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愛する人は桜色に  作者: Halka
愛する人は桜色に
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事実はいつも驚きとともに

次に目を開けた時、前は真っ白だった。

僕は、どうしたんだろうか。

そこで、思い出す。

ああ、僕は、ミナクに会いたくないと言われたんだ。そしてその帰り、目の前がいきなり暗くなって……。

ということは、ここは病院内なのか?

がばっと起き上がると、そこはやはり見慣れた病院の白いベッドの上だった。

腕にはチューブが刺さっていて、ベッド脇に置かれた点滴につながっていた。

そこで頭に激痛が走り、点滴が刺さってない方の、しかし重い手で頭に触れた。どうやら、倒れた拍子に打ってしまったらしく、冷たいタオルが巻かれていた。

でも、今の僕にはそんな痛みなど関係なかった。

ズキズキする頭で必死に考えているのは、なぜミナクが僕をいきなり拒絶したか、だった。

昨日まで普通にゲームをし、普通に笑いあっていたのに。僕に向けたあの笑顔が偽りだというのは到底信じられない。指が麻痺した後、検査の時、何かあったのだろうか。結果が悪かったから、僕に当たっている。いや、ミナクはそんな軽いことをするような人じゃない。では、なぜ?

とここで、誰かが僕のベッドの方へ駆け込んできた。

叔母だ。

顔をしわくちゃにしながら歩いてくる。


「光希!大丈夫なの?いきなり倒れたっいうから焦ったわよ!」

「…………」


「あのね、光希。私は、あなたのこと本当に心配しているの。うちに来た時からずっと、自分のことを叔母さんって言わせてきたけど、本当は、一回でも『お母さん』って呼んでくれないかなって、祈ってた。それくらい、光希のことが大好きなの」


初めて聞いた話だった。

物心ついた時から、ママでもパパでもなく叔母さんと呼んでいたが、それが普通だと思っていた。幼稚園に通っていた頃、友達の家に行った時、普通にみんなが『ママ』と呼んでいたのを見て、ママとは何か、と聞いたところものすごく笑われたことを覚えている。

その日の夜だ。叔母に『ママって何?』と聞いた時は、目を見開いて驚かれて、食卓に向かい合って座らされた。何が始まるのか訳も分からなかった当時の僕は、足をぶらぶらさせて退屈だったのだが、叔父が帰ってきて、ようやく話を聞いた時は、僕が目を見開いた。

その時の会話は、今でも鮮明に、頭に思い浮かぶ。


『光希にはね、本当の、お母さんとお父さんがいてね』

『叔母さんが、「お母さん」なんじゃないの?』

『違うの、光希。よく聞いて。私は、お母さんではないの。育てただけよ』

『そだ、てた?』

『光希を産んでくれた本当のお母さんは、別にいるのよ』

『え?』

『私は、お母さんではないの』

『そんなの嫌だっ!絶対やだ!なんでみんなとは違うの?!僕だけ!なんで?!』


ああ、あの時は、驚いたせいで何が何だかわからなくなってしまって、怒った拍子に椅子を蹴り飛ばして自分の部屋まで階段を駆け上った。

あの時も叔母さんは、こんな顔をしていた。

部屋から降りてこない僕のために、お盆に夕飯を並べて部屋の前に置いておいてくれた。少しして、僕の怒りが収まって、やっと部屋から出てきた時も、一切怒らずに抱きしめてくれた。わんわん泣く僕の頭をずっと、優しく撫でてくれた。


今思えば、叔母は僕に、母親以上のことをしてくれていたのかもしれない。しかし、叔母は叔母。その行いで本当の母になるわけじゃない。僕はそのことを、ずっと引け目に思っていた。

だから、学校の授業参観などの行事に叔母や叔父が来るのも、今のように心配して駆け寄ってくるのも、嫌で嫌で仕方なかった、はずだ。

なのに今は、そのことが嬉しい。本物の母親と同じように来てくれて、心配してくれることが嬉しかった。


「少しでいいから私の心配を受け入れてちょうだい。先生はただの貧血だっていうけど、頭の方はどうかわからないから、一応明日に検査するみたいよ」


叔母の言葉は意外なものだった。


「え、明日……?」

「1日だけだけど、入院って形みたい」

「に、入院っ!」

「そんなに驚かなくても。いいんじゃない?光希くらい健康だと病院のベッドで寝ることなんてないし」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「じゃあ、私は帰るから。おとなしくね」

「は、はあ……」


全く、勝手なものだ。入院費はどうしたのだろう。

でも、この病院ということは、彼女がいるということだ。

僕を嫌いになってしまった櫻庭ミナクが。

それを考えただけで目がうるんできた。半年間、僕の生きがいになってくれた、心の支えだったあの笑顔は、もうない。

__こういう時は、まず落ち着こう。深呼吸して、なぜ嫌われたのか、考えよう。

訳のわからないことを考えてパニックになりながら、空気を吸うために開けた口に、塩辛い液体が流れてきた。


「え……」


叔母さんが帰った後でよかった。

僕が泣いているところなんて見たら、心配して「どうしたのっ!!!」とか追及してきそうだ。


それなのに、気持ちを伝えられないまま終わってしまった。ミナクは僕のことなんて、なんとも思っていなかったんだ。

苦しい。胸が締め付けられるように苦しい。

まだ涙は止まっていなかった。どうにもならないまま、口に流れ込んでくる液体。

僕はこれから、どうやって生きていけばいいのだろうか。

生きていけるだろうか。

ミナクがいなければ、勉強という重圧に押しつぶされ、死んでしまいそうだ。

10分くらい、そうしていた気がする。

とん、とととん。

ドアをノックする音が聞こえた。


「光希、入るわね」


叔母さんだった。

なぜ戻っきたのだろう。そんな疑問は、もうどうでもよかった。

泣き顔を見られないように、深く、頭まで布団をかぶって、寝ているふりをしようとした。でも涙は止まらずに、枕をどんどん濡らしていく。叔母が、そっと布団をずらした。

顔を見られたくない叔母の口から発せられたのは驚きの一言だった。


「櫻庭ミナクちゃんと、何かあった?」


その瞬間、涙はいっそう、流れを増した。


「……ミナクのこと、知ってるの?」

「あったりまえじゃないの」

「え……」

「ミナクちゃんは大事な患者さんよ」

「……は?」

「私は、ここに勤めてるの。看護婦長なのよ。あまり仕事してないけどね」


その事実に、僕は再び気絶しそうになった。

読んでくださりありがとうございます。

書きだめに追いついてしまいました。次からは毎日投稿できないかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。


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