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第5話 お勉強

「分からん」


 僕は現在、執務室で机に突っ伏していた。

 目の前には山積みにされた本と僕が書いたメモが置かれている。


 僕というか僕たちがいるこの城における問題は幾度も言う通り、周囲が海しか見えないということだ。

 その問題を解決する手段は、見つからなかった。

 黒竜で当てもなく飛ぶのは最後の手段としたい。


 現状の手段で解決出来ないのであれば、新たな手段を作るべきだろう。

 こういったファンタジー系の異世界に飛ぶ作品では、魔道具や魔法を科学知識などを活用しながら新たに創造するというものがあったはずだ。そういったことが出来れば、問題は解決できるかもしれない。


 そのために必要となったのが知識だ。

 僕は魔法についてほとんど何も知らない。

 魔法の種類や属性の特徴など、ゲームで必要とされることは知っている。

 しかし、スキルレベルを上げれば魔法を覚え、発動できていたがために、発動する魔法の魔法陣がどういった意味を持っているかや、そもそも魔法とは何なのかについて僕は何も知らないのだ。


 知識を得るために目を付けたのが書庫だ。

 この城には禁書庫という場所もあるのだが、そこにある本の知識は、基礎を知ってからでいいだろう。

 書庫という場所は、ゲームでは装飾としての意味しか持たない場所でしかなかった。そのため、そこにある本も読む目的ではなく、本棚から取り出すこともできない物でしかなかった。

 しかし、ゲームが現実のようになった現在では、本を取り出し読むことが出来る。背表紙にも文字が書かれており、何の本か分かるようにすらなっていた。


 文字に関しては、なぜか日本語であった。本来であれば、マキナがリストを作ってくれたときに気付くべきことだったのだろうが、何故かあのときはそれが当然であるかのように受け入れていた。

 しかし、それに関しては今はそういうものだと認識するしかないだろう。


 問題は魔法についてだ。

 魔法に関する書物も書庫には揃っており、魔法に関する勉強を始めて一週間になる。


 基礎的な概念については理解できたと思う。その多くがゲームの中や設定で読んだことがあるものであったため、頭にも入りやすかった。


 魔法とは、魔力を操り術式を通して世界に干渉することで自身のイメージを現象として実現させる技である。というのが書物に書かれていた魔法概念の基盤的な部分だ。

 そこから、魔力とは何かだとか、術式は何かだとかについて様々な人が色々な観点から複数の考え方が記されていた。

 ゲームにおける時代背景はいわゆる中世あたりを舞台にしており、理想としての剣と魔法の世界であるため、天動説などのこれは間違いだろうと思われることも堂々と書かれていたりする。

 そのため、ここに書かれている知識が正しいかどうかも検討しながら読まなければならない。それはとても面倒なことではあれど、知識として覚え、実際に行使して確かめれば良いので難しいが分からないというほどのことではない。


 では、何が分からないのか。

 魔法の構成だ。正確には魔法を行使するための術式の意味が分からないのだ。

 異世界に行った主人公が新たな魔法を作るとき、術式をプログラムのようなものだという場合が多い。もしも、魔法が本当にプログラムのようになっていれば大学で学んだ知識を使ってどうにかなるかもしれないと思ったのだが、どうにもなりそうにない。


 この世界における魔法の術式とは、一部を除いて魔法陣である。

 魔法陣とは、基本的に円の中に書かれた図形と魔法文字によって構成される術式である。当然、描かれている図形と文字に意味がある。

 それだけでも難しいのにさらに、難しくしている点が書物によれば図形などは組み合わせ方が変わればその持つ意味が大きく異なるらしい点だ。これが本当なのかは分からないが、もしも事実であれば、新しい魔法を作るために必要と思われる意味を持つ図形などを集めても組み合わせてみれば全然違う意味になるかもしれない。


 それでも根気よく魔法陣を構成している図形や文字が持つ意味を理解しようとしても全然分からないのだ。


 例えば、『ファイアボール』という魔法と『ウォーターボール』という魔法を比べれば、球体に形作っている構成が分かるかもしれないと考えたが、共通している部分はほぼ全ての魔法において共通している一番外側の円を除くと一部の図形。文字においては共通部分すら見つからなかった。では、その共通している一部の図形が球体の構成に関わっているのかというとそうではなさそうだ。『ウインドボール』という魔法にはその共通部分が共通していなかった。


 これでは、どれが何を意味しているのか分かるはずもない。

 そうして、僕は机に突っ伏した。


「シロツキ。魔法に聞きたいことがあるんだけど、誰に聞くのが良いと思う?」


 一人で考えるには限界なのかもしれない。

 それなら、仲間に頼るべきだろう。


「魔法について一番詳しいのはカナデ様だと思うのですが、違う視点からの魔法であれば、マナに聞くのはどうでしょうか」

「僕は魔導士だけど、魔法について詳しくないよ」

「そんなことあり得ません!」


 シロツキの信頼が怖い。

 僕は魔導士であり、レベルもカンストしているためゲームの世界で考えれば大魔導士とも言え、魔法について詳しいのが普通な存在だ。しかし、ゲームではレベルを上げれば魔法を覚えるため、知識としては無知なのだ。

 まあ、シロツキに自分の無知さを伝えたいわけではないので、放っておいていいだろう。


「その話はおいておくとして。………マナか」


 マナは神霊であり、魔法の行使が人のそれとは異なるという設定があったはずだ。その魔法は、精霊が行使する魔法に近いとされていた。

 精霊の魔法であれば、エルに聞くこともできるが、エルを介して精霊に魔法の話をするよりもマナに直接聞く方が意思疎通に対して隔たりがなくなる分、正確性が増すだろう。


「じゃあ、呼んで………。いや、マナなら僕が呼ぶべきか」


 シロツキにマナを呼ばせようとして考え直す。

 マナは僕がテイムしている魔物でもある。そのため、僕とマナには魔法的、スキル的な繋がりが存在する。それを感じて呼びかけることで呼ぶことができたはずだ。

 ゲームでは、メニュー画面を使用して行使していたが、設定上はそうだったはずだ。メニューにあった力が使用できなくなってはいるが試す価値はあるだろう。


 僕は自分の内側に意識を向ける。

 感じられるのは魔力の流れ。これは、【魔力操作】なんかのスキルで確認している。

 僕の魔力が外側に伸びて僕とは異なる魔力を持つ存在に繋がっているのを感じる。その魔力を伝わせて意思を伝えようとしてみながら、自分の頭の中で喋る。


『マナ。話がしたいんだけど』

「なに?」


 マナは僕の呼びかけにすぐ答えてくれた。

 マナは呼びかけるてから間を置かずに、まるでそこに居たかのように現れた。もしかしたら、近くで霊体化していたのかもしれない。


「魔法について教えて欲しいんだ」


 僕はマナに魔法について勉強していて、術式の意味が分からないことなどを伝えた。


「それで、マナの意見が聞きたいんだけど」

「分かった」


 マナはこくりと頷くと了承したことを伝えてくれた。


「まずは勘違いの訂正から」

「勘違い?」

「ん。魔法に魔法陣は必要ない」


 魔法陣が必要ない? いや、だが僕が行使する魔法にはそれぞれ魔法陣が存在する。それは、いかなるスキルを使っても消えはしない。【無詠唱】のスキルを使ってもなくなるのは、発動時に魔法名称を言う必要と発動までの時間だけだ。


 いや、違う。そうだ、精霊が使う精霊魔法は魔法陣を必要としていない。

 精霊魔法は、精霊に対価として魔力を渡すことで世界に干渉する。その際に魔法陣は発現しない。ゲームでの設定では、精霊という存在が自然に漂う魔力が意思を持ったものであるため、世界に直接干渉することができるからであるとされていた。

 そして、精霊に近い存在でもある神霊なんかも魔法陣を必要とはしなかった。


「気付いた?」

「ああ。だが、精霊や神霊と違って、僕らは直接干渉できない」

「まだ、勘違い。できる。シロツキ使える」

「え?」


 シロツキは魔導士ではない。魔法は一つも覚えていないはずだ。

 シロツキの戦闘スタイルは刀を使った近接攻撃職。狐人という獣人の中では攻撃力や耐久力が低いが、幻術という種族固有の能力を行使することで相手の攻撃を外させながら戦うことができるため、近くに配置すれば、魔導士という近接に弱くても戦いやすいため、好んで近くに置いていた。

 そうか。そこまで思考がいってから、シロツキが使っている魔法に関して少し見えてきた。


 幻術。MPを消費して敵を欺く術だ。確かに魔法と言えるかもしれない。

 しかし、あれは種族固有のスキルである。マナもそれは理解しているだろう。


 では、マナが言う僕ら人が魔法陣なくして行使できる魔法とはなんだろうか。


「セバスも。クロナも。できる」


 マナは僕が迷っていると、続けて二人の名前を挙げた。これは、二人も魔法陣を必要とせず魔法を行使できるということだろう。

 三人の共通点はなんだ。

 セバスは人族のため、特殊なスキルなんて保有していない。クロナも魔法のスキルは保有していても、魔法陣なく魔法のようなことができるスキルはなかったはずだ。


 もしかして、この世界に来てから覚えたとか。僕が【魔力撃】を使えたみたいに。


「カナデ様、もしかしたらマナが言っているのはこのことではないでしょうか」


 シロツキが話しかけてきたのでそちらを向くと、シロツキは刀を抜刀し横に振り抜いた。その時に【刀術】の【一文字:火】と呼ばれるアーツを発動させながら。

 【一文字:火】は、攻撃に火属性を追加し左薙ぎに振ることで一の字に斬る、プレイヤーからは属性技と呼ばれていたアーツの一つだ。


「ああ。そうか」


 武器系のスキルを鍛えるとアーツと呼ばれるMPを消費することで強力な攻撃を行使できる技を覚える。属性技は攻撃に魔法のように属性を持たせることで、モンスターや装備などの弱点を攻めることで攻撃力を上げるアーツである。

 ゲーム時は演出的なエフェクトとしか捉えていなかったが、その属性にあった現象が攻撃に纏うのだ。


「分かった?」

「ああ。でもやり方が分からない」

「やり方。なんとなく?」

「え?」

「なんとなく」


 疑問形すらなくなった。なんとなくできるってことか。それは神霊だからだろう。


「シロツキはどうやってるの?」

「具体的に言うのは難しいですね。マナが言ったようになんとなくという表現が近いと思います。なんとなくできそうだなって思ってやってみたらできたって感じですかね? 申し訳ございません。このような返答しかできず」

「いや、いいよ。ありがとね」


 シロツキは頑張って言葉にはしようとしてくれたが、うまく言葉には出来なくて落ち込んでしまった。

 シロツキの耳や尻尾が垂れ分かりやすく落ち込んでいる。

 ただ、落ち込まれるのは本意ではないので励ますと、耳はピンっとして尻尾も揺れて分かりやすく機嫌がよくなった。


 魔法については新しい視点を得ることができたのは僥倖だった。しかし、新しい魔法には全然近づいた気がしない。

 新しい魔法を作るとなると知識が足りない。


「なら魔法陣って何?」


 魔法において、魔法陣が必要ではないものだとするなら、魔法陣とはなんだろうか。

 ゲームであれば、演出だと言える。


 もしも、ゲームにおいて魔法陣も必要なく、魔法を撃つことができたのであれば、魔法職が強くなりすぎる。

 ゲームでの戦闘において魔法陣は、魔法の発動タイミングなどを読むための重要なファクターだ。その発動タイミングや種別を読んで適切な対処をすることで致命傷を避けたりする。

 精霊や神霊なども魔法陣は必要としないが、発動時は精霊や神霊が光ったりなどのモーションが存在した。それに、あれらはコンピュータによる一定のアルゴリズムが存在するため、よく観察すれば不意を突かれるなんてことはない。


「魔法陣? 使わないから、詳しくは分からない。それでも良い?」

「ああ。僕は魔導士でありながらも魔法に関して無知だからな。少しでも情報が欲しい」

「なら、教える」


 マナは拙いながらに根気よく魔法について教えてくれた。


 まだ、新たな魔法も島から出る手段も見えはしないが、少しずつできることをやっていこう。

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