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ゆるっとリンクス  作者: トモ
特別編 (番組企画 けいどろ)
9/31

事の発端 6話


 □□


 都内にあるラジオの収録スタジオ。


 第1回放送と同じように私達LINKSと対面するように坂井さんが座り、私が番組を進行していく。


 ・・・顔が熱い。


 私の頬は赤く染まり、時折リ見えない視線に耐え切れず目を泳がせてしまう。


 自分が番組に集中しきれていないのは理解しているのだ。


 それでも、発する声は鉄の精神で何とか平静さを保ち、いつも通りの口調でリスナーさんに語りかける。


 時に優しく、時に微笑みを交え、何度も流れるリスナーさんのコメントを見ないように・・・・


 (・・・見ないで下さい。)   


 心の中で涙を流し、私は真紀の顔を睨みつける。


 (と・に・か・く、その真顔をやめろ、余計に恥ずかしくなるでしょ!)


 否が応でも見えてしまうコメントに、逃げ場が無い事を再認識してしまう。  


 「す、素晴らしいお召し物ですね」「に、似合ってますよ」「番組らしくていいと思います。」「馬鹿言うなって!!」


 憐みとも取れるコメント群に、改めて坂井さんのセンスを疑ってしまう。


 ゆるっ と リンクス、そう描かれた番組ロゴの入ったTシャツは番組の好意で制作された物。


 多忙な私達が、番組の収録の度に服を選ばなくてもいいようにと言う気遣いだった。


 惜しむらくは、製作者の人選を誤ったと言う事だけ・・・


 せめて一つのTシャツに全部ロゴを入れてくれれば良かったのに、わざわざ三等分にしたものだから余計にダサイ。白地の生地にピンクの文字で描かれたロゴは私達三人が揃って完成する為、1人頭の文字の配分が既におかしいのだ。


 リスナーの向きにあわせるように真紀が”ゆるっ”を担当し、私が”と”で彩が”リンクス”を担当している。


 完全に色物になってしまっていた。


 渡されたTシャツを見た時に最初に思ったのは、これは無いだった。


 真紀も同様の事を感じていたので、番組が始まった今も真顔を貫いている。唯一彩だけが、このシャツに喜び純粋に感謝していた。彼女の純粋さが今は眩しい。


 ”ほらほら、エリさん進行止まってますよ。どんどん行きましょう。”私達の気も知らず坂井さんがカンペで催促をしてきた。


 私は恨めしそうに彼女を見て、心に強く思う。


 この放送が終わるまでの辛抱、終わったら一度坂井さんに相談しよう。


 そう心に決めて、止まっていた進行を開始した。 


 ◇


 □□


 収録は衣装の事を除けば、比較的順調に進んでいた。


 「それでは次のコーナーに行きましょうか。・・・・・・前回、私が散々取り乱したコーナー”濃い人”ですね。」


 進行をしていた私の気が一気に重たくなった。


 散々泣きわめいた挙げ句、リスナーのクマが番組出禁となって、無実のリスナーさんがパパに任意同行されたやつだ。


 坂井さん曰く、”好評でしたので何も問題ないですよ~”と言っていたけど、私はアレ以来TVで熊を見るのも怖くなってしまっていた。


 「では、行きますね。今日の対話して頂けるリスナーさんです、どうぞ。」


 ブース内の後ろのモニターが映り、前のモニターと連動して同様のものを映し出す。


 薄暗い部屋がモニターに映し出されるが、肝心のリスナーの姿は見えない。


 だけど私の身体が震えた。


 ・・・その部屋は前回と同じだった。


 「どうも~、純で~す。」


 聞きたくない合成音と共に、モニターの下から着ぐるみを纏ったクマが出現した。


 その瞬間、私は脱兎のごとく机の下に身を隠す。


 「さ、坂井さん、アレ、出禁になったんじゃないんですか!?」

 

 対面に座っていた坂井さんが、カンペを描いてこちらに向ける。


 ”中々アレを超えるインパクトを持った方がいなくて、おまけに募集しているのですが、このコーナーだけ応募が無いんですよ。”


 切実な問題だった。


 リスナーの人達も驚いているのか


 「クマ来たーー!!」 「猟友会を呼べー!」 「エリちゃんを守れーー!」とか言っている。 


 だけど、変質者は私の反応を見て、じゅるりと手の甲で口元を拭う。


 「そんな反応されると、ますますエリちゃんを食べたくなるじゃないですか。」


 「ぴゃぁあーー!真紀、倒してあの変態倒して、お願い~~。」


 机の下でガタガタと震えながら真紀の足にしがみつく。


 「そんな、とんちを期待されても、流石に出てこないと倒せないんだが・・・」


 真紀は困り顔を机の下に向ける。


 ・・・ごめん、そうだよね。


 予想外の事態にパニックになる私だが、何故かブース内の温度が下がっている事に気づく。


 恐る恐る机の下から彩の顔を見る。


 「クマさん、私って少し耳が悪い見たいなんだけど・・・・・・何を食べたいのかな?」


 机に頬杖をついて尋ねる彩の目が、完全に開いていた。


 「もう一度聞かせて欲しいな~。」 


 甘えるような声とは対照的に、その目は笑っていない。


 モニター越しの純ちゃんもわかっているのか、後ずさりしていた。


 返答次第では恐らく、純ちゃんも武井さんと同じく敵と認定される。


 「エリちゃんを見ていると、そ、そう、エリー○が食べたくなるんです。あの細長いお菓子ですよ。」


 苦しい、それは苦しい言い訳だ。思わず聞いていて少しだけ同情してしまう。


 下から覗き見る彩の顔には変化が見られない。


 「・・・・・・そっか、エリちゃんと名前が似てるもんね。聞き間違っちゃった。」


 急に目が閉じて、彩が笑い出した。


 「そ、そうですよ。一文字違いですから、仕方ないですよ。」


 判定を回避した純ちゃんが、何度も額を拭う素振りを見せる。彼女の内心を表すその動作が、本気で焦っていた事を窺えた。


 その姿を見た私は、冷静さを完全に取り戻した。


 机の下から這いだし、元の椅子にちょこんと座り直す。


 ・・・何事もなかったかのように


 「それでは純ちゃん、今回の悩みを聞かせて貰えますか?」


 「エリお前、さっきまでの無かった事にしようとして・・・痛い!?」


 私は笑顔を保ったまま、机の下で真紀の足を踏みつけ彼女の口を封じる。


 そのまま無言で真紀に笑いかけ、”黙っていなさい”と意思表示をした。


 「・・・・・・えっと、実はですねぇ。」


 語り出した純ちゃんの悩みは、意外にも真面目な話だった。



 ◇



 □□


 笹岡商店街、昔は活気に溢れていた商店街だったが、時代の流れとでも言うのだろう。現在は人通りも少なくなり、シャッターを閉めたままの店も増えてしまったらしい。日に日に廃れていく商店街の姿を見た純ちゃんは、商店街の会長さんに相談された事をきっかけに、活気を取り戻す案を提案したのだ。


 ”そうだ、アイドルを呼ぼうと”


 商店街に入っている店は、職人気質な方達が多く、彼等の提供する商品はどれも素晴らしい物が多いのでPRさえしっかり出来れば、お客さんも足を伸ばしてくれる筈だと言う。駅前のすぐ近くで地理的問題も特には無い。


 「と言うことなので、皆さん、笹岡商店街で思いっきり遊びませんか?」


 「「「・・・・・・!?」」」 


 先程までの話と純ちゃんの言っている事が、まるでかみ合わない。


 PRをしたいのだったら、各商店を回って店の商品や特色を伝えるようにするのだが


 「つまりですね。ゆるっとリンクスの番組企画として、リスナーのみ参加のけいどろ大会をしませんか?。」 


 「「「えぇええーーー!?」」」


 突然の提案に驚く私達とリスナーの皆。


 「ちょっと待って、商店街のPRをしたいんだよね?それだと私達が店に訪れて、商品の良さをアピールするんじゃないの?」


 「えっ、それだと私達が遊べないじゃないですか?」


 何故だろう、言葉のキャッチボールが出来ていない。むしろドッジボールでもしているような錯覚を受ける。


 「・・・純ちゃん、笹岡商店街の活気を取り戻したいんだよね?」


 「私、皆さんと遊べる場所を探してただけですよ。」


 「「・・・・・・」」


 お互いに沈黙が生まれた。


 「つまり、商店街の活気うんぬんは関係なく、ただ自分が遊びたいだけだと言うこと?」


 言葉に怒気を含ませ、私はクマを正面から睨みつけた。


 ・・・少し感動した自分が馬鹿に思えた。


 商店街の復興に尽力する純ちゃん、私と同い年なのに必死に頑張ろうとしていた彼女を、私は話を聞いている間、尊敬していたのだ。


 「あ、違います、違いますよ。ちょっと本音が出ちゃっただけです。ちゃんと商店街の会長さんから相談されて、組合で必死に考えたんですから。」 


 慌てて両手を左右に振って、必死にアピールする。そして急にしゅんとなって肩を落としたと思うと、突然床に突っ伏して泣きだす純ちゃん


 「・・・ですが、商店街にはLINKSの皆さんに直接依頼する程の余裕も無い現状。」


 意外に商店街の深い所まで、入っていた純ちゃんに驚く。


 この子の交友関係が若干気になってしまう。


 「ですから、会場の準備は笹岡商店街の方で受け持つので、ゆるっとリンクスの番組企画として来て頂きたいんですよ。LINKSの皆さんは番組からギャラが出て、番組にはロケ地を提供すると言った感じでどうですか?」


 こちらを覗き込むように見上げる純ちゃん。


 言っている事はわかる。会場の準備を商店街でするのなら、番組側としても出費を抑える事が出来、尚且つリスナーとの触れあいの場を提供出来る場所を得られるのだ。


 「いいじゃん、やろうぜ。久しぶりに身体を動かしたいし。」


 「クマさん、グッジョブ。」


 真紀と彩もすっかり乗り気になっている。


 「ちょっと待って、そもそも私達のスケジュールが空いているのかもわからないし、そもそも番組だってまだOKかどうかも」


 「準備もあるから○月○日くらいとかどうでしょうかね?」

 

 純ちゃんが日付を提案すると、坂井さんがジェスチャーで”タイム”と示して、私に向かって”エリさん、スケジュールの確認お願いします。”とだけ言い別室に移動した。


 どうやら番組スタッフ内で緊急会議を行うらしい。


 ・・・ラジオの収録中なのに。


 私は言われた通りに、マネージャにスケジュールの確認をしようと電話をかける。


 「あっ、お疲れ様です篠宮さん。すみません、スケジュールの確認をしたいのですが、○月○日って空いていますか?あっ、はいそうですか、空いている、久しぶりの休日だったんですね・・・・・・すみません、ラジオの方で仕事が入りそうなんです。詳しいことはまた連絡します。はい、失礼いたします。」


 私の電話と別室の会議は同時に終わったらしい。


 ブース内に坂井さんが戻ってきた。


 そして両手で大きな○を作る。


 ・・・あ、OKなんだ。


 「えっと、番組も私達もOKが出ました。」


 「よっしゃーーーー久しぶりに外の仕事だ。」


 「お出かけだ~~。」


 2人が喜びの声を上げる。確かに最近、新曲の収録とか雑誌の撮影とかで中の仕事が多かったから2人が喜ぶのも無理もない。代わりに休日が潰れたけど・・・


 だけど、歓声を上げたのはリスナーさんの方が凄かった。


 「キターーーーー!!生エリちゃんに会えるーーーーー!!ひゃっほう!!」


 雄叫びのような歓声を上げた純ちゃんを筆頭に、リスナーさんのコメントが画面を埋め尽くす。


 「クマ最高!!」 「有給取ります。」 「LINKSに会える!!」 「這ってでも行くので待ってて下さい。」 


 純粋に喜んでくれているのが、凄く嬉しい。


 握手会などでファンの方達と合うことがあっても、皆で遊ぶと言った経験は私には無い。


 それが楽しみであり、少し不安でもあった。


 ・・・・・・あのクマと対面することだけが


 果たして、私は無事にいられるのだろうか


 一抹の不安は、きっと当日になるまで続くのだろうと言う確信があった。


 

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