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開幕から砂漠ステージは鬼畜ゲーすぎるかなって!

怪しい電波系少女を乗せて砂漠をさまようステージらしいです。

チュートリアル?ないですそんなの(半ギレ)。

「そーれっ!がんばれっ☆がんばれっ☆」 

「ううっ…くっ…うぅ…」


鈴を転がしたような陽気な少女の声援が、俺の真上から聞こえてくる。

対照的に俺の口からは死にそうなうめき声が洩れていく。


少女は俺の上に跨って上下に跳ねている。

楽しくてたまらないというように少女の動きに合わせて、陽光のなか輝くほど鮮やかな藍色あいいろの髪も一緒になって踊っている。


「ほらほらー。もっと足腰に力入れて頑張らないとダメだよゴロウ!」


俺の上に乗っている少女がさらに激しく上下に跳ねる。

ズッズッと地面の砂が擦れていく。


「うぅ…リヴちゃん。頼むからじっとしてて…」

「また『ちゃん付け』してるー!子ども扱いはしちゃダメっていったでしょー?」


リヴちゃん、と俺から呼ばれた少女は不満をストレートにぶつけてきた。

ただし問題なのはそこじゃねぇ…。

俺の上にリヴ(コイツ)が乗っているこの状況だ…。


―――エロい状況を想像した人います?残念ながら違うんだなコレが。

簡単に言うと、俺は出会って間もない年下の女の子を肩ぐるまして砂の上を当てどもなく彷徨っている最中なんだ。

な?簡単に想像イメージできるだろ?


「ダメだ何一つとして自分の置かれている状況が理解イメージできねぇ…」


純白のワンピースを身体に通しただけのシンプルな恰好。

ワンピースから伸びている足は何もつけておらず、肩ぐるましている俺の首や頬にリヴのふとももが直接当たっている。


―――めっちゃエロい状況だった……。

背負おうとすると、この少女が俺のことをお尻を触りたがる変態だのと騒ぎ立てるのと、高い位置からほかに人がいないか探してもらうという利点があったので肩ぐるましているわけだが、イカン誰か助けてくれ。俺の理性が残っているうちに……。


「だからさっきも言ったじゃん。『ゴロウはゲームの世界に召喚されたのです』って!」

「荷物背負って延々砂地を彷徨さまよい歩くゲームって、開始三分で中古屋に売り払うわ!」


 ―――ゲームの世界に召喚された。


 出会った当初からこの不思議な少女が繰り返し行っている説明は、何度聞いても意味の分からないものだった。


「ほら、アレだよ。今流行りの異世界召喚ってやつだよ!」


見知らぬ洞窟のなかで目を覚まして唖然としている俺に、少女は「簡単に説明するよ」と前置きして異世界召喚というパワーワードをぶちこんできた。


「俺は怪しい儀式も、トラックに轢かれてもいないんですけど…?」

「そうなんだ!すごいね!」


めっちゃ強引に俺の抗議を流された。

いやまぁ。異世界に行く方法がそれだけだとは限らんけど。


「そもそも異世界ってフィクションの話であって、現実世界じゃ誰一人として流行ってないからね?」


めげすに抵抗を続ける俺を、アハハと笑って受け流すリヴと名乗った少女。


「ゴロウは何も知らなくていいんだよ」


俺の目をまっすぐ見つめながら此方ではないどこか遠くを見ている、澄んだコバルトブルーの瞳から目が離せなかった。

その目を見たら、何も言うことができなくなっていた。


黙々と砂地を歩き続けていると、俺はだんだんとリヴの言うとおりここが自分の思い描いている現実世界ではないんじゃないかと疑問が沸いてきた。


だからこそ、俺はリヴの言葉を否定するためにも、この妙ちきりんな現状から逃れられる証拠を探していた。

例えば、見慣れた日本くにの、見慣れた故郷まちを。


 「砂地じゃなくて砂漠だってばもー」

 「気が付いたら砂漠に飛ばされててたまるか。ドラクエの魔法ルーラじゃねぇんだぞ」


 どうせここだって日本の広い砂浜だろう。行ったことはないけど鳥取砂丘とかめちゃくちゃ広いって聞いたことあるし。


 「もぅ。まだ信じられないならいいよ。小高い丘に登って周り見渡したらゴロウも今の状況が分かるよ」

 「もとからそのつもりで進んでいるから別にいいんだが、俺の上でラクしている誰かさんがしっかり周り見てくれたらもっと助かりません?」


少女は透き通るような藍色のショートヘアを風に靡かせながら俺をのぞき込む。


 「えー?ボクがいくら口で言ってもゴロウは信じてくれないじゃん」


 少しだけ拗ねたような声色に聞こえる。


「そもそもなんでゴロウはボクのこと肩ぐるましてんのさ?」

「さっきも言ったじゃんか。お前靴持ってないんだしそのまま歩いてたらケガするぞ」

「そんなこといいよぉ。ボク、気にしないよぉ」

「そんなこと言って洞窟のなかで足ボロボロになってたじゃんか。細かい擦りキズでもほっとけば歩けなくなるんだから少しは気にしろ」

「んむぅ……」


俺の言葉になにも言えなくなったのか、リヴは不満そうに唸るだけで静かになった。


―――俺がコイツに起こされた場所、つまり初めてコイツと会った場所が、洞窟だった。

俺は持ち物こそなにも持ってなかったけど、スニーカーにシャツと学生服のズボン着ていたから移動に問題はなかった。


しかし、リヴは白いワンピースだけだった。

足を保護するものはなにも身に着けていなかった。


やわらかい砂ならともかく、岩しかない洞窟のなかを裸足で歩くのは大人でも痛みに耐えきれない。

事実、リヴが俺の前を先導する形で洞窟を歩いていたときは、わずかな距離を歩いただけで足の裏が切り傷だらけになっていた。


それから俺はコイツの乗り物となる苦行を選んだのだが、どうして靴を履いていないのかは気になった。


『ボクも自分の部屋からこの世界に飛ばされたんだよ。ゴロウより少し早く起きただけで、なんで洞窟にいたのかまでは分からないなぁ』


この答えを聞いたときはまだ洞窟の中で外の様子を知らなかったから、「あーゴッコ遊びも手が込んでるなぁ」ぐらいにしか思わなかった。

まさかマジだったとは……。


他にもいろいろと質問しようとしたが、俺もまさか洞窟の外が見渡す限り砂漠のような砂地だとは思いもよらず、会話の途中で洞窟を抜け外の光景を見たときに衝撃で頭からすっぽ抜けてしまっていた。


俺がなんとはなしにさっきなんて質問しようとしたのか思い出していると突如、頭上からうめき声が聞こえてきた。


「ふむむむむ……!」


と、リヴが眉をハの字にして悩んでいる様子だった。

なにしてんだと質問する間もなくリヴからぼそっとつぶやきが漏れた。


「ゴロウのくせに生意気だ…!」

「ん?なにどこぞのガキ大将みたいなこと言ってあででででででなにすんだ!」


突然、リヴが両足のかかとを振り子の要領で俺の胸に打ち込んできた。

口をツンと尖らせてドカドカと俺の胸にかかとを連続で入れてくる。

リヴの足が小さいのでそれほど衝撃はないけどかかとは普通に痛い。


「ふーんだ!ゴロウがボクを気遣うなんて100年早いんだよ!」


リヴの頬が赤く見えるのは、太陽に照らされているからだろうか、それとも両足の振り子運動で火照ったからだろうか。

リヴは不満らしいが、なんと言われようともこれ以上ケガしちゃ医療設備も医者もいないここではかなりマズイんだ。


「あの、そろそろ痛みが許容量オーバーしそうなんですが……」

「ふーんだ!」


リヴのかかとアタックの衝撃で、何を質問しようとしたか忘れてしまった。

まぁ、道すがら分かっていくことだろうと思った。


―――「それに」


青い少女はさらに拗ねたような口調で続けてきた。


「ゴロウ、まだボクのこと名前で呼んでくれてないよ!」

「リヴちゃんって言ってるじゃん」

「ダメ!ちゃん付けは子供っぽくてイヤ!」


その駄々のこね方が完全に子供なんですが…。


「ええと、じゃあ、リヴさん…?」


自分より明らかに年下の女の子をさん付けすることに若干の気恥ずかしさを覚えながら言うと。


「ぷぷー!〝さん〟だって!ゴロウ変なのぉ」


爆笑された。

どうしてだ…。さすがに腹が立ってきたぞ。


「じゃあなんて呼べばいいんだよ?お前の苗字なんて聞いてないぞ?」


俺の質問に藍髪の少女は瞳を輝かす。


「名前だけで呼んで」


断固とした口調で主張されてしまった。


「…リヴ、ちゃん」

「名前」

「リヴ、さん」

「呼び捨て」

「あ、もうすぐ丘の頂上だけど疲れてないかな?大丈夫?」

「ナマエ、呼び捨てデ。早くするのデス」

「………」

「………」

「………」


万事休す。


「………」

「あー……リヴ…」


自分が踏みしめている、黄色とオレンジに彩られた砂を見つめながらボソボソとつぶやく。


「………」

「………」

「………」

「………」


沈黙が痛すぎる。

なに?呼び捨てにしたらダメだったのやっぱり?

非リアの塊みたいな俺が女の子を呼び捨てにしたら犯罪でしたか?

イカン涙で視界がぼやける…。呼び捨てにしろって言ったのそっちやんけ…。


「うふ…うふふふへへへへへ」


顔を上げるとリヴが笑っていた。

心の底から嬉しくて堪らないとでも言うように、小さな口からは真っ白な歯が覗く屈託のない笑みを、俺に向けていた。


深い青を称える髪の頂上部分は、陽の光を反射して光輪をいただいていた。

天使というものが今この瞬間この場所に降り立ったとしても、もしかしたらリヴの神々しさに負けてスゴスゴと退散してしまうのではないか。


18も半ばの俺よりいくつか年下であろうこの少女は、年齢より旺盛な無邪気さと、どこか人間を超越した神聖性みたいなものが垣間見えていた。


太陽が俺たちの真上まで昇っていて本当に良かった。

逆光を理由いいわけにリヴの純度百パーセントの笑顔から視線を逸らすことができた。


「へ、変な笑い方すんじゃねぇよ」

「うへへへへ。しつれーな物言いも今は許して進ぜよう。ほら早く進むのですよゴロウ」


機嫌の良さを態度で表すかのように、リヴは靴も履いていない白い素足をパタパタと揺らす。


―――肩ぐるましているのは俺である。

そう、つまりリヴが足を動かすたびに俺の顔に触れるのだ。

具体的には、ふとももが。


行動は子供っぽさ全開だが、外見は美少女中の美少女である。

リヴの妖精じみた顔立ちを初めて見たときは、呼吸を忘れてしまったぐらいだ。

そのリヴの素足がパタパタと前後に揺れる。

連動して俺の両側の頬からリヴの柔らかな太ももの感触が伝わる。


―――エロい状況を想像した人います?これめっちゃエロい状況じゃありません?

ふにふにとつきたてのモチみたいな感覚が俺を襲ってくる。

すでに俺の脳内理性軍は壊滅かいめつの様相を呈していた。

理性軍の司令官であるはずの前頭葉が「もうここでゴールしていいっすか?w」と舐め腐った態度で思考停止おやすみを申請してくる。

前頭葉キサマは「空、キレイ…」というまで使い倒してやるからな…!


「ゴロウ大丈夫?なんかゾンビみたいな腐った目になっちゃってるよ?」


リヴが背中をぐっと丸めて上からのぞき込んでくる。

お互いの鼻が付きそうな距離まで近づく。


「だ、大丈夫大丈夫、問題ないゾ」


なんだかこれ以上リヴの顔を見ると心臓に悪くなるなという確信を持って、俺は全力で地面の砂を凝視しながら、もくもくと歩いていった。


「変なのー。あ、ゴロウゴロウ!もうすぐで丘の頂上だよ!もう少し!がんばれっがんばれっ!」


チクショウ!心臓に悪いんだヨッ!

頬に何度も当たる太もも(かんしょく)にテンパりながら半ばヤケクソに丘を登っていく。

も、もう少しだ…。もうあとちょっとで、頂上だ!


「ふわぁ……」


―――真上から感嘆の声が降りそそいでくる。

俺もつられるように視線を正面に向けて、自然とため息がこぼれた……。

丘の頂上からの光景はたしかに息を呑むほど凄かった。

だけど、これはあまりにも…あまりにも…。


「何処なんだよここは……」


果てしなく続く砂の海、広大すぎるほどの砂漠を前に、俺は立ち尽くすことしかできなかった。

主人公の今の職業ジョブ:美少女の乗り物。

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