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街での新たな出会い

チンピラが誰かを脅かしているようです

「俺の前に突っ立ってタダで済むと思ってねぇよなぁ!?メスガキがよぉ?!」


どこかから相手を威嚇する声がとどろいてきた。

周りを威圧するだけのダミ声と下品な言葉遣いに思わず顔をしかめた。

だがこの手のやからは、こういう脅しが自分より力が劣る相手には一番効果があると理解しているから厄介だ。

俺は無意識のうちに一人でその騒動のもとへと向かっていった。


「言いたいことはそれだけ?」


―――響いてきたのは涼やかな凛とした声だった。

男が大声で脅しつけている相手は10代後半程度しかない女の子だった。

自分を脅しつけている大男の前で少女は心底くだらないようと言うように、ため息をついた。


「アナタが今手に取っているパンはこのお店の売り物なの。食べて料金を払わない人間をなんて言うか知ってる?泥棒というのよ?」

「コッノ…!言わせておけば調子に乗りやがってよぉ!!!」


女の子の糾弾に言葉を詰まらせた男は拳を振りかざして殴りかかっていった。


「クソッ間に合わねぇッ?!」


本能で少女のもとへ駆けた俺に見えたのは、予想と真逆の結果だった。

―――女の子が、自分の体重の2倍はあろうかという男の懐に潜りこみ、思いっきり投げ飛ばしていた。


「……は?」


俺と、投げ飛ばされた大男が同じタイミングで素っ頓狂な声をあげていた。


「女子供だと思って油断するから痛い目見るのよ。分かったらしばらく牢屋で反省してない」


誰もが混乱しているなかで投げ飛ばした張本人である女の子だけが、長い髪を空に舞わせながら当然のように立っていた。


「んーと、それで?あなたは?」


今しがた男の巨体を投げ飛ばした女の子が俺のほうに向きなおって聞いてきた。

大丈夫かな?この子に俺も投げ飛ばされないかな?


「…なに子犬みたいに怯えているのよ。失礼ね」

「ほんと?俺もそこでノビてる人と同じように投げられない?」

「わたしを無差別ブン投げ魔みたいに言わないでくれる?投げるわよ?」


やっぱり投げるじゃねぇか……。


「まーいいわ。今わたしを助けようと走ってきたでしょ?そこは褒めてあげなくもないわよ?」


クスクスとイタズラの成功した子供のように笑いだす少女。

巨漢と対峙していたときの凛としたたたずまいも、今の年相応に笑顔もとても美しいと思わず見惚れてしまった。

スリットが太股まで大きくはいったロングスカートをたなびかせて、少女の長い髪が笑い声とともに揺れていた。


「さぁ?こっちに何か面白そうなイベントがやってるから野次馬根性で来ただけだぞ」

「そーなの?わたしの目には必死の顔でこっちに走ってくるキミが見えたけれど?」

「これが普段の表情だよ」

「フフ…そういうことにしておこーかな。わたしはナーマっていうの。キミは?」

「あー」


自分の名前……たしかリヴが俺のことを……。


「ああ!ゴロウ!こんなところにいたぁ!!!」


背後からリヴの若干怒り気味の大声が響いてきた。


―――当たり前のように振り返ろうとしたその瞬間だった。

視線を後ろに向ける過程で一人の男が目に入った。

ナイフを器用にも指で挟んでナーマへ向けて振りかぶっている。


(投げナイフか!!)


声に出して注意する時間すらなかった。


俺はナーマにむかって駆け出し、そのまま彼女の身体を押し倒してナイフから守るために覆いかぶさった―――。


「キャッ!ちょちょちょちょちょっとなにしてんのよ!キミがこんな変態だなん、て…え?」

「…お願いだから大人しくしてくれ。キズに響く」


ナーマは俺の肩をじっと凝視したまま固まっていた。

そこには銀色に鈍く光る投げナイフが刺さっている。


「キ、キミ……」


彼女は俺に何か言おうとしていたが、それを悠長に聞いていられるほど余裕のあるわけもなかった。

ナーマに投げナイフを飛ばした男はさっき、彼女に投げ飛ばされた男だ。

気絶から回復するやいなや正確にナイフを投げられるんだから相当な熟練者だ。

そして―――そうした一芸に秀でたヤツの持ち物が、ナイフ1本で済むはずがない。


俺の予想通り、ヤツはふところからナイフをあらたに取り出し、こちらに狙いを定めてきた。

下にいるナーマの盾になるなら、俺は身動きが取れない。

誰かが助けてくれるか、ハリネズミになってグロい芸術作品になるかのどちらかだ。


「…このままだとハリネズミになりそうだな……」

「なに諦めてんのよ!ちょっとどいて!」


そう言ってナーマは俺の下から大男に向かって腕を伸ばした。


「なにすん……ん???」


―――俺が理解するよりも先に、ナーマの手の中から甲高い炸裂音が響いた。

そのあとしばらく間があって、カラン…と刃が割れたナイフが地面に落ちる音がした。

ナイフを投げる直前だった巨漢は、手を抑えて何が起こったのか分からないといった表情で呆然としていた。


「武闘派すぎやしませんか…?」

「あらあらあらあら、これだって乙女のたしなみなのよ?」



手に短銃ピストルを携えて、ナーマは俺の下でいたずらっぽく笑っていた。


新たに会った女の子が武闘派だった件について

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