第9話 世界の記憶庫
この世界に来て、約一年経つ。
長い月日が経とうとも、すべきことは変わらない。
座禅を組み、自らの魔力に集中する取り組みは、その最初の時よりも深く集中できるようになった。
魔力を自らと世界とを繋ぐ媒体と捉えれば、魔力に意識を向ける行為は、それ即ち世界に意識を向けるということである。
当然、自らの魔力のみでは、己自身のことは知れても他者を、そして世界を識ることはできない。
しかし、僕の魔力は神霊であるマナと繋がっている。そして、僕を慕ってくれているシロツキたちとも微かではあるが繋がっている。
そして、その繋がりを辿り、世界に意識を向けようとしたすると、いつも集中が途切れる。だが、今日は、その集中が途切れなかった。
自らの魔力もマナもシロツキたちも全ての魔力は世界と繋がっている。
魔力とは日常でも消費され、回復しを繰り返している。
その巡回は世界と繋がっているのだ。
そうであるならば、世界も魔力を持つということだ。そして、当然のように僕たちと繋がっている。
世界が魔力を持つ仮定は、精霊という存在で証明できる。精霊とは、自然の魔力が意思を持った存在だ。この自然の魔力というものが世界の魔力であろう。
そして、世界の魔力と僕たちの魔力がつながっているのであれば、それを通せば世界を識ることができる。更にその魔力を辿り、世界と繋がる他の生物のことも解るはずだ。
今まで漠然としか見えていなかったものが見えるようだ。
そこまで、意識の端で考えた考えていたときに、視界が変化した。
視界といっても座禅中は半眼でどこかを見つめているわけではない。ここでいう視界とは光情報ではない。意識を向けている先のようなものだ。
変化した先は、一面が白色に覆われているような世界。
まるで、夢のような世界であった。
「夢じゃないよ」
目の前にはいつからいたのか、少年のようにも少女のようにも見える中性的な顔立ちをする子供がいた。
いや、いつからというなら、
「そう、最初から居たよ」
「だろうね」
性別不明を彼というのか彼女というのかは分からないが、この子供はこの世界においてはどこにでもいるような存在なのだろう。だから、最初から居たっていうのが正しくも、さっき現れたというのも正しいのだろう。
「君は心を読めるの?」
「ここでなら、世界の全てを識ることができるんだよ。そこに例外はない。キミも全てを識ろうと思えば識ることができるよ」
現状は何となく理解できる状態だ。全てを識れるのは、確かなのかもしれないが、情報が多すぎて処理できない。
何かに絞って識ろうとしても膨大な情報が流れて来て、理解できそうにはない。
「正確には、理論的にはできるというのが正しいかな。人間の脳では、到底処理できる情報量ではないからね。
この場所をキミの理解し易いように名称を定めれば『世界の記憶庫』と呼べるね。まあ、キミのイメージのような書物ではないし、未来については記されていないわけだけれども」
アカシックレコードか。
地球では存在が証明されていない元始から世界の全てが記録されているというオカルト的な概念ではあるけれど、ライトノベルなんかでは定番とも言える全知の書だな。物語によっては、未来まで記されおり、それを書き換えると未来が変わるなんてこともあったりするようなこともある。
それにイメージとしては、確かに本の形だが、本来は何か特殊な媒体に記録されているとされているので、それが形どってこうした世界となっても不思議ではない。
「そして、ボクという存在はキミも気付いたみたいだけど、この世界ではどこにでも存在している意思だ。ただ、『世界の記憶庫』の管理者というわけではない。この世界の住人ではあるけどね」
「何が言いたいの?」
「あれ? 理解し難かったかな? つまり、ボクはこの『世界の記憶庫』の管理者ではないわけだから、キミと会うことを義務付けられたわけじゃないんだよ」
「回りくどい言い方をするね。僕に何をして欲しいの?」
流石にここまで露骨な言い回しをしてきたら分かる。
僕に会いに来たのは、理由があるということだろう。そして、その理由は僕へのお願いだろう。
「そう、警戒しないでよ。別にキミの不利益となることじゃないよ。当然、キミの貴重な時間をもらってこうして会っているわけだから、キミの益となることを提案させていただくよ」
当然、ただ面倒な内容を頼まれても断るだろう。
「ボクの頼みはキミの中でボクという存在が存在することを許可して欲しい」
区切りが難しい。