女~追憶~
* * *
オイルランプの灯が揺れる。
眠れぬ夜が続いていた。
夜な夜な、紅茶を淹れてはひとりでそれを啜る日々だ。
こうして居間で座っていると、今はもう戻らない昔を思い出す。
『紅茶をどうぞ、ご主人様』
黒髪を器用に結い上げた彼女。
どこで手に入れたのか、本物のメイドのような衣装を着て、彼女は嬉しそうにティーカップを差し出した。
『良い香り。素敵ね』
『紅茶が? それとも私が?』
『どちらもよ』
私が言うと、「さすがお姉ちゃん、分かる人はちがうわ」と妹は笑い、上機嫌にくるりと舞った。
『昔よくやったよね、お姫様とメイドごっこ』
窓から差す暖かな日の光に踊る白いエプロンの裾が、とても可憐だったのを今でも覚えている。
幼い頃から、ずっと一緒だった妹。
自由奔放で、しかし才女で、頭の固い私では彼女が何を考えているのか分からないことも多かった。
両親が亡くなって、家のしがらみがなくなっても、彼女は決して屋敷を出ていくことはなく、ずっと私の傍にいてくれた。
『貴女の才能なら、もっと都会に出てもやっていけるでしょうに』
私がそう言うと、妹はぷうと頬を膨らませて怒った。
『お姉ちゃんは私がいなくなっても寂しくないの!』
『寂しいわよ』
即答すると、彼女は照れ臭そうに笑った。
『恥ずかしげもなく言えちゃうお姉ちゃんのそういうとこ、私大好き』
妹はそう言ってじゃれついてきた。
それもいつものこと。
それがいつもの風景だった。
ともすれば、一生こんな時間が続くのではないだろうかとすら思っていた。
しかし。
形あるものがいつか壊れるように、そんな他愛もない陽だまりの時間は突然黒く塗りつぶされてしまった。
閉ざされていく扉。
自らの手足を椅子に縛り付けて、彼女はただ真っ直ぐに私を見ていた。
あのときの、妹の黒い瞳が瞼の裏に焼き付いている。
目を閉じても、決して薄れることはない。
熱い紅茶が喉にしみた。