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愛する人は桜色に  作者: Halka
君の笑顔は向日葵で
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新しい生活

「神谷く……じゃなくて光希っ!起きてっ!朝だよー!!」


私は部屋に入って、ベッドの上で寝ている彼を無理矢理起こす。いつも見るこの少年の寝顔は実際の年齢より幼く見えて、かわいい。

神谷家と櫻庭家が一つ屋根の下で一緒に暮らし始めて早5ヶ月が過ぎた。未だにこの1歳年下の少年を名前で呼ぶことに慣れていない。1ヶ月前くらい、彼の方から言い出したのだ。同じ家に住んでるしもう家族だし、なんでまだ名字でしかも「くん」付けで呼ぶのか、と。

もちろん、それ自体が嫌なわけじゃない。最初は名前で呼ばれることを嫌っていたはずなのに、と聞き返すと『ミナクになら嫌じゃない』だなんて恥ずかしい言葉をストレートに言ってきたんだから。もっと使う場面考えなさいよ、神谷、じゃなくて光希は。


「んにゃ、む」


ほっぺたをつねってやるとようやく夢から出てきたらしい少年は枕を抱きしめるように抱えて寝返りを打った。


「何、ニーアみたいな声出して。学校遅れるよ!」


ニーアというのはこの新しい家で飼っている猫だ。それは私が病気のころにスケッチしたあの三毛猫で、おばあちゃんに、病気が治った祝いだからと頼んで飼わせてもらっている。

おばあちゃんは、私にあれだけ病気を治せと言っていたはずなのに、全然喜んでくれなかった。それどころか、退院するまで一度も私の病室に来なかった。


「あと3、いや5分…」


まだ半分夢の中らしい光希が呑気なことを言っているみたいだから、ムカついて枕を奪い取る。


「じゃあ光希の分の朝ごはん食べちゃうけどいいの?」


この言葉は魔法である。私に負けず劣らず食いしん坊な光希は、毎日朝ごはんをしっかり食べてから学校に行く。それを食べられるとなれば彼にとっては一大事なのだ。

だから、光希はそれを聞くとがばっと布団を押しのけて起き上がり、


「今行く」


と、パチッと目を開けて言うのだった。


「あ、ミナク、トマト残しちゃだめじゃないか。しょうがないから僕が食べてやろう」


私のお皿に残ったプチトマトを見て光希がニヤッと笑う。おばちゃんは私の嫌いなものをわざと入れたりしないから、絶対光希の仕業だ。そういえばさっき私が手を洗っていたとき、なにかいじっているように見えたんだよな。ほんと、ひどいやつ。


「嫌いなものはしょうがないじゃん。光希だってブロッコリー残してるくせに。しょうがないから私が食べてあげる」


仕返しに言ってやる。

おばちゃん、光希にはしっかり食べさせるのか、彼が大っ嫌いなブロッコリーがたくさんお皿に乗っていた。


「はあ、朝から賑やかねえ。従姉弟で仲が良くて何よりだわ」


と、横で新聞を読んでいるおばさんがこっちを見て言った。


「おばさん、なんでブロッコリー入れるかなあ。ミナクにはトマト入れないくせに」

「あのねえ、男の子は嫌いなものでも食べなさいよ。ブロッコリーなんて一口でしょう」


おばさんは光希に呆れてため息をつく。


「それはトマトだって一緒じゃないか。女子は食べなくていいだなんて男女差別が過ぎるよ」


結局お互いの嫌いなものを交換してぱくっと一口で食べる。


「ふん、トマトを食べる大変さは光希には絶対わからないよ。このトマト大好き人間」

「それはブロッコリーだって一緒だよ!このブロッコリー大好き人間!」


自分の嫌いなものが相手の好物で、相手の嫌いなものが自分の好物、だなんて、仲がいいのか悪いのかわからない。


「そうだ、ミナク。学校の方はどう?友達とかできた?」


私は病気が治ってから光希の監修でみっちり勉強し、近くの私立高校で2学期からの編入試験を受けさせてもらった。勉強の成果を十分に発揮してもちろん合格し、先週から通っている。


「なにそれ、お父さんみたいな言い方!もちろん、毎日たくさん笑ってますよーだ」


学校のみんなは思っていたより優しくて、病院から出たばかりで友達の作り方も知らない私にいろいろ教えてくれたり、病気の心配までしてくれたり、毎日が充実している。少なくとも入院していた頃よりは。


「そうか、よかった。ならいいんだ」

「なあに? 光希、心配してくれたのー? 嬉しいー!!」


光希はそんなクラスメイトよりも優しい。私のことを1番に考えていて、なんでも気軽に話せる家族で彼氏。本当は自分自身のことを一番に考えて欲しいという私の言葉は、全然聞いてくれないみたいだけど。彼からは、私のためなら自分そっちのけでなんでもしてしまうような雰囲気を感じる。また自殺とかしようとされたらこっちが傷つくなんて考えもせずに。


「心配するのは当然だろ。大事なミナクがいじめにでもあったらどうするんだ」


その言葉に、少し熱くなった。

だから、そういう嬉しいけど恥ずかしい言葉を毎日言われたらいつか倒れちゃうよ、光希。


「あっやべ、学校行かなきゃ」

「うん、行ってらっしゃい!学校、頑張ってね!」

「行ってらっしゃい、光希。気をつけてね」


光希は急いで玄関で靴を履くと、カバンを持って出て行った。

さて、私も学校に行く支度をしなくては。

家族との、この家での生活は、まだまだ始まったばかりである。

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