プロローグ 3人の少女
「冬だねぇ」
「冬だなぁ」
誰もいない夕方の図書室に少女が二人、窓の外を眺めてそう呟く。外には雪が降り積もり、いつもの景色とは違う、真っ白な雪景色。
「次はどこいこっか?」
穏やかに片方の少女が本棚にある本を一冊取りながらもう片方の少女に問いかける。
「うーん…近場で群馬とかのがいいな」
窓の外を座ったままぼんやり眺めながら無気力に答える。
「群馬かぁ…けっこういろいろあるよね?」
取った本をパラパラと読みながらそう問い返す。
「うーん…まぁ調べとくよ」
そう言って立ちあがり、伸びをしてストーブを止める。
「じゃあもう時間だから帰るぞ」
マフラーを巻きながら本を読む少女に声をかけ、本を管理するPCも落としてカバンを背負う。
「わかったー。帰ろー」
本を本棚に戻してそう応じ、図書室の出口に向かう。図書室の扉を開けようとしたその時、勢いよく扉が外から開かれる。
「うおっ!?」
驚く少女の顔を見て慌てた表情で扉を開けた少女が…
「あぁっ!ごめんなさい!」
「図書室に用があるなら、今日はもう締めちゃうから明日まただよ~」
もう一人の少女が優しくそういうと、扉を開けた少女は困った顔で
「そうなんですか…残念です…」
悲しそうな顔で図書室から出ようとする少女を見て、先程扉を開けようとした少女が少し考え、
「何の本を探してるの?まだ5分くらいなら立ち読みだけだけどできるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!私、まだアメリカからこちらへ戻ってきたばかりだったので日本の建物とかについて知ろうと思って!」
目を輝かせてずいっと近づいてきた。
「…歴史系はあっちだよ。閉めるとき言うから。」
そう言い2人の少女は椅子に腰をかけ、本を探す少女を横目で見ながら手もとのスマホで時間を確認する。しばらくして少女がこちらへ戻ってきて
「ありがとうございました!…ところで、お二人はなんの本を探してたんですか?」
「…私は図書委員だから特に探してたってわけじゃないよ」
「私は温泉の本を探しに~」
「温泉?」
不思議そうな表情で持っている本を覗きこみ、わぁ、とリアクションをとり、
「お風呂ですね!いいなー、私も行きたいです!」
目を輝かせてテンションを上げる少女を見て、
「じゃあ、次行くとこ近いから一緒に行く~?」
その提案に少女はさらに目を輝かせる。
「お、おい、いきなりすぎないか?」
「でも、日帰りだしいいんじゃない?」
「行きたい!行きたいです!」
首を縦に大きく振り、元気にそう返事をする少女。そうだ、と向き直り、
「私は星宮夕香です!1年生!よろしくです!」
元気に自己紹介をして、名前を教えて、と視線を向けてきた。はぁ、とため息をついて名乗る。
「私は如月伊織。同い年の1年生。よろしくね」
続いてもう一人の少女も立ちあがって名を名乗る。
「私は南沢千尋だよ~。こっちもよろしくね~!」
互いに自己紹介を終え、3人で図書室から出て鍵をかけて廊下に出る。
「じゃあ、明後日の朝7時に駅前で」
伊織が集合時間を伝えると了解、と返事をし、それぞれ帰路につく。2日後、明後日は朝から出かけて温泉に入る。
楽しみな気持ちを胸にそれぞれが旅の準備をして、待ちに待った日曜日がやってくる――――