ゲームはひとりじゃ楽しくない
今日もまた、彼女の部屋に来た。
出会って5ヶ月くらいが経った。
彼女の部屋には、家族が持ってきたのか、トランプ、ウノ、オセロなどたくさんのゲームがあった。中には人生ゲームとか、百人一首まで。
「ホント困るんだよねー。おばちゃん、ゲーム買ってくれるのはいいけどやる相手いないんだから」
そう言って、ここにあるゲームをしらみつぶしに全部やろう、となったのが2ヶ月前。それからずっと、僕が来るたびに新しいゲームをどこからか取ってきては遊んでいる。
「で、今日はなんのゲーム?」
「なーににしよっかなー。どっちがいい、ラミィキューブか、チェス」
「ラミィキューブはこの前やったから、チェス」
ラミィキューブとは、2週間前にやったもので、トランプが紙から「タイル」と呼ばれる変な四角いものに変わった、テーブルゲーム。イスラエル発祥らしい。セットについていたルールは、読んでもあまり理解できなかった。そんな状態で、ルールを熟知しているミナクと対決して、勝てるものか。
彼女曰く、「対戦はできないけど、暇だしずっとこれ読んでたからルールは完璧だよ!」。
トランプならまだしも、2〜4人用の1人ではできないゲームを買ってくる叔母さんもひどいと思うのだが。
「黒と白、どっちがいい?」
いつの間にか準備していたようだ。もうボードが置かれ、駒も並べてある。
「……白」
チェスはルールとして、白が先攻なので、選べるのなら白のほうが有利だ。もちろん、彼女はそのことを知っている。先攻でも後攻でも勝てる自信がある、ということだ。
やってやろうじゃないか。
30分後に、お互いチェックを繰り返しながら、ついにチェックメイトが宣言された。
「あぁー!!くそっ!なんで勝てねえんだよミナクー!」
勝ったのは、ミナク。
「ふっふっふ。これでも、ネット対戦のチェスはやり尽くしているのです。神谷くんもやれば?チェス面白いよ?」
「…………」
負けた。結構いいところまでいったつもりなのに、気づいたらキングが追い込まれていて、動けなくなった。部屋の隅に駒が落ちているのを前回見つけて、チェス攻略本とか読んで予習していたのに。恐るべし、孤独。
「……もう一戦……よろしくお願いしますっ!」
悔しくて、今度こそ勝ちたくて頭を下げた僕に、ミナクは芝居っぽく言う。
「へえ。私に勝負しようってんなら、それなりの覚悟があるんだろうね」
「次こそは!負けませんからね」
「ははは!いいよー!受けて立とうじゃないの!」
とった敵の駒を戻して並べ直す彼女の顔は、これまでにないほど輝いていた。
「じゃあ今度は私が白ね」
「えー、ミナク強いじゃん。ハンデは?ないの?」
「あるわけないでしょ。神谷くんだって、私と互角に戦えるほど強いじゃんか。まあ、私には一生勝てないけど?」
自信に満ちたそのセリフ。
「あーっ!悔しいっ!」