焼肉を食べる平和な日
ミナクは病院でリハビリを続けていた。
薬と彼女の頑張りのおかげで固まっていた筋肉は少しずつ動くようになってきた。今は椅子に座って足首を回せるようにするために悪戦苦闘しているみたいだ。
「おはよう、ふたりとも」
そこに現れたのが看護婦長。なぜかミナクのリハビリを見るため仕事の休み時間に降りてきたらしい。
「おばさん…」
「おばちゃん…」
僕とミナクが同時に呟いた。
「「え?!」」
さすがの僕も驚いた。
ミナクの話にときどきでてくる、ゲームやら本やらを部屋にストックしていたあのおばちゃん。
「ちょっと待ってよ、このおばさんは僕のおばさんであって、ミナクがおばちゃんというような関係じゃないと思うんだけど?」
慌ててミナクとおばさんを交互に見る。ミナクもふざけて言った様子はなく、ただ口をぽかんと開けて僕と同じようにおばさんと僕を交互に見ている。おばさんは、静かに笑っていた。
「それはこっちのセリフっ!!おばちゃんは私のおばちゃんだよっ!なんで神谷くんがおばさんなんて呼んでるわけ?」
どういうことだ。
おばさんは混乱する僕ら2人を見て不思議な笑みを浮かべると、言った。
「黙っててごめんなさい。私、櫻庭あかねの妹で、神谷たえの姉なの。つまり、両方のおばさんってわけね」
そういえば、おばさんは三姉妹だと言っていた。
櫻庭あかねという名前は聞いたことがないが、名字も同じだしミナクの母親だろう。神谷たえはこの前聞いたばかりの僕のお母さんの名前だから、ということは
「ミナクって従姉なの?!」
「神谷くんって従弟なの?!」
同じ時間で結論に達した2人は思わず再びお互いの顔を合わせる。
「そうなるわね。いずれは顔を合わさせようと思っていたのよ。でもまさか光希が先にミナクと知り合っちゃうなんて」
僕のおばさんとミナクのおばちゃん。
そのあと、この前僕が聞いたあの事故の話をミナクにも聞かせた。おばさんがまた泣いて話すから、僕もミナクも「おばさんは悪くないから泣かないで」と言い続けた。ちなみに、ずっと海外で仕事をしている僕のおじさんは、実は海外なんか行ってなくて、櫻庭家の方で生活していたらしい。
従姉弟の場合、恋愛関係になってもいいのだろうか。そんな不安がよぎったのはミナクには黙っておいた。
たとえ家族になったって、僕はミナクのことが好きだ。それは変わらない。だからこの関係は僕らが死ぬまで続くといいな。僕はそう思った。
「これで、無事おしまい、おしまい。さ、今日は神谷家の方で焼肉食べに行こうと思ってたの。ミナクもお邪魔しない?顔合わせってことで」
その一言で、僕もミナクも大喜びだった。
「やった!焼肉!」
その夜。
焼肉屋ではミナクの車椅子もあるので広い奥の方の席に座らせてもらって、ミナクの病気完治おめでとうの会、兼、神谷家と櫻庭家顔合わせの会をした。
「光希、久しぶりだな」
1年ぶりくらいに会った叔父さんはおばさんと同じくらいすごく優しくて、気分が安らいだ。
途中僕とミナクのいとこが似てるか似てないかという論争が始まって面白かった。おばさんとおじさんは似てると言い、ミナクは似てないと言い張ったから複雑な気持ちになった。
その言い争いが終わるとミナクは今度肉を焼いては食べて、焼いては食べて、食べて、食べまくった。最初の方は自分で焼いた肉を食べていたからよかったものの途中から僕がせっかく焼いた肉までつまみ食いされてどこまで食いしん坊なんだよ、と思った。
これからどこで暮らすか、なんて話も上がった。神谷家と櫻庭家が同じ家で暮らす。もちろんほとんどが冗談だが、僕は別に、毎日ミナクの顔が見れるのならいいかなーなんて思ってしまった。
本当に、良かった。
焼肉の食べ過ぎと水の飲み過ぎでなぜか僕の肩に頭を乗せて寝てしまったミナクを見て、そんな風に感じた。
こんな平和な日が、これからずっと続いてくれたらいいのにな。
気づけば僕も、まぶたを閉じていた…。




