晩餐会に参加してみた
美少女助けてみた。
「…さてと、わたしはもう行くわ。怖い人もそろそろ来るしね」
「怖い人?」
ナーマの視線の先には、リヴを脇にかかえて走ってくるザジさんの姿があった。
「なぁ、ザジさんってもしかしてお前の……」
「じゃあね!この恩はいつか必ず返すわね!!」
シュタッという擬音を残して脱兎のごとくこの場から走り去っていった。
「ゴロウ殿、ご無事ですか?!」
「ゴロウが肩から刃物生やしてる??!」
「リヴさん驚いてないでちょっとは心配してほしいな…。まぁ先端が少し刺さっただけです。血もたいして出てないし大丈夫ですよ」
包帯を巻かれながら答える。ナイフを投げてきた男は駆けつけた警備隊によって縄でぐるぐる巻きにされていた。
「遠目から見ておりましたが、ゴロウ殿、なにやらあの者から女人を助けていたご様子。まったく隅におけませんな!」
「ごごごごごごごごごろう!ボクという者がありながら他の女に目移りするなんてどういうつもり?!」
「いやお前は俺のなんなんだよ……。ところでザジさん、あの女の子と知り合いだったりする?ナーマって名乗ってたんだけど」
俺が聞いた瞬間、ザジさんの顔から表情が消えた。
「……ナーマ…?」
「ザジさん?」
「……ソンナ人ハ知リマセンナァ…」
「いや明らかに知ってるでしょそれ……」
ザジさんが苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。
「……娘ですぞ」
「あぁー…そうでしたか」
予想できたけどめっちゃ落ち込んでるし、リアクションに困った。
「あのじゃじゃ馬…またこんな騒ぎばっかり起こしおって…」
「でもあの子、俺のこと助けてくれましたよ」
「遠目から見ると、ゴロウ殿がナーマを庇っていたように見えたのですが」
「その後、身動きの取れない俺に代わってそこの暴漢のナイフをピストルで撃ち落としたんですよ」
「…そのピストル、ワシのですな。勝手に持ち出されてました……」
「……」
じゃじゃ馬娘だわ。間違いない。
「と、とにかく、俺は彼女に助けられたので、そこは彼女を怒らないでやってください」
「なんの。こちらこそ、救われたのはウチの娘のほうです。なんとお礼を言ったらいいのか」
そう言うとザジさんは深々と頭を下げた。
俺も頭を下げてお礼を言って、二人でほんわかと笑いあった。
「ゴゴゴゴゴロウ!!!まだボクの質問に答えてもらってないよ!ザジおじさんだけじゃなく、あの女ともいい雰囲気とか許さないんだからね!」
なんか雑音がさっきから聞こえてくるんだけど、魔導伝達石の故障かな?
パンチしてくる小動物を適当にいなして俺たちはザジさんに連れられてこの街を案内してもらった。
※
「―――おぉ、そういえばお二人に伝え忘れておりました」
街が夕焼けに染まるころ、どこかわざとらしい口調でザジさんは話しはじめた。
「お二人には本日宮殿で開かれる晩餐会に出席してもらいます」
「えらい急ですね」
「ボクたち挨拶とかしなきゃいけないの?」
「いえいえ。ただ顔を出していただければそれで結構です。この街の有力者が多く参加しますので、その席で周知されてしまえば厄介な面倒事に巻き込まれることはなくなるでしょう」
俺はチラとリヴを見た。
リヴも俺の視線に気づいたのか、俺を見て視線を交わした。
彼女はうすく微笑んでいるだけだった。
俺が決めてもいいらしい。それなら。
「変なやつに絡まれるよりはマシですね。俺としても晩餐会に参加させてもらえるのはありがたいです」
嘘は言ってない。絡まれると心配なのはリヴなのだが。
俺の答えを聞いてザジさんは破顔した。
「それは僥倖ですなぁ。よかったよかった!ではさっそく宮殿へ向かいましょう。なーに手筈などは向こうに着いたら説明しますので。ささ、急ぎましょうぞ」
「ザジおじちゃん準備よすぎでは?」
「これ絶対俺たちが参加すること前提だったよな」
ザジさんに背中を押されながら俺たちは宮殿へと大通りを歩いていく。
数時間後、俺は晩餐会に参加したことを心底後悔することになろうとは、このときはまだ毛ほども予想できていなかった。
※
―――宮殿に到着すると俺らはそのまま晩餐会をしている会場に直接通されてしまった。
「準備とか必要じゃないの?!主に心の準備が足りてないですよ?!」
「アッハッハッハ!」
髭のジジイ(ザジさん)に騙されたと理解したのは、会場についてからだった。
「招待されて来ちゃったけど、本当にボクたち部外者が参加してもいいの?」
「ええ。この催しは王太子殿下の主催でありますので、客人として我が国にお迎えしたお二方も参加していただかないと周囲から不審の目で見られてしまいます」
「そういえば俺たちをこの街に連れてきたイケメン隊長はいるの?たしかこの宮殿が職場だって言ってたような」
「ええ。もうすぐ来るはずです。そのときにまた改めてご紹介させていただきますぞ」
なにやら含みのある笑顔でニコニコと俺たちの世話をするザジさんに疑惑の目を向ける俺たち。
会場の扉に待機していた兵士がガランガランと大鐘を鳴らして注目を集めた。
「王太子殿下のご来入でございます!」
玄関口の大扉の前で門番の兵士が大声で会場にアナウンスする。
大扉が重厚感あふれる音を響かせて重々しく開いていく。
大勢の付き人を従えた年若い男が開ききった扉からゆっくりとした歩調で歩いてきた。
「おいリヴ、あれって……」
「うん、あの人って……」
王太子と紹介された人物は部屋に入ってすぐに周囲を見渡し一呼吸置く。
俺とリヴはそれを唖然とながら黙って見ていることしかできなかった。
そばに控えていた兵士が一歩前に出る。
「傾注!イブン・バルトゥルトゥ王太子殿下から皆様へお言葉がございます!ご歓談をしばしお止めくださいますようお願い申し上げます!」
言い終えてから兵士は王子の方へ恭しく頭を垂れる。
「あのイケメン隊長って王子様だったのかよ?!」
なんとか正気を取り戻した俺の第一声が、会場中に響きわたった。
イケメン隊長が王子様とか少女漫画かよ