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ゆるっとリンクス  作者: トモ
特別編 (番組企画 けいどろ)
5/31

路地裏の攻防Ⅱ 2話


 



 

 「さて、そろそろ始めようか。」


 一歩一歩こちらに歩みを進める武井さん。所謂イケメンに属する彼は、ただのジャージ姿でさえ様になっていた。スラリとした長い手足に引き締まった身体、短めの髪は茶色く染めていて、右の太腿にはホルスターが巻かれ、警察側の弱点である銃があった。


 ・・・そして腰の所にぶら下げている刀。番組特製のプラスチックの物なのだが、持ち主が達人なので下手をすれば凶器にさえなりかねない。


 「武井さん、どうして此処に・・・。」


 私は左の腰に下げた刀を引き抜く。彼の刀とは違い、脇差しを模しているのか短くて軽い。そして最大の違いは、柄頭の所にワイヤーが繋がれていて、長方形の鞘の側面へと繋がっていることだ。側面に設置されたボタンは2つあり、上のボタンを押せば刀が射出され、下のボタンを押せば巻き取る仕組みになっていた。


 私は左足を下げ、刀を両手で構えて切っ先を彼に向ける。


 「熊の子が君達を追いかけ出したから、先回りしようと思ってね。途中で2階に逃げられてもやっかいだと考えて、上から追跡してたんだ。」


 私の構えに応えるように、武井さんも同様の構えを取る。


 「逃がしてはくれませんよね。」


 勝利条件は逃げ切る事、即ち武井さんをどうにかして、中央エリアに複数あるアジトのどれかに逃げ込むのみ。


 「ごめんね。まさか敵側になるとは・・・これだとドラマと同じだね。」


 ドラマでは直接相対することの無かった私達だが、まさかラジオの企画で戦う羽目になるとは思ってもみなかった。


  

 ■◇■◇■◇■◇■



 エリーの背後では激しい攻防が繰り広げられていた。


 絶え間なく繰り出す純の攻撃はどれも鋭い。


 速射砲のように次々と放たれる一撃は、常人の速度を上回っていた。



 ・・・だけど、真紀には当たらない。 



 左右の軸足を巧みに切り替え、華麗な体捌きで純を翻弄する。


 「ちょっと、真紀さん。可愛いリスナーが必死に頑張っているんですから、少しぐらい当たってくれてもいいじゃないですか!」


 「ふざけんな。こっちは背中に一発貰うだけでOUTなんだよ。」


 他の泥棒役と違い、真紀だけは一発で連行状態にする事が出来るのだ。


 単純に強すぎるからと言う理由で、番組スタッフとLINKSメンバーから満場一致で決まったのだが、彩を抱え、背後にいるエリ-に意識を割いた今でも、彼女は十分に余力を残していた。


 「ふふ~ん。でもいいんですか?このままだとエリちゃんが、また裸体を晒すことになりますが。」


 「阿呆か、あの人の真面目さは半端ないんだよ。役でもなければ、エリの嫌がることなんかしねぇよ。」


 純の軽口に素っ気なく反論する真紀。


 ドラマの撮影期間の間だけという付き合いだが、武井の事は良く知っていた。役柄で自分の好敵手を務めた相手、何度も殺陣で切り結びその度に、剣術ではこの人には勝てないと思わせる程の相手。


 何処までも正道を進み、誠実で誰にでも優しい、完璧超人見たいな人物。それが真紀の武井への印象だった。だからこそ、エリ-は酷い仕打ちを受けても、武井に普段通りに接しているのだろう。


 「・・・少し気に入らないなぁ」


 「何か言いましたか?」


 「いいや、獣は黙ってろよって言っただけだ。ほら、彩も何か言ってやれ。」


 武井が現れてから無言だった彩が、突然真紀の脇腹を鷲掴んだ。


 「・・・・・・」


 「えっ、何だって?」


 「おのれ・・・性懲りも無く、エリちゃんを辱める不埒物めーーー!!」


 「いたい、痛い、痛い、止めて、脇腹は止めて。」


 両の目を見開き、力一杯真紀の脇腹を握りしめる彩。


 普段の彼女からは想像も出来ない程の握力に、真紀の身体が苦悶を訴えるように左右に身悶える。


 怒り状態の彩は目の開き具合でリミッターが外れる。温厚な彼女が怒る時は、彼女の大事な人が傷つく時なのだが、武井はドラマでエリ-を辱めた経歴がある。それ故、彼は彼女にとって倒すべき相手なのだ。


 その姿に気負わされて後ずさる純。折角のチャンスなのに踏み込めないでいた。


 彩は空になっているバズーカ砲の装填を始め、サイドポーチから白の鳥もち弾を取り出す。


 「落ち着けって!お前、それを顔面に当てるきだろう。あの人なら避けるだろうが、万が一当たったらファンに殺されるぞ!」


 「・・・避けられる。」


 装填作業を続けようとする彩の手が止まった。何かを思考するように目を瞑って頭を数回揺らす。そして何かを思いついたのか


 「そうだよね、やっぱり直線だと避けられるから、色んな角度からの攻撃を混ぜないと駄目だよね。うん、ありがとう真紀ちゃん。」


 「え、私そんなこと一言も言ってないぞ・・・・・・」


 すぐさま鳥もち弾をしまい、黒の弾を取り出して装填をする。装填したのはただのゴムのボール。凄く跳ねるので、壁に囲まれた場所で投げると跳弾を繰り返す。


 「待っててね、エリちゃん。」 

 

 照準は直接武井の顔面に合わせない。狙う先はもっと下。


 奇襲を兼ねた一撃で無ければ当たらないのは彼女にも分かっていた。


 2人の距離を計算し、一度跳弾を入れてあくまでも顔面を狙う。


 彩は深く息を吸い込み獲物を狙う狩人のように、チャンスが来るのを待つのだった。



 ■◇■◇■◇■◇■

 

 先に動いたのは私の方だった。


 鋭く踏み込み、番組特製の刀を打ち下ろす。


 その一撃をなんなく受け止める武井さん。 


 互いの刀が十字を描き、刀同士が競り合う。


 力量差は明白で、体格差も酷い。押し合いには持ち込みたくない。


 私は直ぐに刀を引き、彼の懐に潜り込むようにして刀を薙ぐが、より早く、刀を間に差し込まれて防がれてしまう。


 私は流れた体のまま、更に踏み込むように左足を地面に叩きつけ 


 「武井さん、ごめんなさい。」


 そのまま彼の体に、真紀直伝の体当たりをかました。



 ・・・しかし、予想外の事が起きた。



 ドンと言う衝撃音が鳴り、武井さんが体制を崩す事を想定した私だったのだが、実際はポフっと間抜けな音が鳴り、彼の胸に飛び込んだ形になってしまった。


 ・・・お互いの目が合う。


 きょとんとした表情を浮かべる彼に、私はニコッと笑顔を向けてから再度体当たりを行うが


 微動だにしない。


 再び視線を上げ武井さんの顔を見る。彼は困ったような表情を浮かべていた。


 「えへへ」


 もう一度笑って誤魔化し、視線を彼の胸元に移してから真剣な顔になる。


 深く息を吸い込み、両足に力を込めて全力で武井さんにぶつかった。


 (むぅ、動かない~!)


 理由がわからず向きになって何度も繰り返すが、その度彼の胸にポフっと間抜けな音が鳴る。


 「ちょっとエリちゃん、何イチャついているんですか!!」


 「はぁっ!人が真面目にやってるのに、後ろでラブコメ始めてんじゃねぇ!」


 「エリちゃん、なにしてるの!?早く離れて」


 端から見れば、そう見られても仕方が無いのかもしれない。


 だけど私は必死に力一杯ぶつかっているのだ。


 「ち・が・う・の~。本当なら、此処で武井さんがよろめくはずなの~。」


 武井さんの胸元をべしべしっと叩きながら皆に説明をする。


 刀を握った右手も添えて、両手で押して見るが微動だにしない。恥ずかしさと力んでいるせいで顔は真っ赤になってしまっている。


 「・・・・・・その、なんだ、よろめこうか?」


 「気まずそうに気を遣わないで下さい~。」


 優しさが痛い。


 「ちょっと、武井さん。今が捕まえるチャンスじゃないですか、見守ってる場合じゃないでしょ。」 


 「いや、凄く真剣な顔で頑張ってるから、しばらく見守ろうかと思ってたんだけど、捕まえた方がいい、クマ・・・ちゃん?」


 「捕まえて下さい。後、高田 純です、忘れないで下さい。もう、ちゃんと例の物を渡したじゃないですか。」


 「なんだ、名刺でも渡したのかよ?。」


 「私普通の高校生ですよ。名刺なんか持ってませんから、第1回放送の時に送った本を渡しただけですよ。」


 押していた私の手が止まった。


 どうしても聞き逃せない一言に後ろを振り返る。


 「・・・あの本を渡したの、純ちゃん?」


 私の視線を避けるように目を逸らした純ちゃんは、クマの手で自分の頭を掻いてこちらに笑顔で向き直る。

 

 「渡しちゃいました。」


 「この馬鹿グマーーーー!!」


 私は叫び声を上げた。逃げている立場を忘れて

   

 そして、その本を一番見られたくない人が持っていることに気づく。


 恐る恐る武井さんを見る。彼は凄く気まずそうに私の視線を逸らしていた。


 「・・・あの子から名刺代わりにって、本を頂いたんた。ラジオ聞いてたから大体内容は察してるんだけど、見てもいいのか・・・・・・うおっ!!」


 武井さんの言葉を遮るように、私は全力で斬りかかった。


 「見ないで下さい、見ないで下さい。絶対見ないで捨てて下さい。」


 次々と繰り出す私の斬撃を弾きながら、気迫に押された武井さんが後退する。


 「わかった、わかったから、絶対に見ないから。」


 鍔迫り合いになり、互いの顔が近づく。


 私の目は真剣みを帯ていた。


 「すぐに焼却処分して下さいお願いします。」


 「ちょっと、エリちゃん顔が怖いよ。まるで吉祥寺さんが僕を見る目見たいになってるんだけど」


 ドラマの撮影が終わってから、彩の武井さんを見る目は変わった。こう、なんと言うか軽蔑するような冷たい目つきだった。そのせいで、最初は彩ちゃんと呼んでいた武井さんは、今では吉祥寺さんと呼んでいる。


 「取りあえず落ち着いて、ねっ。頂いた物を捨てるのは出来ないけど、見ないように箱に入れて保管して置くから」


 それも嫌だけど、元々武井さんに非は無いので、これ以上困らせるのも悪い気がする。


 私は気持ちを落ち着かせた。


 「わかりました。でも絶対に見ないで下さいお願いします。」


 「約束は守るよ。・・・だから、そろそろあの子のお願いも聞かないとね。」


 言い終わると同時に・・・私の刀が消失した。


 「えっ!?」


 「捕まえさせてもらうよ。」


 上段に構えている武井さんに違和感を感じた私は、彼の更に上を見る。


 そこには無くなった刀が宙に舞っていた。私の鞘から繋がるワイヤーが伸びる。


 一瞬だった。


 私が気づくよりも早く、刀を巻き込み上空に跳ね上げていたのだ。


 迫る武井さんの手から逃れるように私は、後ろに飛び退く。


 更に迫る彼の手が、鞘から伸びるワイヤーの対角線上に入った。


 (今だ!!)


 私は鞘に設置された下のボタンを押す。高速でワイヤーが巻き取られ、上空から刀が武井さんを目がけて襲撃した。


 その一撃を、彼は瞬時に判断する。


 高速で巻き取るワイヤーを左目で捕らえ、踏み込んだ足を後ろへと跳ね上げる。


 「危なかった、紐みたいなのが付いていると思ったらその為か」


 避けられた。


 完全に奇襲だったのに。


 だけど次の瞬間、私の開いた足元で何かが跳ねる音がした。


 高速で迫る黒い弾が、下から突き上げるように武井さんの顔面に目がけて迫る。


 それは、私の背後で狙っていた彩が、跳弾を交えて放った弾だった。


 視覚外から繰り出した奇襲の二連撃。


 迫る弾を目前に武井さんの姿が霞んだように映る。刀を振り下ろした体勢で止まる彼、その背後で2つの音が同時に鳴る。


 商店街の建物と電柱に同時にぶつかったソレは、彩が放った黒色の弾だった。


 「嘘、切ったの!?」


 武井さんはプラスチックの刀で切ったのだ。


 私は直ぐに彩の方に振り返る。彼女は既に装填を完了していて、更に弾を1つ上空に放り投げていた。


 「彩、お願い。」


 「了解。」


 しゃがんで彩の射線を塞がないようにして、私は刀の柄を鞘にはめ込む。


 一方武井さんは正中線上に刀を突き出し、次の攻撃に備えていた。

 

 発射される弾が、左右の壁に跳弾して武井さんに迫る。そして、彼に届くよりも早く、私の背後で再び発射音が響く。


 空中に投げた弾を彩がそのまま装填して、連続で撃った音だった。


 時間差で迫る2つの跳弾。それを武井さんの目が左右に鋭く追い、刀の間合いに入った瞬間。彼の姿が再び霞む。次の瞬間には弾が2つに切り裂かれて壁にぶつかる。


 だけど、此処まではこちらも想定済み。


 その直後に私の刀が彼を襲う。射出した刀は直線に飛び、薙ぎ払った姿勢で停止する彼に目がけて突き進む。


 「よっと。」


 それを危なげなく、柄頭の部分で弾く武井さん。


 「・・・どんな、動体視力してるんですか武井さん。」


 動体視力もそうだけど、そもそも高速で飛んでくる弾を、刃の付いてない刀で切り払うなんて反則すぎる。


 「えっ、普通だと思うけど。」 

 

 刀を構え直して間合いを詰めようとする武井さん。改めて、真紀がヤバいと言った意味を理解した。彩の射撃と私の連携では止まらない。


 この人は止めたければ、真紀を正面からぶつけないと無理だ。


 しかし、彼女は純ちゃんに足止めされている。


 駄目だ、このままではゲーム開始して10分と経たず捕まってしまう。


 「種ぎれかな?」


 やばい、一番奥の警察エリアで捕まったら、このメンツだと絶対に助けられないまま終了する。


 「そろそろ、応援も来るだろうし、年貢の納め時だね。」

 

 私達3人は警察エリアにいるのだ、中央エリアに散らばっていた警察もこっちに向かってきているのだろう。本気でやばい。


 「・・・・・・・」


 そんな時に、私のインカムに声が聞こえた。


 「・・・聞こえますか、エリ姉さん。」

 

 「誰!?」


 突然耳元で聞こえたその声は、初めて聞く声だった。

 

 声色から察するに男の子で、年はそんなに離れていないように思える。だけど、私の事をエリ姉さんと呼ぶのはリスナーにもいなかったはず。


 「時間が無いので、要件だけ伝えます。中央エリアは完全に封鎖されているので、武井さんは無視してください。」


 聞こえてくる声に私は静かに頷く。


 今は従う他ない事はわかっている。この人は少なくとも私達より情報を持っているのだ。


 「皆さん、クマに襲撃されて見逃してましたが、あいつの後ろに表通りに繋がる細い道があるので、そこを通って警察エリアにあるアジトに逃げ込んで下さい。」 


 「・・・つまり、アレを倒せという事?」


 「はい、どうも人間離れしているようですが・・・・・多分、あの人なら大丈夫でしょ?」


 「あはは、そうですね。情報ありがとうございます。」


 私は彼に感謝した。


 そしてLINKSのリーダ-として、彼女に指示を出す。


 「真紀」


 若干私怨の入った声に真紀がこちらに振り向く。私は親指を立てて、そのまま下に向ける。


 「そこの馬鹿グマを、ぶっ飛ばして。」


 言葉通りの意味を受け取る、LINKSの問題児。 


 「OK、リ-ダ-。」

 

 そう答えた真紀の顔はとても楽しそうに笑っていた。


 規格外にはこちらも規格外で対抗する。リスナーの問題児VSLINKSの問題児。


 私達は頼れる親友に命運を託したのだ。、










 

特別編はアクション多めです。

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