笑顔の中の悲しみ
ミナクと出会って、一ヶ月が経過した。
僕と彼女の関係は、よくわからない。
ミナクは僕のことをどうも思ってないだろうし、僕も彼女に想いを伝えられていない。
彼女の病気は、日によって違った。
ある日は膝から下が全く動かせず、ある日は下半身が、たまに足先だけの日もあって、その時は彼女は大はしゃぎする。
絵を見せてもらった時以来、彼女は僕の前で涙を見せない。車椅子にも乗らず、ずっと部屋で本を読んでいたり、テレビを見ていたり。
僕が行くと必ず笑顔で、まだ麻痺していない手を振ってくれる。
一ヶ月経ったというのに、彼女の病状は全くと言っていいほど変わっていない。
本当に治るんだろうか。そう心配して思わず聞いてみたら彼女は、「そのうち治るって。まあ、気長に待つことだねー」なんて、軽く言った。
でも、僕は見逃さなかった。彼女の目から一瞬だけ光が消えるのを。
気のせいかもしれない。
髪の毛がかかっただけかもしれない。
治らない。そんなこと、あるのだろうか。
それは、彼女が死ぬということだろうか。
今はまだ下半身だけに止まっている麻痺が、もし上半身まで登ってきたら。
僕はいつも想像して、考えて、やめる。
その先が怖くなって続けられなくなるからだ。
彼女の存在は、僕の生活に大きく関わっていた。彼女の笑顔を見られなくなったらどうなる?
「かーみーやーくんっ、またぼーっとしてる。何考えてんの、もう」
「え?あ、うん、なんでもないよ」
忘れていた、ここはミナクの部屋だった。
前ではミナクが僕の顔を覗いて、不満そうに口を尖らせている。
可愛い。
君に恋していいかな。
毎日、ミナクが出てくる夢の中でこの笑顔を見るたびがそんなことを考えてしまう。
夢の中では、彼女も僕もいつも笑っている。
なのに、この頃彼女は笑わない時間が増えてきた気がする。いつぐらいだろうか。
この前の定期検診あたりだろうか。
検査の結果が悪かったのか。毎週のように行く僕を迷惑に思っているのだろうか。本当は毎日でも行きたいのに、これでも我慢している方なのに、これでも迷惑なのだろうか。ミナクは、無理していることが多い。いつもの病気の痛みを感じさせないほどの笑顔。絶対に、病気に対して、思い通りに動かない体に対しての怒りや憎しみはあるはずなのだ。僕が同じ状況に立ったら、あんな顔はできないだろう。ミナクは、どれだけ無理をして、どれだけ悲しんでいるんだ。
多分こういう時、できる男は彼女の本音を全部吐かせて、自分も同じものを背負う、的なシナリオになるんだろうけれど、僕はそんなに完璧なヒーローにはなれない。
僕じゃ、ダメなのかな。