愛する人を守るため
「おっはよー、かーみん! 昨日はごめんねー、怒らせちゃったみたいでぇ」
なんと。ミナクの考えた作戦を実行に移すため、ナントカさん改め、鈴宮を駅まで引っ張り出そうと声をかけようとしていたところだったのに。まさか向こうから声をかけてくれるとは。
「……なあ、日曜日、予定空いてるか?」
さりげなく、悟られないように。
「ん? 日曜日ー? なんでかーみんがそんなこと聞いてくるわけ?」
「ちょっと、話したいことがあって。大事な、話」
ミナクに言われた通り、誘うだけだ。
「わっ! デート?!」
「__は?」
まさか作戦がばれたのか。
い、いや、こいつは僕に彼女がいることを信じていないはずだから……ということは、
「私をデートに誘ってるの? やったぁ〜! じゃあ特別に、日曜日の予定を開けてあげよう。ま、大した用事じゃなかったからいーけど」
そう言ってスマホのカレンダーアプリを操作する鈴宮。
そうなるか。こいつ何考えてるんだ。
僕は鈴宮に告白した記憶はないんだが。もしかしてこの人の脳内では「男と出かける=デート」になってるのか? 馬鹿にもほどがあるだろ。
「あ、いや、デートじゃなくて」
「え? 違うの? デートじゃないなら行かないよ」
どういう神経してんだよ。どれだけデート行きたいんだよ。頭の中腐ってそうだし。
でも、今ここで待ち合わせを取り付けなければ、計画が水の泡なんてこともあり得る。
「で、デートなの? デートじゃないの?」
嘘をつくしかないのか。
でも、ミナクなら、ストーカー行為をやめさせるためならなんでもやるだろう。僕はミナクを守る、と約束したのだ。
「わ、わかった、で、デートってことで」
僕は、家族を守るために嘘をついた。正直、デートという言葉を使いたくなかった。まだミナクをまともに誘ったことがないのに、ストーカー女を誘うために使う言葉じゃないのに、と思ったから。
「うむ、それでよしっ! 何時にどこ?」
なんだか満足した様子の鈴宮。なぜデートにこだわるかはわからないが、まあ、約束はできそうだからよかった。
「○○駅に、1時で」
「りょーかい! 遅れないでね、かーみん!」
なんか、嫌な感じ。
この場面を他の人に見られてなくてよかった。
日曜日。決戦の日は、やってきた。
鈴宮が待ち合わせ場所、駅のベンチに来たら分かるよう、近くのファミレスで昼食をとりながら待機する。
「うまくいくといいな。家までついてくるような気持ち悪いストーカー女なんて、即警察でもよかったのに」
「……おばさんに迷惑かけたくない」
もし警察が事情を聴きに家に来たら、誰だって不快な気分になるし、できれば自分が招いた問題は自分で解決したい。相談はしておいたほうがいいと思ってストーカーされたことは話しておいたのだが。
「ねえ光希、家の特定って、プライバシーの侵害にならないの? 十分迷惑な行為だけど」
「……どうなんだろ」
12時にこの店に入ってからもうすぐ1時間が経つ。待ち合わせ時間が近づくにつれて、僕とミナクの間に緊張が走る。
まだ、鈴宮は来ていない。
「遅いね」
「……あそこにいるの、鈴宮、かな?」
「え? いた?」
「顔はあいつっぽいんだけど、なんかいつもと髪型違う……」
「連絡先あるんでしょ、確認すればわかるんじゃない?」
そう、一昨日の夜に発見したあいつのID。どうやら勝手に登録申請されていたらしいのだ。もちろん許可していなかったのだが、待ち合わせには必要、と言われて許可してしまった。
『もう着いた?』
試しに送ってみる。ベンチに座った女が、スマホを開いた瞬間に、メッセージに既読がつく。
『着いたよー、今ベンチに座ってる』
即座にメッセージが返ってきた。女は、辺りをキョロキョロしている。
「本人、みたいだね。じゃあ行こっか」
「うん」
『あとちょっとで着く』
と返信してから、お会計を済ませるために僕らは席を立った。
「よし、行くよ。ほら光希、手繋いで」
「は、はい」
手を伸ばすと、ミナクの温かい手が触れる。
顔が熱い。
ここで照れてる場合じゃないってのに。
ミナクの細い手をそっと包むと、ミナクの手も僕の手を握り返した。隣にはミナクがいて、突然、ひとりじゃないんだ、思って安心する。
「やっほ、かーみん!」
僕の姿を見た鈴宮が、こちらに手を振って、ミナクの存在に気づいて固まった。
「 …………この女は誰? デートじゃなかったの? 大事な話じゃなかったの?! かーみんは私のかーみんじゃないの?!」
僕の彼女です、デートではないです、大事な話です、『私のかーみん』ってなんだよ。
頭の中で全ての質問に答える。
「こんにちはー、光希、この人知り合い?」
やたら演技の上手いミナクがとぼけて聞く。
「なによ、下の名前で呼んで。かーみんは私のボーイフレンドなんだけど。あんた一体何者?」
え、ちょっと待って、いつから僕はきみのボーイフレンドになったのかな。
「え、私が光希の彼女、ですけど? あなたこそ、誰ですか?」
「かーみん?! これどうゆうことなの? 手なんか繋いで。この女とどうゆう関係?」
「関係……。恋仲、だけど?」
鈴宮は怒って、驚いて、ミナクを睨んで、唖然としている。思った通り。
「まさか、ほんと、だったの? 彼女いる、って……」
「君が勝手に信じていなかっただけだろ」
その後いろいろ、言われたことに言い返しているうちに、鈴宮は怒って泣きながら帰ってしまった。
ミナクの繋いでいない方の手がずっと震えていて、殴りたいのを必死にこらえているのがよくわかった。
「これで良かったのかな……」
「よかったかどうかは、わからない。でも、やれることはできた気がする」
本当は殴りたかったんでしょ、とは聞かなかった。
「せっかく駅に来たし、このままどこか出かけようよ」
なんだか暗い空気になってしまったので、僕は初めてミナクと、電車に乗ってのデートをすることにした。
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