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愛する人は桜色に  作者: Halka
愛する人は桜色に
20/36

結果は変わらない

僕は今、彼女を待っている。

この前、定期検診があった。これによってこれから使う薬を決めるというとても大事な検診だった。彼女にとってはそうでないみたいだが。

彼女曰く、


「なんか最近すっごく調子いいから大丈夫だよっ!」


また、彼女曰く、


「神谷くんはなんにも考えなくていーの。どうせ私死ぬし」


全く死ぬことに対して恐れのない能天気な解答。僕の少し過ぎる心配なんて知らないだろうし。できれば、死んでほしくない。無理な願いなのはわかる。最近は彼女の強さのおかげで『ミナクが死んだら僕も死ぬ』なんて馬鹿げた考えだとわかってきた。でも、悲しまないわけじゃない。


「だーかーらー、神谷くんは黙って待ってればいーの。考えすぎなんだよ、どうせ死ぬならいつ死ぬかなんて関係ないでしょー?」


なんて言うかもしれないけど。

その結果が出るのが今日なのだ。

ミナクは今、部屋の中で結果について聞いている。僕は外で、それが終わって先生が出てくるのを待っている、という状況。


スッ

ほとんど開閉の音がしないドアが開いた。

もちろん中からは先生とおばさんが出てきた。おばさんは看護婦長としての仕事だ。

僕に気づいていない。俯き加減で僕の前を通り過ぎるおばさんは、僕の見たことのない暗い顔をしていた。やっぱり患者が死ぬのは辛いことなのだろう。僕の今、おばさんがいつも家では無理して元気を演じていることを知った。


「神谷くん、お待たせ」


この人だけは元気だと思っていた、ミナクの声も沈んでいる。

直前までたとえどんな結果になっても悲しまない、と言っていた彼女だが、いったい何があったんだろうか。


「……どうだった?」


反応は、ない。ミナクまでもが下を向いて僕の方を見ないから、今どんな表情でどんな感情なのかまったくわからない。


「悪かった、の?」


開けたのと同じくらい静かにドアを閉めると、やっとこちらを向いてくれたミナクは、


とても、嬉しそうな顔をしていた。


気のせいか、と疑った。

しかし、何度見直しても顔は変わらない。ミナクはいつものように、いやいつも以上に笑っていた。


「神谷くん、治るよ」


かみやくん、なおるよ。なおるよ。なおるよ。


「……へ」

「神谷くん、治るんだよ!」


今、ミナクは「治る」と言った。確かに言った。

それだけは絶対に聞けないと思っていたその一言には彼女の今までの怒りや悲しみ、苦しみを打ち消すほどの喜びが詰まっていた。


「本当、なのか?」


まさかおばさんまで、いや先生まで協力して僕をドッキリにかけてるんじゃないか。思えば本当に性格の悪いドッキリだが、このミナクならやり得る。


「変だな。神谷くんなら泣いて喜んでくれる場面だよー?」


怪訝に睨む(熱心に見つめる)僕に向かって彼女はふふふっと笑った。


「なんだか、最近使ってる、アメリカから輸入してきた薬が私にすごい効くらしくて。あと2週間くらいで完治するだろう、て。信じられないよね。今まであんなに苦しくて、悲しくて、毎日泣いた日々がやっと終わるんだよ。どんな結果でも泣かないって言ったけど、これは反則だよ」


それは、僕の聞きたい夢だ。きっと夢で、実際はまだ部屋の外の椅子に座って寝ているんじゃないか。

そう思って頬をつねると、痛い。ということは、


「ほんとのほんとに、治るの?」

「そう。ほんとのほんとに治るよ。すごいよ神谷くん。奇跡って起こるものなんだね!」

「奇跡……」


ミナクは嬉しそうに少し考えた後、一回だけ瞬きしてその綺麗な目でこちらを見た。なんだか久しぶりにドキドキした。


「これからも、神谷くんはわたしの知らないうちにどこか言っちゃダメだよ。ずっとわたしのそばにいてね。私が死ぬまで、神谷くんは死なないで」


この前僕が言ったようなセリフを返されて戸惑う僕に、彼女は最高級の笑顔を見せる。


「……どうしたんだよ、ミナクから言ってくるなんて」

「死なないんだったら、ずっと一緒にいたいの」

「それは僕も同じだけど」

「愛してるよ、神谷くん。今までも、これからも」


僕はとっさに頷いた。

そのまま、ずっと笑いあった。

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