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Free 〜フライパンから始まるエトセトラ〜 作者:もじゃ
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07.いつもの朝

「ふぁあ……」

 時刻は6時半。
 今日も1日が始まる。
 私の朝は早いのだ。

 ――ピッ、ターンッ!

 私は鳴り出した目覚ましのアラームを速攻で切る。
 ふっ、今日も私の勝ちだ目覚まし君。まだまだ甘いな。
 これで私の5連勝だ。
 あれ? 4連勝だったっけ?
 まぁいいや。

「環那おはよー」

「お母さんおはよー」

 アラームとほぼ同時にお母さんが部屋に顔を出す。これも日課だ。

「別にもういいのに」

「万が一よ。万が一。何かあったら大変でしょう?」

「もー心配性なんだからー」

 お母さんの気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりちょっと過保護だなぁと思う。まぁ仕方ないか。元々お母さんが言い出したことだしね。何かあったらと思うと気が気でないのだろう。

 私はベッドから起き上がるとゆっくりと伸びをしてそのままベッドの脇に立ち――そっと目を閉じた。

 別に立って2度寝をしようとしているわけじゃない。
 この状態で朝食までを過ごすのだ。
 これが私の日課。
 習慣といってもいい。
 いつもの風景。

 私はそのまま自身の部屋がある2階から階段を降りて1階の洗面台へ。
 歯ブラシをとり、歯磨き粉をつけ歯を磨き、脇の置いてあるコップに水を入れ、口をゆすぎ、顔を洗い、そのまま髪を濡らして、棚に置いてあるバスタオルである程度水気をとってから、そのバスタオルを洗濯カゴに入れ、引き出しに入っているドライヤーを取り出し、コンセントに差し、ドライヤーで髪を乾かしたあとは、コンセントを抜いて、ドライヤーを元の引き出しへ。
 そして、ダイニングに続く廊下を歩き、ドアノブに手をかけ、ドアを開けて、自身の席まで移動して、椅子を引き、椅子に座ると――

「お父さんおはよー」

「ああ、おはよう」

 ――目を開け、お父さんと朝の挨拶をするのだ。



 それは小さい頃の話。
 お母さんとの遊びから始まった。

「マネっ子ゲーム!」

「わーい!」

「今日もお母さんのマネができるかなー?」

「できるー!」

「じゃあまずは――」

 最初は、単純にお母さんがとったポーズを私がマネるというもの。
 鳥さんのポーズ。カニさんのポーズ。牛さんのポーズ等々。
 ここまでは割りとよくある話。

 私も特に疑問を抱くこともなくただただ遊びとしてこれを繰り返していた。

 様子が変わりだしたのは小学校に入った頃からかな?
 今度はお母さんのマネではなく、お母さんが手拍子をしながら指示した通りの動きを素早くこなす。というゲームに変わっていった。

「右足上ーげて。左腕上ーげて。右肘曲ーげて……」

「んしょ! ほっ! はっ!」

「環那ちゃん凄い! どんどん上手になっていくわねー! エライエライ!」

「えへへー」

「これなら予定より早く次の段階に進めるかしら」

「ん? お母さんなんか言ったー?」

「んーん。なんにもないわよー! ほら、じゃあ次はもう少し早くいくわよー!」

「はーい!」

 そうして、学年が上がるにつれ、どんどんとその指示が細かくなっていった。
 それでも楽しかった。
 難易度はどんどん上がっていったけど、お母さんに褒めてもらえると嬉しいし、何よりそれをクリアーできた時の達成感が気持ちよかった。

「右手親指を2センチ曲げて。左手薬指を1.5センチ伸ばして。右足を外側に30度開いて……あー惜しい! 今のは28度だったわねー!」

「うー角度が難しいよー」

「大丈夫よ! お母さんびっくりしてるんだから! 環那は凄いわねー! 私が小さい頃はもっとできなかったわよ?」

「ホントにぃ?」

「ホントよホント! あんまりできないからって、長官ったら、冬場にオイミャコンの林の中に放っといて帰っちゃうのよ! ホントあの時はさすがに死ぬかと思ったんだからー」

「お母さんちょうかんって何ー?」

「うふふ。なんでもないわよ。こっちの話。それじゃ続きやるわよー! 今度はきっと成功するわ! がんばりましょー」

「おー!」

 その頃からだろうか?
 私には1つ、特技が生まれた。

 それは人の動作をマネること。

 人間の構造は大体同じ。
 体の硬い柔らかいはあれ、曲がるところは曲がるし、曲がらないところは曲がらない。
 そして、私は体が柔らかかった。
 これもきっとお母さんとの遊びのお陰。
 だから、同級生や先生ができる動きは私もすることができた。マネることができた。それも結構な精度で。

 それがどういう意味なのか。
 この頃はよくわかっていなかった。
 単に人のマネがうまいだけ。
 それ以上でもそれ以下の意味も持ち合わせていなかった。

 それが意味を持ち始めたのは中学に上がった頃くらいだろうか?
 もちろん、依然、お母さんとの遊びは続いていた。ただ、これを遊びというかどうかは個人の見解に委ねられるところではあると思うのだけど。
 少なくとも私は遊びだと思っている。

「あみ15(頭を右に15度)。りょうあ42(両腕を42度上げる)。みふあ28(右太ももを28度上げる)。みふさ16(右太ももを16度下げる)」

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

「環那凄い! もう完璧じゃない!」

「そうかなー? まだ1度未満でズレてるじゃん」

「それでも凄いわよ! あとはもう微調整みたいなもんなんだから! やっぱり環那は私の子ねー! エライエライ!」

「もーお母さん! くすぐったいよー!」

「なによ、嬉しいくせにーうりうりー!」

「あははっ! やめてよもー!」



「佐倉ー!」

「なんですか先生?」

「お前のフォーム綺麗だな。小さい頃から何かスポーツでもやってたのか?」

「いいえ。生粋の帰宅部ですよ。店の手伝いもありますし」

「そうか……なんだかもったいないな。それだけ綺麗なフォームで走れるなら、ちゃんとトレーニングすれば全国でも通用すると思うぞ? フォームだけなら・・・・・・・・すでに全国クラスだ! 事実、同じようなフォームの妹はすでに頭角を現してるしな」

「ははっ、生徒にお世辞使ってもなんにも出ませんよー。お店に来たら餃子くらいならサービスしますけど」

「マジか! 今度行くから絶対に約束忘れるんじゃないぞ! お前ん家の餃子、給料日のご褒美にしてるんだからな!」

「あはは。毎度ありがとうございます」

 私は人の動作をほぼ完璧にマネすることができる。
 それはどういうことか。

 私は人の動作を観察する力がついていた。
 一目見れば、どこがどの角度でどのタイミングでどのように動かしているのか。
 それを理解することができた。

 私は自分の体を思い通りに動かせる力がついていた。
 それこそ、目をつぶっていてもまったくぶれないほどには。

 私には信じられなかったのだが、普通の人は目をつぶっていると片足で立ち続けることもままならないらしい。
 それを言われた時、意味がわからなかった。
 だから、言ってしまった。

「そんなの、動かなければいいだけなんじゃないの?」

 その時の同級生の顔は今でも覚えている。
 こいつ何言ってんだ? と顔に書いてあったから。
 じゃあやってみろよという言葉に私は実際にやってみせた。

 1分、2分……私は微動だにしない。
 5分を過ぎた辺りで同級生が根負けして謝ってきた。
 それを聞いた私は正直ホッとしていた。だって足がもう限界だったから。
 姿勢を再現する筋力はあっても、それを長時間維持するだけの持久力が私にはなかった。
 帰宅部だからね。当然だ。
 運動だって体育以外ではほとんどしていない。
 案の定、次の日右足が筋肉痛になっていた。
 その時、私はもう2度とやるもんかと心に誓った。その日のお母さんとの遊びもボロボロだったしね。
 普段できることができないことほど悔しいことはないのだ。



 高校に入った。
 そして、お母さんから提案があった。

「環那はもう完璧だから遊びは卒業ね」

「そうなの? 私は全然構わないのに」

「環那も高校に入ったんだし他にやりたいこといっぱい出てくるはずよ。だから、今度は日常生活でそれをやってみましょ?」

「どうゆうこと?」

 そうして始まったのが朝の日課というわけだ。
 朝に使用するすべての物をまったく同じ場所に置いておく必要はあるが、それはお母さんが事前にチェックしてくれているらしい。
 なにせ、料理以外は完璧だからね。お母さんに抜かりはないのだ。

 最初は少し怖かった。
 勝手知ったる我が家とはいえ、目をつぶりながらの行動というのは勇気がいる。「~まであと176センチ」なんて呟きながら歩いたものだ。
 緊張からくる誤差なのか、何回かこけそうになることや、階段を踏み外しかけることもあった。
 でも、その都度お母さんが支えてくれたので、怪我もなかったし、また、私も安心してこれに取り組むことができた。

 3ヶ月後。
 そこには、普通に生活ができるようになっている私がいた。
 そして、現在にいたるまでその生活を繰り返している。

 ちなみに、妹のはるかも小学校までは同じ遊びをしていたのだが、中学に入ると運動好きの遙のために、私とは別の専用のメニューに変更された。当然、私はそっちに参加していない。
 何をしていたのか、私は知らないし、お母さんや遥に聞いても「内緒」としか答えてくれなかった。
 ただ1つわかっていることは、遙はよく遊び疲れて・・・・・寝ていたということ。
 ホントに何をしていたんだろうね。
 いつか私に喋ってくれる日は来るのだろうか。
 来てほしいな。

「いただきまーす!」

 こうして、私の朝がはじまる。
 さて、今日も1日がんばりましょう!


次回は18時投稿予定です。
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