表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるっとリンクス  作者: トモ
特別編 (番組企画 けいどろ)
4/31

路地裏の攻防Ⅰ 1話

特別編開始です。



 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・何で、何でこうなるのよ。」


 乱れる呼吸を整える事も出来ず、私は懸命に足を走らせていた。ポニーテールの髪を左右に揺らし、人より狭い歩幅を回転数で補うことで、逃げるように駆け抜けていく。足を踏み出す度に左の腰に下げた刀がガチャガチャとなって非常に鬱陶しい。


 「いいね~。この追われているって感じ、アウトローぽくってさぁ。」


 私の横を併走する真紀は、彩を肩に担ぎ屈託の無い笑顔をこちらに向けている。


 「エリちゃん、真紀ちゃん。来てる、凄い勢いで追って来てるよ~。」


 何度も真紀の背中を叩いて警告をする彩。


 ・・・わかっている。私を呼ぶ合成音は、近づいてきているのだから。


 私達が走っているのは、商店街の表通りから1つ中に入った路地裏。幅3メートル程の路地裏は、住宅街と商店街を隔てるように塀が建てられ、商店の裏口が幾つも並んでいる。


 そんな場所を、現役のアイドルであるLINKSの3人が、赤のジャージ姿で全力で駆け抜ける。


 「いや~、やっぱ強行突破は無理だったな。」


 朗らかに笑う真紀は、人1人担いで走っているのに全く息が上がっていない。


 「だから偵察って言ったでしょ!何でいきなり警察側の本陣に突っ込んでいるのよ。」


 「ほら、宣戦布告って大事だろう。LINKS参上みたいな。」


 「LINKS惨状になってるでしょうが、それに、あんな野生のお土産を連れて帰ってくるな!!」


 目が合った瞬間、彼女は瞬時に標的を私に定めて、執拗に狩りを開始したのだ。


 大勢に囲まれそうになっていた私達は、撤退を余儀なくされて路地裏に逃げ込み、今も全力で逃走している。


 互いの距離は徐々に縮まり、最早耳を澄ますまでも無く聞こえてくる。


 「エリちゃあーーーーーーーん!!」


 「いやぁあーーーーーーーーー!!」


 背後を振り返ると、そこには変態(じゅんちゃん)がいた。


 二足歩行で全力で迫る野生のクマ。着ぐるみを着ているはずなのにその速度は、私の全力疾走より速い。


 「追いつかれるーーー!!」


 私の左耳に装着したインカムには、仲間からの救援を知らせる連絡は入ってきていない。そもそも開始そうそう、敵陣深くに切り込んでいる馬鹿は私達をおいて他にはいないのだろう。


 「彩、お前射的得意だろう。その銃で撃て」


 彩の背中には番組特製のバズーカ砲が括りつけてあった。弾は2種類用意されていて、1つは白色の鳥もち弾、粘着性が非常に高いのでしばらく動きを封じる事が出来る。もう1つは黒色の弾だった。既に一発は鳥もち弾が装填されていて、腰に下げたサイドポーチに予備の弾が収納されている。


 「でも、人に向けて撃っちゃ駄目だよ。」

 

 「お願い彩。撃って。」


 恐らく毛皮の部分に遮られるのだろうけど、少しの間でもいいから足を止めたい。


 泣き出しそうな私の顔を見て、彩が少し困った顔で承諾してくれた。


 「う~ん。わかった、やってみる。」 


 「あや~、ありがとう。」


 「真紀ちゃん、両手で私を固定して、なるべく揺らさないように走って。」


 「了解。」


 バズーカを構えた彩は片方の目を瞑り、上下に揺れる振動に合わせて浅く呼吸を繰り返す。何度も何度も、揺れる照準が自分のイメージした場所を通過するタイミングを計るように。


 照準が狙う先は頭。


 胴体だと命中しても効果が薄く、足先は常に動いている為狙いにくい。頭なら足先に比べて動きは少なく、なにより目が潰せる。


 揺れを完全に掴んだ彩は、一度深呼吸をして


 「ごめんね、クマさん。」


 そう呟き、引き金を引き絞った。


 発射音と共に撃ち出された弾は、標的を目がけて一直線に飛んでいく。元はただの玩具だけど、番組スタッフの坂井さんが魔改造を施したせいで、その速度は高校球児のストレート並に速い。


 周りは壁と塀に囲まれ、オマケにあの被弾面積、まともに避けれるはずは無い。


 狙いは完璧だった。


 僅かなズレも無く、弾は標的の眉間部分に吸い込まれるように飛んでいく。


 しかし、放たれた弾は空を切った。


 「嘘!?」


 先程までいた場所に純ちゃんの姿は無かった。狭い路地裏なのだから見逃すはず無いのに、そこには誰もいない。


 「建物の壁だ!」


 建物に視線を向けるとそこには、自らの四肢で強引にコンクリートの壁を鷲掴み、蜘蛛のように張り付く純ちゃんの姿があった。


 彼女は上空から獲物を狙うように私達を見定める。今までTVで色んな熊を見てきた私だけど、商店街で出会ったこのクマが一番怖い。

 

 彼女が四肢に力を込めると、コンクリートがミシミシと悲鳴をあげる。


 「速すぎるよ~。」


 泣き言を言いながらも次段を装填しようとする彩。グリップ部分の上に設置されたボタンを押すと、ガシャンと言う音が鳴り砲身の部分が折れる。私は素早く彼女のサイドポーチから白色の弾を取り出して手渡す。


 装填を完了した彩が砲を構えるのと、純ちゃんが跳躍を開始したのは同時だった。


 彩は直ぐに着地地点に狙いを絞り、着地と同時に迎え撃つように照準を合わせようと動く。


 その直前、不自然な破壊音が響いた。


 落下する純ちゃんの手には、いつの間にか幅1メートル程の白い板のような物が握られていた。


 着地よりも僅かに早く、二度目の発射音が響く。


 高速で迫る鳥もち弾が、純ちゃんの着地と同時に襲いかかったのだ。 


 回避不可能なタイミングで迫るソレを、彼女は見越していたのか手に持った板を盾のように前方に叩きつけた。


 バーーーンと言う衝突音が響き、鳥もち弾が炸裂した。


 「危ない、危ない、危うくモニター部分がやられる所でした。彩ちゃん射撃がお上手なんですね。」


 べっとりと鳥もちが着いた板を路地裏に放り投げる。板は店の看板だったのか、見える部分から想像すると ”クリーニング しまたに ”と書かれていた。


 遠ざかる私達に彼女は再び追跡を開始する。


 「いいですね、今日のエリちゃん。逃げる姿にポニーテールが揺れて ”私を追いかけて ”と言わんばかりですよ。まぁ、警察(わたし)泥棒(エリちゃん)を追いかけるのは義務なので、捕まえた後にたっぷりと尋問してあげますね。」


 「おかしい、絶対におかしいよ。何で犯罪者(じゅんちゃん)が警察役で、私達が泥棒役なのよ!」


 「ゲームの配役はくじだったろう。私達は最初から泥棒だったけどさぁ。」


 私達が今やっているゲームは ”けいどろ ”地域によっては ”どろけい ”とも呼ばれ、様々な地域独自のルールが存在する。警察側と泥棒側に分かれて遊ぶ一種の鬼ごっこ見たいなものだ。警察は泥棒の背中に3回タッチすることによって、泥棒を連行し牢屋と決められた場所に収監することが出来る。泥棒側は警察から逃げ回り、連行状態の仲間や収監状態の仲間に触れて助ける事も出来る。そして警察側は泥棒全員の捕縛、泥棒側は時間内を逃げ切れば勝利となるのだ。


 そして今回のけいどろは、これらのルールを元に色々と改造されていた。


 やっている事は小さな子供達の遊びなのだが、そこに大人達が加わると規模がまるで違うようになる。


 今回のゆるっとリンクスで企画されたけいどろは、商店街を丸々貸し切って警察側30人対泥棒側20人で行われているのだ。” 笹岡商店街に活気を ”を合い言葉に、色々な人達の協力を得て、今回の大規模けいどろが実行されているのだ。


 「エリちゃん、真紀ちゃん、急いで。」


 後ろを見ながら運ばれる彩には、互いの距離がどれだけ縮まって来ているのがわかるのだろう。真紀のストレートの髪がぺちぺちと叩かれている。


 「いっその事、あいつの銃を奪ってゲームから退場させるか?」


 真紀の言っているのは追加した特殊ルールの事だ。警察側は身体のどこかに銃を所持する決まりになっている。その銃を泥棒側が奪えば、ある条件下が成されるまでゲームから強制的に退場させる事が出来るのだ。


 後ろを振り向いて確認すると、純ちゃんは左の太ももにホルスターが巻かれていた。


 「嫌、絶対に近づいたら襲われるもん。それに、あの速さだよ、真紀ぐらいしか対応出来ないよ。」


 聞こえないように声を小さくしたつもりだったのだが


 「だから、彩ちゃんを抱えている今がチャンスなんですよ。」


 突然の声に慌てて振り向いた私は、距離が未だ開いている事を確認する。


 「私の着ぐるみ、凄く集音機能がいいんですよ。皆さんの声質は開会式の時に改めてデータを更新させて頂いたので、屋外なら30メートル先からでも拾えます。」


 「「「 何その機能!? 」」」


 「それに、ホラ・・・」 


 走りながら私達に手に持ったコンクリートの欠片を見せつける。そしてそれを握りしめ、いとも容易く粉々に握り潰した。


 「ねっ」


 「「「 ねっ、じゃない!! 」」」


 「凄いでしょ、色んな機能がついてるんですよ。身体能力も常人以上に出せますし」


 コンクリートを素手で握りつぶせる常人はいない。


 つまり見かけ通りの熊が私達の背後に迫っているのだ。


 純ちゃんは両の足に力を込めて、一気にそれを爆発させる。


 見る見るうちに私達の距離が無くなっていく。


 「まずは邪魔な真紀さんを捕まえて、それからじっくりと2人を捕らえさせて頂きますね。」


 そう言うと真紀と彩に飛びかかる純ちゃん。


 「彩、口を閉じてろ。」


 鋭い真紀の一言に彩が口を閉じた。


 走っていた足を止め、迫り来る純ちゃんに向けて真紀が鋭く反転する。


 次の瞬間、純ちゃんの胸の辺りで重い衝突音が響いた。


 高速で放たれた真紀の右後ろ回し蹴りが、彼女の胸元を捕らえた音だった。


 「ごふっ」


 蹴り飛ばされた胸を押さえて、地面に着地する純ちゃん。


 そんな彼女に向かって、真紀は手招きをして挑発をする。


 「いいぜ、かかってきな、私が相手をしてやる。」


 蹴られた胸元は痛くないのか、立ち上がった純ちゃんは不適に笑っていた。


 「真紀さん、まさか警察の本陣前にいたのが、私だけだと思っていませんか?」


 「そもそも私達の足についてこれてないじゃないか。それにいたのはリスナーとお前ぐらいで後は・・・・・・・!!」


 何かに気づいた真紀の表情が変わる。


 「薄情ですね真紀さんは、あの人の事を忘れているなんて」 


 「ヤバイ逃げるぞ、流石に部が悪い。」


 状況が飲み込めていない私達には。事態の深刻さが分からなかった。


 そんな時、私達の前方に位置する場所。商店街の2階へと続く非常用の階段に音が鳴り響いた。


 カーン・・・・・・カーンと響く音に連続性は無く、駆け抜けるように降りてくる足音。


 そして足音は階段の折り返しで止まり、その人物は手摺りを飛び越えたのだ。降りる時間を短縮させたかったのだろうが、それでも地面までは2~3メートルの高さがある。


 軽やかに跳躍をした彼は、その高さを驚くことに無音で地面に着地したのだ。


 後ろには純ちゃん、前には彼、私達は挟撃される形になってしまう。


 「まさか、開始そうそう君達の方から攻めてくるとは思わなかったよ。」  


 警察側の着用指定である、青色のジャージを身に纏った彼は、ゆっくりと立ち上がる。


 「いきなりで悪いけど、僕も警察側だから皆を捕まえさせてもらうよ。」


 「「「 武井さん!? 」」」


 私達3人の前に現れたのは、ドラマで共演した役者さん。武井正義(たけいまさよし)さんだった。

 




次回の投稿は来週の中頃になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ