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箱庭を視るモノ  作者: 市ノ瀬
第一話
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1.「一緒じゃないっ!」

 森の中を通る街道で、男達の一団と一組の男女が相対あいたいしていた。


 男達はぼろぼろの皮鎧や胸当てを身に着け、錆の乗った片手剣などを持ち、男女に向かって武器を突き出し威嚇するように囲んでいたが、当の男女はというと、特にどうということもなく自然体のまま立っているだけだった。


 男達の一人が


「ここを通りがかったのが運の尽きだ。男は殺し、女は攫って楽しませてもらうぜ!」


と言うと、男はフフンと笑い、背に負う両手剣に手をかける。女は男にだけ聞こえる程度の小さな声で、


「確定ね、処理しましょう。」


と告げながら腰のポーチから小指の先ほどの鉄鉱石を取り出し、外套のスリットから両腕を前に出し、目の前で手を合わせ挟み込む。


「マテリアライゼーション!」


 これから放つマテリアライズを決定し利用するマテリアを頭の中で数え、


「アセンブリー」


意識下において数式・方程式の組み立てを行い、


「コンバージョン」


外套の内ポケットにしまっている幾つかのマテリアが反応、結果への変換工程を経て、合わせた手のひらの中に現れ始めた現象を確認し、手のひらを少し離しながら術式を解き放つ。


電磁砲レールキャノン!」


 両掌から一メートルほどの火花を伴った光の筒が伸び、手と手の間で浮いている鉄鋼石が紫電をまとい急加速、目にもとまらぬ速さで打ち出された。数十メートル先に展開している、この辺りを根城にしていると思われる野盗の一団の一角の足元に着弾する。地面が大きく抉れ、抉り出された土砂が放射状に野盗たちを襲う。


「ぎゃっ!」「ぐわっ!」


 ヒトの命を奪う者らに遠慮することはないが、直接当ててしまうとマテリアライズの影響範囲、電磁砲レールキャノンの砲火線上のみが殺傷範囲となってしまうため、奴らの被害を大きくするようあえて手前の地面に当てたのだ。


「ちっ、マテリアライザーか! 次のマテリアライズを発動させる前に接近して殺せ!」


 女のマテリアライズで半数近くが倒れたが、生き残った野盗の中にリーダーがいたらしく、指示が飛んだ。

 脇にいた男が肉厚幅広の大型の両手剣を構えながら女の前に出る。


「近寄らせはしない。」


 こちらに向かってくる野盗たちの、向かって左前の敵へと進み両手剣を一閃。対応が間に合わなかった者や剣で受けようとした者をそれごとぶった切り、剣の勢いのまま正面の敵を蹴散らす。そのまま右前の敵の横合いに突き進み剣を振るい、野盗で残っているものはリーダーと思しき者とその周りの数人のみとなっていた。


「街まで連れて行って衛兵に突き出すなんて面倒なことはしないわ。ここで倒されなさい。」


 女は次のマテリアライズの決め、放ち、・・・そして野盗はいなくなった。



 女の名は『ツカサ』。肩までストレートの美人だが冷たい顔立ちで近寄りがたい雰囲気を醸し出しているヒューマンである。両腕を出しやすくするためであろう二つのスリットのある外套を身に着けている、マテリアライザーである。

 男の名は『ライト』。ぼさぼさ髪の獣人であり髪の中から少し獣の耳が頭を出している。モンスターの表皮を利用したジャケットに、これまた同様のズボンを身に着けている。それほど筋骨隆々には見えないが、身長ほどもある肉厚幅広の大型の両手剣を用いる剣士である。

 今現在二人はペアを組んで行動を共にしているが、まだ二週間程度である。ライトがツカサにくっついて行動していたのだった。

 二人が初めて出会ったのはライトが一人で非常に硬い毛皮を持つモンスターと対峙していた時であり、攻めあぐんでいた一瞬のスキを突かれ命の危険にさらされていたときに、通りがかったツカサがマテリアライズで気を引くことで窮地を脱したことをきっかけに、「命の借りは命で返す」と一緒に行動するようになったのである。・・・と格好良いことを言っているが、要は一目惚れをしたらしく、毎日のようにツカサを口説いて回っているのである。


 ツカサが使ったのは「具象化マテリアライゼーション」。様々な種類の鉱物マテリアを用いて結果の即時適用を行うモノであり、単一もしくは複数のマテリアを組み合わせ、数式・方程式の組み立て変換工程を踏むことで、火や水を生成したりさまざまな技術を結果として利用するものだ。マテリアを利用し結果を出す行為をマテリアライズと呼び、マテリアライズを行使する者をマテリアライザーと呼ぶ。


 二人は共に”目的はあるが行き先がない”という状態であった。もちろん別々の目的ではあるがそれがどこであるかを知らず、とりあえず街から街へと渡り歩いているのだ。次の街に向かっているところで、先の野盗に出会ったのであった。


 野盗のなれの果てを街道脇に穴を掘って埋め先に進み始めたが、二人分の野営道具や食料などを抱えるライトが、


「次の街までまだかかるのか?」

「もう少しのはずよ。多分今日中に着けると思うわ。頑張りなさい。」

「早く街に着いて、宿で一緒のベッドで寝たい。」

「一緒じゃないっ!」

「えー、そろそろいいだろー?」

「あまいっ!」


ツカサから頭にチョップをもらっていた。


 名前の通り軽い口調も、はじめのころはイラッとしていたが、毎日のように聞いていると慣れてきたようだ。


 そんな掛け合いをしながら歩き続け森を抜けると、遠目にエリクシルが見えてきた。

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