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ゆるっとリンクス  作者: トモ
特別編 (番組企画 けいどろ)
6/31

路地裏の攻防Ⅲ 3話



 ◆◇◆◇◆◇◆


 路地裏に対峙するのは1人の獣と1人の偶像(アイドル)


 1人は見た目通りのクマの姿をしている純。身につけている着ぐるみの性能が、身体能力以上の力を発揮し、野生の獣じみた動きを可能にしている。


 もう1人は赤のジャージに身に纏ったアイドルの真紀。肩に彩を抱えてて散々路地裏を走り回ったにも関わらず、純の攻撃を一切触れさせていない。


 「聞き間違いじゃなければ、私を倒すと言っていたようですが、このクマさん1号を纏った私に勝てますかね。」


 余裕の現れとも言うのだろう。今まで何度か真紀の攻撃は当たっているのだが、着ぐるみの衝撃吸収機能によって無効化されてしまっていた。


 「さぁな、取りあえずやってみてから考えるわ。」


 真紀は抱えていた彩の背中を優しく叩く。


 「彩、振り落とされないようにしっかり捕まっていろよ。」


 「うん、頑張ってね真紀ちゃん。」


 持っていたバズーカ砲を背中にしまい、真紀のジャージを両手でしっかりと握りしめる。


 その姿は飼い主の肩に、だら~んと体を預ける猫のようにも見える。


 「前から思っていたんですが、真紀さんってアイドルぽく無いですよね。」


 「あはは、わかってるじゃないか、私もそう思う・・・・・・よっ!!」

 

 最後の台詞と同時に真紀が飛び出した。


 姿勢は低く、地を這うようにして瞬く間に純へと接近する。


 「はやっ!?」


 今までのスピードを想定していたのか、急な速度の変化に純は対応出来なかった。


 繰り出す攻撃は空を切り、真紀の左足が鞭のようにしなり、純の右足を捕らえる。


 パーーンと言う衝撃音が響くが、純の身体が揺らぐ様子は見られない。


 「ふん、いくら真紀さんが速くても、速いだけでは意味が無いんですよ。」


 連続で放たれる純の攻撃を紙一重の所で躱し続ける真紀。


 「でもお前も、銃を奪っちまったら終わりだろ。」


 真紀の頭上を攻撃が掠める。そのまま彼女は両手を地面について円を描く。


 彼女の右足が地面スレスレを通り、純の両足を払うように軌跡を描き出す。


 速度は高速、反応出来る人間は限られている。


 だけど、純の着ぐるみは反応した。真上に飛ぶことでその一撃を回避する。


 「隙み~っけ。」


 彼女の言葉に反応して純は咄嗟に銃を守った。予想通りの展開に真紀は口を歪める。


 真紀の狙いは初めから銃ではない。


 純のがら空きになった胸元。一度目は無効化されたが次は前よりも強く”蹴る”


 「ほい、ど~~ん。」


 真紀の軽い言葉と違い対照的だったのは、その衝突音だった。


 まるで、軽自動車が衝突したのような音が響き、純が凄い勢いで後方に吹っ飛んだ。


 左足を突き出した真紀と、受け身も取れず路地裏を転がり仰向けになって停止する純。


 勝敗は決したように見えた。


 だが、突然純の目が今までよりも赤く光り出す。


 「・・・お、お、怒りましたよ真紀さん!」


 がばっと立ち上がり激しく睨みつける純。数メートルは吹き飛ばされたのにピンピンしている。


 「どんだけ優秀なんだよ、あの着ぐるみ。」


 純が突撃を開始する。


 その速度は先程までとは段違いに速い。


 繰り出す攻撃は暴風のように、触る物を吹き飛ばす。


 ・・・しかし、真紀には触れる事が出来ない。


 まるで写真の焼き増しでも見ているのか、2人の行動に違いが感じられない。


 「そもそも私のクマさん1号を吹き飛ばす何て、あなた本当に人間ですか!?」


 「お前、アイドル捕まえて何てこと言いやがる!」


 「真紀さん基準にしたら、世の中のほとんどの格闘家がアイドル候補になるじゃないですか!」


 事実真紀は、常人では目で追えない攻撃になんなくついていっている。 


 「それよりお前、さっきの全然効いてないの?結構強めに蹴ったつもりなんだけど。」


 「効いたから怒ってるんじゃないですか!初めてですよ、私まで衝撃が届いたのなんて、この前原付にぶつけられた時ですら何ともなかったのに。」


 「えっ、お前普段からそれで外出してるの?」


 「悪いですか!?」


 「TPOを弁えろよ。子供が逃げ出すぞ。」 


 「はん、残念でした。子供達は珍しがって寄ってきます。むしろ子供を抱えて逃げ出すのは親の方ですよ。」


 絶え間なく撃ち出される攻撃を避けながら、真紀は思考する。


 彩の射撃を店の看板で防いだ時の、純の言葉を思い出す。


 ”危うくモニター部分がやられる所でした。”


 彩が狙ったのは顔面。言葉通りを捕らえるのなら、目がカメラとなっていて、そこからの映像をモニター越しにみているのだろう。着ぐるみを纏った純の姿は180㎝を超えている。自称女子高生を名乗っているのだ、せいぜい本人はクマの首辺りまでの身長だろうと真紀は推測する。


 (なら、首から上はぶっ飛ばしていいわけだな・・・・・・出来れば集音機能を先に潰したいが)


 純が単独で動くより、その機能を使って連携される方が、泥棒側としては遙かに厄介になる事を真紀は理解している。銃を奪えれば一番いいのだが、怒って攻撃している割には、常に意識の何割かは銃を守る事に割いている。


 「それにしてもお前のその耳可愛いな、やっぱり動かしたり出来るの?」


 「そんなの当然ですよ。この耳は集音機能だけじゃなく、私の操作でほら、この通り。」


 自慢げに語り出す純の操作で、クマの耳がぴょこぴょこ動く。


 その仕草に深読みしていた真紀は馬鹿らしく思えてしまう。


 「悪いな、取りあえず先に謝っとくわ。」


 「何を?」


 訪ね返した純の身体が、突然くの字に曲がる。


 そこには真紀の左足が練り込んでいた。だが、純は素早くその足を掴む。


 「やっと捕まえましたよ真紀さん。これでちょこまかと逃げれませんよ。」


 右脇に抱え込むように固定され、真紀の左足は蹴りの姿勢のまま停止する。


 だが、そんな状態にもかかわらず、真紀は不適に笑っていた。


 「ああ、しっかりと捕まえていろよ。」


 困惑する純をよそに、真紀の両足に力が込められていく。筋肉が張り詰め両足が膨張する。


 違和感を感じた純が慌てて左足を両腕で掴みにかかる。


 「素直な純ちゃんに、私からの忠告だ。」


 彩を抱えたまま、真紀は右膝を僅かに曲げ、その力を爆発させた。


 「!?」


 ただの跳躍だった。


 違っている所を挙げるとすれば、それは圧倒的な速度だったと言う事。


 その行動が純には誤算だった。彼女のカメラは横方向には180度以上カバ-出来ているのだが、縦方向は人間の視界と差がない。それ故、上下に高速で動かれるとモニータには消えたようにしか映らないのだ。


 しかし、真紀の左足が上方向に引き抜かれた事で、彼女が跳躍したことを理解する。


 突如自分の頭上に現れた怪物に、純は反応出来なかった。


 何故なら引き抜かれた時に、既に純の体勢は崩れていたのだ。


 「耳、塞いだ方がいいぞ。」


 真紀の身体が霞むような速度で捻りを加え、力の乗った右足は閃光のような速度を持って、純の耳元で炸裂した。


 ドーーーーーーーーーン!!


 何の抵抗も出来ず、壁に叩きつけられる純。


 そして地面に着地する真紀。


 俯せで倒れふす純に、真紀は襲いかかった。


 狙いは純の右太股に括りつけられた銃なのだが


 「ちょっと待て、幾ら何でもそれは無いだろ!?」


 壁にぴったりと倒れる純の下に、真紀の目当ての銃があったのだ。


 ぶつかった表紙にずれたのか不幸にも、純の巨体をどかさないと手に入らない。


 遠くの方から足音が近づいてくるのを真紀の耳は捕らえた。


 「ちっ、仕方ない。エリーー!」


 完了を知らせる合図を出して、路地裏の中央で中腰に構える真紀。彼女は何かを待つようにエリーの方を見据えた。



 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 ドーーーーーーーーーン!!


 車同士が衝突したような音が響き、私は真紀の勝利を確信した。


 「ちょっと、真紀ちゃんやりすぎだろう!?」


 事故現場を目撃して慌てる武井さん。先程の音から察するに、真紀はちゃんと手加減してくれたみたいだ。


 「真紀は力加減がわかってますから、大丈夫ですよ。」


 喋りながら私はワイヤーを回収し、刀の柄を鞘にはめ込む。


 「本当に君達には驚かされるよ。」


 足音は既に近い。いつ路地裏に姿を見せてもおかしくはない。


 「エリーー!」


 真紀の呼ぶ声が聞こえる。向こうの準備も出来たのだろう。


 それなら私もグズグズしていられない。


 「それでは、武井さん。逃げさせてもらいますね。」


 「そう簡単に、逃げられると思わないで欲しいな。」 


 私は武井さんとは逆、2人のいるほうに刀を射出する。


 一瞬武井さんが困惑したような表情をとり


 「しまった!!」


 急いで私との距離を詰めようとする。


 だけど、武井さんは気づくのが少しだけ遅かった。


 私が射出した刀は真紀が握りしめている。彼女が握るのは柄の部分。唯一プラスチックで出来ていないその場所は、真紀の握力にも耐えられる。

 

 「真紀!!」


 「OKだエリ。彩、体重をかけろー!!」


 「いくよ~~。」


 機械に力負けしないように真紀は全身に力を入れて踏ん張り、彩が重し代わりに体重を加える。


 「くそっ!!」


 伸ばされた武井さんの手が届くより先に、私の手が鞘の下にあるボタンに触れた。


 瞬間、私の体が後方に引き寄せられ、彼の手からすり抜けた。


 高速でワイヤーを巻き取るはずの仕掛けは、真紀と彩の2人に固定され、私の体自体を彼女達の元へと高速で運ぶ。

 

 「あわわわわ。」


 すっ飛んでいく私の体。


 番組スタッフの坂井さんから企画途中の段階で渡されていた為、この鞘で色々遊んでいた時に偶然発見したのだが、体重制限があるのでLINKSメンバーでは私しか使えない。 


 そして何より、凄く怖い。


 「彩、両足を振り上げろ。」


 真紀の言葉に彩が両足を振り上げ、私が押していたボタンを離す。それと同時に真紀が柄から手を離した。私を受け止めるように両手を突き出し、飛んでくる私の体に触れ、勢いを殺しながら自分の胸に私をすっぽりと納めた。


 「2人ともありがとう。」


 真紀に後ろから抱きしめられる形になった私。しかし耐えきれなくなった彩の両足が落ちてきて、私の顔に太股が直撃する。


 「むぎゅ。」


 「ごめんね、エリちゃん。」


 「だ、大丈夫。これくらい。」


 「しばらくこのままでいたいんだが、敵の応援が来たぞ。」


 路地裏に入り込んで来る警察。その数・・・・・・10人!?


 総数の3分の1が此処にいる事になる。いくら何でも来すぎだ。


 「逃げるわよ。」


 「「了解。」」


 戦うつもりは毛頭無い。


 私達は指示された路地を通り、大通りを目指した。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆


 「お~い、純ちゃん。大丈夫?」


 路地裏に倒れた純に、武井は声をかけ続けていた。


 応援に駆けつけた仲間はLINKSを追って追跡を続けている。


 「・・・・・はっ、ここは!?って、あーーーーーーー!?」


 「大丈夫、医療スペースに行こうか?」


 突然の絶叫にたじろぐ武井を、純が手で制止をかけた。


 「・・・・・モニター部分の損傷は軽微だけど、集音機能が死んでる!!」


 真紀の放った一撃は狙い通りに破壊していたのだ。


 「その、怪我とかは大丈夫?」


 「あ、はい。大丈夫ですよ。ちょっと目を回しただけですから」


 純が倒れた原因は衝撃よりも音のほうが強かったのだ。


 「それより武井さん、あの人に勝てそうですか?」


 率直な疑問だった。警察側の方が有利なはずなのに、純は真紀にまともに触れる事すら出来なかったのだ。足を掴んだのにしても誘導されたのにすぎない。


 「刀でなら触れると思うけど・・・・・・カウントされないよね?」


 武井の言った言葉に嘘はない。先程の真紀の動きなら、彼なら刀を使わなくても問題無く触る事が出来るのだ。問題なのは、エリーの言うとおり彼女が本気じゃない所。運動能力もさることながら、彼女は周りを巧みに誘導して自分のペースに巻き込む事に長けている。


 ”食わせ者”


 それが武井の持つ印象だった。


 「手じゃないですから無理でしょうね。」


 「困ったね、エリちゃんと彩ちゃんの2人も侮れないし。」


 「・・・・・・武井さん、私と組みませんか?」


 純の提案に武井は苦笑を浮かべる。


 「元々僕達、同じチームなんだけどね。」


 「そうでしたね。それじゃ、よろしくお願いします。」


 「こちらこそ、よろしく純ちゃん。」


 武井が純の手を取り、巨体の彼女を引き起こす。立ち上がった純は、そのままの姿で停止した。


 まるで誰かの話を聞いてるように、クマの顔が何度も頷いている。


 「どうかしたの?」


 訝しむ武井。


 「ボスからの伝言です。」


 その一言で、武井の表情が固まった。


 「そのまま伝えますね。” 武井君、いい加減にインカムをつけろ ” だそうです。」  

 

 慌ててポケットからインカムを取り出し、それをじっと眺める武井。


 「・・・・・怒ってたかな?」


 「つけてみたら、わかるんじゃないですか」


 純の言葉に緊張が走る。


 武井が警察側のボスと会ったのは二度目なのだが、厳格で厳しい人だと言うのは十分に感じられた。


 そして、何より彼が武井の事を良く思っていないという事も・・・・・


 「はぁ・・・・・・仕方ないか」


 覚悟を決めて手にしたインカムを装着する。


 そして武井は、里中エリ-の父である、里中 源次郎(げんじろう)の指示に従うのだった。  






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