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愛する人は桜色に  作者: Halka
愛する人は桜色に
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感情

私はある日、不思議な人に出会った。


多分私と同じくらいの年齢なのに、私よりもずっと背の高い男子高校生。

風で飛んだブランケットを上着が脱げてまで必死になってとってくれたり、いきなり名前を聞いてきたり、よくわからない子だ。

よくわからないのに、彼の目を見ると落ち着く。思わず自分の病室にまで誘ってしまった彼は、神谷くん。

神谷くん自身もなにか、ずっと悩んでいるみたいな顔をして、でも毎週のように私の部屋に来てくれて、一緒に遊んでくれる。

友達のいない私の、初めての知り合いだ。

彼が私のことをどう思ってくれているのかはわからない。顔見知り?たまに話す人?それとも、友人?

嫌われてはないみたいだけど、いつも悩んで顔の暗い彼の気持ちは、本当にわからない。ゲームをしていてたまに見せる笑顔は素敵だけど、やっぱり感情は読み取れない。


私は10歳の時に病気を発症した。小学校で体育の時間中急に倒れたことで発覚したそれは、筋肉が麻痺してしまうもの。足や指から始まった麻痺は、どんどん体を侵食し、やがて呼吸器官や心臓が麻痺して死ぬ。治療方法がほとんど確立されていないことから、不治の病気と恐れられた。私はこの病気の、治療薬の治験を行っている。

副作用も強くて、四六時中寝たきりなんてこともたくさんあるし、苦しい。

苦しい、苦しい、苦しい。

死にたい。

治験を了承したのは叔母だ。私は薬が投与されるまでそれを知らなかった。まあ、知っていたとして何もできないし、拒否する理由もない。死ぬために病気を発症し、今まで生きてきた私の命なんて、なんの役にも立たない。もしそれで私のように病気を発症した人、私よりも優れた人を救えるのならその方が何倍もいい。死にたい。

私、櫻庭ミナクはそう思っていた。


その気持ちの流れをほんの少しだけせき止めてくれたのが、神谷くんだった。

私のために病院に通ってくれている彼は、まるで学校の友達と話すように私と話してくれる。その声は、日々の苦しみを追い払ってくれる。暖かい色をした瞳は、私の心を押しつぶす氷を溶かしてくれる。不思議な、素敵な少年だ。

こういう感情を、好きというんだっけ。

ひとりの病室でたくさんの本を読んできた私は、ふと考えた。

いや、そんなはずない。

きっと、今まで同年代の人と関わってこなかったから、心がびっくりしてるだけなんだ。

好きという感情を知らないから、勝手に勘違いしているだけ。

だって、神谷くんが私のことなんか、好きになるわけないし。

こんなに病弱で、ずっと部屋にこもっていて、コミュニケーションの取り方も知らない。

神谷くんは、私なんかに構っちゃいけない。


気づけば櫻庭ミナクは、涙を流していた。

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