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第2話 魔法と神の力

 シロツキに頼んで城内にいる人を集めてもらうことにした。


 シロツキに頼んだのはその間にしたいことがあったからと、少し離れた間に気まずい雰囲気が有耶無耶になれば良いなと言う考えからのものだ。


 みんなが来るまでにしたいこと。それは、この場の清掃だ。

 先ほどの行為によって、血が落ちている箇所があるのだ。


 血などの要素はゲームではなかったが、そういった場面で有用な魔法は存在している。

 生活魔法または基本魔法と言われる戦闘には有用ではない、ある種の設定のために存在している魔法の一つで『クリーン』と言う魔法だ。効果は対象に付着している汚れを落とすというものだ。

 魔法が使えるかどうかの確認も含めてしておくべきだろう。


 ゲームにおいて、魔法を使うためにはスキルと魔力、そして発動体を必要とした。

 発動体とは、魔法を行使する上で魔力を収束させ魔法陣を構築するためのアイテムのことである。形状は杖や魔導書などがポピュラーであった。魔法剣士といった特殊な戦い方をする者は、剣を発動体ともできるような加工をしていた者も多かった。


 ちなみに、服装や装備においてはゲームの時に使用していたものであったため、僕がゲームで使用していた杖も所持していた。


 杖の利点は、それ一つで覚えている魔法をすべて使うことができる点だ。魔導書では威力が高いが魔導書に書かれているとされる特定の魔法しか使えない。

 僕は、戦場において状況に応じて様々な魔法を行使するプレイスタイルを取っていたため杖を使用していたわけだ。

 杖の形状は取り回しやすさからタクトとも呼ばれる指揮棒のような短い杖を愛用していた。


 僕は杖を取り出し、杖に魔力を込める。


「『クリーン』」


 魔法名称をキーにして、魔力が魔法陣を形成して魔法が発動する。

 魔法名称を唱えない【無詠唱】というスキルも保有していたが、慎重を期して魔法名称を唱えて発動した。


 魔法は無事発動し、床や自分の手などに付着している血が消えていく。







 それからしばらくして、城内にいる人たちが集まった。つまりは、僕が作ったキャラたちだ。


 猫耳少女に執事に忍者、エルフにドワーフなどバラバラな種族にバラバラな服装をした人が一堂に会している。


 総勢十一名。

 僕を含めても十二名。


 城を攻めたり守ったりするには、余りにも少ない人数だ。

 しかし、これはゲームの仕様なので仕方がない。


 人数についてゲームでも文句は出ていたが、それは少数派の意見だった。

 なぜなら、『幻想の宴』はプレイヤー一人一人が自由に作り込むことが売りの一つだからだ。味方キャラを作るときにしなければいけない設定が種族、容姿、スキルに性格や出自などだ。プレイヤーによっては一体のキャラを作るのに数日かけたりするものがいるほどだ。

 これほどまでに作り込めるゲームで数十、数百とキャラを作るとなるとプレイヤー側にも負担が多くなるし、管理も難しくなる。更に、そのキャラに装備を準備しなければならないとなると、時間が足りなくなって戦闘どころではなくなってしまう。


 初期に作れる味方キャラは五人で、それからイベントや課金などによって多少増えるが、それもそう多くはないというのが現状であった。


 不満が少なかった理由の一つに戦闘がしっかりと成り立っていたというのもあるだろう。

 舞台は魔法ありのファンタジーである。兵の数が欲しければ召喚魔法や死霊術などで数を生み出せば良い。数を用意したところで一つの魔法で一掃されるなんてこともあった。

 足りないものは工夫によって補われる今までとは違う戦いというものにプレイヤーは歓喜し、のめり込んでいった。

 もしも、一撃で地形すら変えてしまうような兵の数が多ければ、その先に待つのは混沌(カオス)だろう。守るべき城が流れ弾で吹き飛びそうな戦場では戦略なんてあったもんじゃない。


 僕は数は少なくとも愛情を注ぎ作り育てた自分の味方キャラを一瞥し、口を開く。


「みんな、集まってもらってありがとう」


 僕は彼らの主であるわけだが、彼らにも感情のようなものがあるみたいだし、命令をしたら聞くのが当然という態度は取りたくなかった。そのため、まずは感謝を告げる。


 この場所が玉座の間であることと僕がこの城の主であることを考えれば、僕は椅子に座り、彼らには跪かせるのが普通なのだろう。

 しかし、僕は王族でもなければ貴族ですらない。現実では学生なわけだ。偉そうな態度を取るのはなんとなく心苦しい。

 そのため、彼らには楽にしてもらい、僕も立ったまま話をする。


「私たちはカナデ様に作られた、カナデ様の従者であり、兵であり、配下であり、剣であり、盾であり、物です。カナデ様に求められれば、いかなる命令であれど聞き入れるのが務め。来いと言われれば、どのような場所に居ようとも馳せ参じるのは当然のことです。ですので、このようなことに謝辞など不要です」

「ああ、うん。まあ、分かった。でも、ありがとね」


 シロツキが僕の言葉にいち早く反応し、跪いて頭を垂れる。

 他のみんなも跪いたりまではしないが、大半の人物がその通りだというような表情でこちらを見てくる。

 僕も押され気味に認めてしまったが、これでは僕の考えや気遣いが間違っていたみたいだ。だからと言って高圧的な命令はできないけれども。


 シロツキは、みんなを呼びにいっている間に少し落ち着いたように見えたのだが、まだ燻っていたのだろうか。まだ、冷静さが戻っていないようで感情が高ぶっているのが見てとれる。顔は白い肌が少し赤く染まり恍惚とした表情を浮かべており、尻尾は左右にゆっくりと揺れている。


「シロツキ、とりあえず、和服で跪くのは止めなさい」


 シロツキの和服は、足が見えるような裾が膝上までしかない服である。そして、騎士のように跪くと足のずれから(はだ)けてしまうわけだ。

 見えるわけではないが、見えそうで気になってしまう。椅子に座っていれば見えていたかもしれないと少しだけ後悔の念を抱く。


「す、すみません!」

「いや、そこまで怒ってはいないんだけど………」


 僕が注意するとすぐに謝罪の言葉と共に正座に変え、頭を下げた。いわゆる、土下座だ。

 そこまで怒っているわけではないので本当にやめてほしい。


「ほら、これからみんなに聞きたいことがあるんだから、そうされると話しにくいよ」


 面を上げよとか言いたくなったけれど、声にはならなかった。

 僕はやさしい物言いを心掛けながらシロツキの前に立って、手を差し伸べてみる。


「え? あっ。………その、すみません。いや、ありがとうございます」


 シロツキは顔を赤くして申し訳なさそうに謝った後に求められていることが違うと気付いたのかお礼を言って、僕の手を取った。


 シロツキを立たし、話の本題に入る。

 僕個人で確認すべきことは、大体済んだ。で、あるならば、次は他の者に確認すべき事項だろう。


「さて、僕は現状の状況についての情報を集めてる。そこでみんなにも確認したいんだけど、ここがどこか知っている者はいるかな?」


「海の上としか」


 真っ先に答えたのはシロツキだ。しかし、僕が先ほど同じ質問をしたから、僕が求めているのがそれ以上の情報だと察したのか申し訳なさそうにしている。


「多分、世界が違う」


 そう答えたのは、マナだった。


 この場において彼女だけは、僕が作ったキャラではない。

 マナは神霊と言われるゲームのときは魔物の一種とされていた種族であり、扱い的にはテイムモンスターとなる。とあるイベントで特定の条件を満たしたものがテイム可能となる魔物で、ゲームにおいても僕以外がテイムしたという話は聞かなかったレアな魔物である。その力は神と付いているだけあり、魔法の攻撃力、攻撃範囲ともに僕の味方の中で最大を誇る。

 容姿は赤い髪に金色の瞳が輝いており、その雰囲気は神秘さを纏っている。ここまで、普通の人と異なるのだがスレンダーな体型や顔つき、ポニーテールの髪形など知り合いの女性に似ているため、僕が設定したわけではなくてもいけないことをしている気持ちになる。


「どういうこと?」


 そして、マナが放った一言は、現状に対して僕が知りたいことの核心を


「前の世界は神様の力が世界を覆ってた。今はそれが感じられない。多分、世界の法則が微妙に違う」

「もっと具体的に教えて欲しいんだけど」

「具体的、難しい。でも、この中で神様の力の加護を一番受けてたのはカナデ。何か変化ない?」


 この場合、神っていうのが何なのかについて考えないといけないだろう。

 僕が加護を受けているというならば、イベントなんかで出てきたボスモンスターの邪神なんかの類ではないだろう。

 ゲームにおいて、神とも呼ぶべき存在を考えると、その言葉に合致するのはゲームマスターと呼ばれる存在だろう。『幻想の宴』において考えるなら製作者や運営のことだと思われる。

 そう考えると、神の力っていうのはゲームシステムに関する内容だと思われる。確かにそう捉えれば、メニューなどが使えないことも納得がいく。

 スキルや魔法が使えることは疑問だが、今のところはそういう世界なのだろうと納得するしかないだろう。そして使った体感で言えば、それはゲームのときのそれだった。つまりは、魔力などのステータスがゲームのように使えると言うことだ。

 身体能力がどうなっているかは、正確には分からないが身体が軽い感じはするので身体能力などに関するステータスもゲームのものが使用できるのだろう。


 そして、世界が違うと言うことはゲームではないと言うことなのだろう。


「加護がなくなると言うことは、カナデ様の命に関することですか!?」


 マナの言葉に真っ先に反応を示したのは、やはりというかシロツキだった。しかも内容が僕に対する心配だ。まだ、こうして人間らしく触れ合えるようになって数刻しか経っていないのに、なんともシロツキらしいなと感じている僕がいる。

 シロツキの心配は些か大げさであると言わざるを得ないが。


「命………。関係するかも」

「え?」


 しかし、マナの返答は予想外のものだった。

 現在、どこかの調子が悪いと感じてはしていない。しかし、現状は分からないことだらけだ。

 もしも、本当に関係するのであれば、情報を集めて適切に対処する必要が出てくる。


「カナデだけじゃなくて、私たちにも関係する」

「どういうことか、詳しく教えてくれないかな?」

「前は死んでも復活する。神様の力で。今は無理………だと思う。私たちも神様の加護、カナデを通して受け取ってた」


 死についてか。確かに重要なことだろうと言える。

 もっと、落ち着いてくれば、確認したい事項になっていたことだろう。そして、分からないままであれば、死んでも大丈夫かもしれないと考えて無茶な行動をしていたかもしれない。


「なるほど。じゃ、死ななければ問題はないわけだね」

「あと、急所も駄目。今までは大丈夫でも死ぬ………かも」


 ゲームでは、首や頭への攻撃はクリティカルとして扱われるだけであり、首が切られようと、頭に矢が刺さろうと即死ではなかった。しかし、それもゲーム上の仕様でしかなく、今のこの世界では死んでしまうということだ。

 つまり、あの短刀による怪我もゲームであれば、ある程度HPが減るだけで死にはしなかっただろう。しかし、現在は放置していれば出血で死に至る可能性があるということでもあるのだろう。

いや、シロツキがいてくれて良かったな。


 さて、神の力がなくなった影響っていうのはこれからも確認しなければいけないこともあるだろうけれど、とりあえずはここでひと段落として良いだろう。


「なるほど。まあ、神の力とかで気になることは、他の確認事項を確認してから聞くよ」


 そして、こうなるとしなければならないことが出てくる。


「さて、まだ確認したいことはあるけれど、先にしないといけないことができた。命令って形は嫌だけど、命令しとこうか。僕の命令は絶対なんだろう?」

「当然です。何なりとご命令下さい」


 シロツキの献身ぶりは、従順と言うよりも狂信とかそんな感じがするが、今は良いだろう。


「死ぬな。僕がこれから何を命じてもこの命令を優先するように。例え、その結果僕の命が潰えることになろうともだ」

「「「嫌です!!」」」


 命令したら、拒否が返ってきた。しかもシロツキだけではなく全員からの拒否だ。

 嫌がられるのは、なんとなく予想がついてたから命令って形にしたのに。


「カナデ様! 私たちの命はカナデ様のためにあるのです! カナデ様を見殺しにしてまで生きるのでは、私たちの存在意義がございません! それだけは聞き入れることはできません!」

「………」


 さて、どうしようか。

 しかし、彼女たちが僕のために死ぬなんて許容できそうにもないしな。これが、ゲームのときのように感情もなさそうなただの人形みたいな感じだったら、気にもしなかったんだろうけど。


「まあ、みんなの気持ちは分かった。でも、命令は撤回しない。死ぬな。許容できないなら、僕を助けて自分も助かる手段をとれ。

 これ以上、このことで僕に意見をしないでね。まだ、みんなには確認しないといけないことがあるんだから」


 まだ、多少不満気な視線をこちらに向けてくるが、無視する。

 確認しなければ、ならないことがあるのは本当のことだから。

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