怒りと愛は裏表 (ミナクver.)
「よし、私も学校行かなくちゃ」
光希が出て行ったあとの玄関を見つめること30秒。我に返って時計を見た私は、元気を出すためと目を覚ますために頬をぱんぱんっと叩く。
「いってらっしゃい、気をつけてね、ミナク!」
おばさんからお弁当を受け取り、リュックの中に綺麗に収める。
「はーい、行ってきます!」
「あれ、ミナクちゃんだ!おっはよ!」
道の途中で声をかけてきたのはクラスメイトの中江さん。向こう側の歩道にいたのにわざわざ信号を走って渡りながら、大きく手を振ってきたので振り返そうと手を挙げる。
いや、あんまり親しくない男子に手を振ったらそうゆう関係とかに見られるかなぁ。私にはもう大事な人がいるんだけど…。
いろいろ考え直して手を挙げるだけにとどまる。
「今日も元気そうだね!学校にはもう慣れた?」
声も高いし喋り方もちょっと馴れ馴れしいし、悪い人じゃないんだけど。上手く言い直すとすると……女子っぽい?
相変わらず、彼はワイシャツをズボンから出してネクタイを緩めるというだらっとした制服の着方。彼は自分自身はこういう格好が好きなんだろうし、それを否定することはないしほとんどの女子は彼のことをかっこいいと思っているらしいので否定できない。
(こうゆう場面で否定したら女子から嫌われたり悪口言われたりで大変らしい)
けれど、私はこの人より光希の方がタイプだし、光希は制服をきちっと着ていてかっこいい。こうやってわざと緩く演じる人を見るといつも、なんだかなぁと思ってしまう。
「うん。最初の頃は不安だったけど、少しずつ慣れてきた」
たった今再び不安になったところだけどね。
そう言うと中江さんは手を合わせてにこっと笑った。
「そっかぁ、よかった!うちの学校の制服もすごく似合ってるし!ミナクちゃん美人だからなんでも似合うね」
周りから女子の視線を感じる。やばい。
「なな、何言ってるの、そんなことないよ。えっと……中江さん」
なんて呼べばいいのか、なんて呼べば睨んでいるあの辺の女子に恨まれないかを点6つの間で模索した結果、シンプルで馴れ馴れしくない"中江さん"に辿り着いてふうー、と胸をなでおろしていたのだが、
「さん付けなんかしなくていいのに。僕のことは祐也って呼んでね、ミナクちゃん」
それをぶち壊しやがったこの空気読めないキザ男。"ミナクちゃん"とか気安く呼ばないでよね。
あ〜!だめだ、周りの女子の視線が次々に私の体に突き刺さるどころか貫通して痛いっ!これどうすればいいの?どうすればいいの?こいつさっきから『呼んで!』みたいな目をしてこっちを見てくるんだけど。
「わかった……ゆうや……くん」
死ぬー、だめだー。もう睨まれてる!なにこのクソブス女、私たちの中江祐也を横取りすんじゃねえって顔で睨んでくる!
ちゃんと"くん"って付けたけどだめなの?そんなにこの男が大事?
視線は止まらない。
これあとで教室で囲まれるやつだ。その時は正直にこいつに興味ないということを告げなければ。
「なあ、ミナク、ちょっと聞いてくれない?」
「どうしたの、光希。イラついてる顔だね」
「それがさあ、__」
夕御飯を食べたあとに光希が切り出した話。どうやら彼に付きまとってくるうざい女がいるということ。「かーみん」とかいう理科の実験で使う染色液のようなあだ名をつけてきて、さらに自分のことは名前で呼べと強制してくるということ。
「へーえ、それで今日光希は機嫌が悪かったのかー納得納得ー」
ひどいよ、私以外の女に構ってるなんて。私のいないところで。
「光希、だめだからね」
テーブルの向こう側から体を乗り出して光希を睨んでみる。ちょっとは動揺するかな。
「え、なにが?」
あ、効果なかった。
「……なんでもない」
それどころか私が何に向かって怒っているかにも気づいてない?
ひどいよ。私の好きな気持ち、たとえそれが怒りに変換されてても、届いてよ、光希。




