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第4話 食料問題

 あれから、一日経ち周辺と城内を確認が完了した。


 周囲の海に島は見当たらずに船も見かけることはなかった。魔物とかがいないわけではないけれど、脅威になりそうなものはいなかった。

 そして、海中で支えている地面もこの城の部分だけ垂直にそびえ立つように隆起しているわけでなく、自然な感じで山のように隆起しているみたいだったので、波に削られていきなり海に沈むなんてこともなさそうだ。

 城内も問題と言える問題はなかった。城内の魔法は正常に作動しており、使えない機能はメニューによって一瞬で済ませることができるショートカット系の機能だけであった。

 マキナに頼んだアイテムのリストも正確に種別分けがされている見やすい書類が僕の下にあった。


 執務室でその書類を見ながら呟く。


「問題は食料かな?」

「そうですな。魚は手に入りますが、穀物と野菜はそう数がありませんから」


 僕の横にはセバスが立っており、紅茶を入れてくれている。こうして、執事が入れてくれた紅茶なんかを優雅に飲むのは一つの憧れであり、少し楽しい気分になる。

 ただ、僕の斜め後ろに控えるように立っているシロツキが見てくるため少し緊張もしてしまうのだが。僕が多くの時間、シロツキを側に置いている理由としてはシロツキの設定に近衛兵という役割があるからだ。しかし、現状では別に城内に危険があるわけないので、好きにしてもらっていいのだが、シロツキはこうしているのが好きならしいのでもう諦めた。


「う~ん。どうするのがいいかな?」


 僕は、現状における問題について考える。

 城内にあるアイテムで現状を確認していて気付いたことだ。食材アイテムが少なかった。


 ゲームにおける料理は空腹度のような要素がなかったため、やり込み的な要素でしかなかった。【料理】というスキルによって、食材アイテムを使用した料理を食べることで一時的なバフを得られるというものだ。中には、味覚的においしく感じるだけの料理もあって、娯楽的な要素でもあった。

 しかし、既にリアリティが現実と言えるこの世界では、喉の渇きも空腹も感じてしまう。


 僕の仲間に料理スキルを持っている者もいるため、いくつかの食材アイテムも素材アイテムと同じく、倉庫に存在しているのだが、その数は多くない。特に穀物と野菜、それに調味料の数は余りにも少ない。食材アイテムに関しては穀物や野菜、調味料といった料理のメインではなく、レア度の低いアイテムは必要な時に必要な量、商店で買っていたため、数が余りないのだ。

 倉庫に保管されているアイテムのリストでは、ドラゴンの肉などのレア度が無駄に高いモンスター系の素材が多い。

 一応、倉庫の中にあるアイテムは時間が停止しているらしく、劣化しないから腐る心配はないのだが、数がないものはどうしようもない。新たに手に入らなければ、使ってしまえばなくなるのは当然の摂理だ。


 問題解消の手段を考えているのだが、いい案は思い浮かばない。


「海から出られれば、どうにでもなるんだろうけど。その手段もないし」


 この世界に来てから幾度も考えさせらる問題が海から出る方法だ。

 例えば、黒竜に乗って一直線に空を飛べば、大陸や島を見つけることができるのではないか、と考えはした。しかし、クロナに伝えたように城が見えなくなるまで飛んだ後に戻ってこれる保証がない。

 他の手段も考えはしたが、良い考えとは言えないものしか思いつかなかった。


「急いては事を仕損じるとも言いますし、身近な問題を一つずつ対処していくのがよろしいかと」

「そうだね」


 セバスが言った言葉には同意できる。

 今までの対処も僕がそう考えて、出来そうなことから少しづつやっていった。


 ただ、焦りがないわけではない。

 もしかしたら、この海から出ることは出来ないんじゃないのか。もしかしたら、陸地は他にないのではないか。今、こうしてこの場にいること自体が異常事態なわけで更なる異常事態が起きないとも言えない。

 そんな漠然とした不安が頭の片隅にずっと残っている。


「まあ、野菜なんかに関してはフィアナの意見が欲しいな。呼んできてもらえる?」

「承知しました」


 フィアナはエルフであるから植物に関する知識は豊富だ。


 問題を解決するための案がないわけではないのだ。ただ、実行するためには心理的抵抗があるのだ。そのためにもフィアナの意見が欲しい。







 フィアナが来たのは紅茶が飲み終わるのとほぼ同時だった。


「フィアナには、野菜と穀物をどうにかするための意見を聞きたいんだ」

「私も無から何かを作ることはできませんよ?」

「知ってる」


 流石にそんな無茶を言うつもりはない。というより、僕がそんな頼みをするとでも思っているのだろうか?


「冗談ですよ。まあ、作れないのは本当ですけど」


 僕が少し不満気な表情が見られたのか、笑いながら冗談だと言ってくる。からかわれたのだろう。

 フィアナにからかわれるのは、何だか年上の余裕を見せられているようで、嫌ではあるけれど不快ではないような不思議な感じがする。


「まあ、いいや。食料の数が少ないって言ってもすぐにどうにかなるわけじゃない。一ヶ月、節約したら二ヶ月はもつかな?」

「マキナ様やマナ様は食事を必要としませんので、もう少しもつでしょうな」

「そう?」


 僕はマナやマキナなんかを除いて計算していたのだが、どうやら間違っていたらしい。料理について、あまりしたことがない僕では、一食でどれだけ使うのかも分かっていないので当然と言えば当然だ。


「ですが、それでもそう長くはもたないでしょうな」

「そう。だから、その間に新たに確保する。その手段の話をしたい」

「分かりました」

「それで具体的な手段なんだけど、種はいくつかあるんだよね」


 無から生み出すことは出来なくても、種があれば育てることは出来る。だが、それでも問題がないわけではない。


「で。どこに植えるかなんだけど………」


 そう畑がないのだ。

 ただ、全く候補となる土地がないわけではない。少なくとも僕の頭の中にある候補地は三つ。


 一つは庭園だ。今は観賞用の植物が植わっている場所であり、その植物をどうにかして畑にすれば良いだろう。

 ただ、今植えている植物なんかはフィアナのお気に入りという設定だったはずだ。実際、昨日、水を与えているのを見た。

 その大切な箇所を奪うことが許されるのかという思いはある。


 二つ目の候補は、通常の中庭としての庭だ。ただ、植物を植えたり育てたりすることを想定している場所ではないため、土は固く、日当たりも悪い。


 三つ目の候補は、海である。土魔法を駆使し、海の上に土地を作ってしまえば良い。

 ただ、これにも問題は当然ある。実際に魔法で実現できるか分からない点と、結界の外で潮風や波の影響がないかが問題となる。塩害という水田や畑などに対する問題があったはずだ。


 一応、僕の考えは伝え、フィアナの意見を待つ。

 正直なところ、僕の案が全却下でも構わないとも思っている。


「そうですね。では、庭園を畑にしましょう」

「え? いいの?」


 庭園の案は彼女からの反対が大きいのではと危惧していた分、すっぱりと意見を選んだのは驚きであった。


「ふふ。もしかして、私が反対すると思っていたのですか?」

「そりゃそうだよ」

「嫌でないわけではないのですよ? でも野菜なんかを育てるのはそれはそれで楽しそうですし、それにあの庭園はでかいので、畑として必要な区画を確保すれば、隅で好きな花を愛でることくらいはできるでしょうし」

「あぁ。そうだね」


 言葉にされれば、それはそれで彼女らしい言葉でもあった。

 しかし、彼女は嫌な気持ちがあると語った。正直、そんな気持ちを尊重してどうにかしてあげたいと思ってしまう。でも、それを実行できるだけの考えは僕には浮かばない。


「ごめんね。それじゃあ、お願いするよ。種の選出や畑作りは任せる。人手が必要なら僕も使って構わないから」

「お心遣いありがとうございます。種に関しては収穫が早くて栄養価が高い優先的に選らばさせていただきますね」

「ああ」







 こうして食料について間近な問題は一通り解決しそうだ。でもそれは間近な問題でしかない。

 今回の問題は、いわば表面化した問題の一端でしかないのだ。根本的な解決は図れていない。

 フィアナが庭園の一部を潰し、畑に変えた日の夕刻に庭園だった場所で悲しそうな顔をしているのを見つけてしまった。

 僕は、決して彼女にあんな表情をしてほしかったわけではない。必要なことだったのだと納得もしたくない。


 これからは根本的な問題の解決。

 海から出る手段を本格的に考えなければならないだろう。

 今までとは全く違う。完全な手探りとなるであろう問題だ。もしかしたら、解決しないかもしれない。それでも、少しずつでも行動しなければならないだろう。

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