長い1週間の中の、短い楽しみ
学校ほど、めんどくさいものはない、と思う。
大人はいいな、学校に行かなくてもいいんだから。
まあ、高校だって義務教育じゃないから行きたくなければ行かなくてもいいんだけど、それでは保護者に怒られてしまう。
"学校に行きなさい"。その言葉が、何人の子供を束縛しただろうか。学校なんて意味のないものはなくなってしまえばいいんだ。
高校に入った僕は、はっきり言ってひどかった。
入学生の半分は附属中学からのエスカレーターで上がってきた中学入学組で、そのお仲間の話に入れる高校入学組はほとんどいない。かといって、その高校入学生で集まっているかといえばそうではなく、皆バラバラに遠くから、羨ましそうに中学入学組の会話を見ているだけなのであった。例外はなく、僕も。
推薦で入ったとはいえ、周りのレベルも同じか、上か。
授業の進み方は中学とは比べ物にならないくらい速く、理解が追いつかない。そこのところ、中学入学組はそのスピードに慣れているので、どんどん差が開く一方。
高校入学組は、昼休みは毎日大きな図書館へ、塾にも通いながら必死に勉強する。こんなのじゃ、あと3年なんてとても耐えられない。
そんな、ほとんど勉強で生きている僕のたった1つの生きがいは、1人の少女だった。
櫻庭ミナク。歳は聞いたことがないが、たぶん僕と同い年、とても綺麗で、絵が上手くて、病院で暮らしている。
病気で総合病院の一室に入院中で、1日のほとんどをベッドの上で過ごす彼女が、僕の生きがい。
ミナクの笑顔は、すごい。単純と言われるかもしれないが、とてつもなく可愛い。見た人みんなをメロメロにし、僕に元気をくれる。
時には塾や、学校での愚痴を聞いてもらい(だいたい途中でミナクが寝てしまう)、一緒にテレビを見たり(出てくる芸人よりミナクのツッコミの方が鋭い)、一緒に絵を描いたり(僕の絵が下手すぎて、ミナクの絵がうますぎてバカにされる)。
塾で忙しいのであまりしょっちゅうは行けないが、それでも、顔を見ただけで、もう1週間、学校へ行ってもいい気分になる。
僕はミナクが好きだ。出会ったその瞬間から、好きだった。一目惚れとかしたことなかったけど、一目惚れなんてありえないなんて思っていたけど、本当に、本当の本当に、一瞬で惚れてしまった。不思議だった。