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05.驚天

「ここが……」


 床は一面に石畳が敷き詰められ、周囲には石と木でできた建物が立ち並んでおり、それら1つ1つが燦々さんさんと降り注ぐ太陽の光を反射し光り輝いて見えた。


 はじまりの町【ニューディール】。

 それがこの町の名前。


 風景は転送前とさほど違いはない。

 ただ、そこには活気があった。街を行き交う人々。NPCもプレイヤーもごちゃまぜになっていて、誰がどれなのかと判別をつける間もない。

 おそらくプレイヤーが圧倒的に多いのは確かだろう。なんせサービス初日だしね。


 目の前には大きな像がそびえ立つ。なんだろこれ?

 一見するとマリア像のようにも見えるその像は、ベールのような物を頭から被り、優しく微笑んでいた。手には様々な果物が入った籠を提げているのが、なんだか所帯じみていて面白い。


 とにかくそこは、その像を中心とした広場のようであった。


「さてと、まずはっと……」


 このゲームの名前は『Free』。

 その名の通り何をしてもいいし、また、なんでもできるようにしているとは開発プロデューサーの談だ。

 それゆえに、何をしていいのかわからないという状況に陥りやすいとはβ経験者の談。

 そんな状況をおそらく把握しているであろう運営は、それでもなお動かない。

 それは、ゲームに対する自信かはたまた慢心か。

 その評価は今後のプレイヤーの動向次第といったところなのであろう。

 

 とにかく、この状況に対して困ったのはプレイヤー側だ。

 そこでできたのが攻略サイト『忘備録』。他にもいくつも攻略サイトは存在するのだが、ここが1番情報量が多く、鮮度も新鮮。今では私のお気に入りとなっている。

 『忘備録』というタイトル通り、サイトを立ち上げた人もそのつもりで作ったとのこと。

 なにせ、βの時点で「βってなんだっけ?」というレベルでなんでもできたらしい。

 冒険、生産、商売、PK、果ては土地転がしや、宗教設立まで。

 道徳的にどうなのよ、と、思わなくもないが、運営が用意している以上、郷に従うしかない。


 装備に関してもそうだ。装備画面にはアバターしか表示されていない。

 つまりは、他のゲームのように装備部位が固定されていないのだ。

 何をしても『自由』ゆえに『Free』。


 そりゃ、攻略サイトも立ち上がるというもの。


 そんな、攻略サイトからの情報によると、最初は大体3つくらいの選択肢になるらしい。

 それは、冒険、生産、そして趣味。

 独特なのが最後の趣味だ。

 まぁゲーム自体が趣味だろうがという声もあるにはあるが、この趣味は若干意味合いが異なる。

 どちらかというと、自己鍛錬の意味合いが強い。それはどういうことか?

 このゲームは『自由』ゆえにその『自由』さを確保するため、極限までリアルを追求している。

 だからだろうか、β経験者の中からその性質をリアルに役立てようとする動きが現れた。

 主だったところでいうとスポーツ。そして、格闘技。つまり、体を動かすことを目的としたものだ。

 もちろん、ゲーム内でいくら運動をしたところでリアルの筋力がつくわけではない。

 だが、反射や体の動かし方はそれに当てはまらない。

 要は今までイメージトレーニングとしてやってきたことをゲーム内でそのままやってしまおうじゃないか、ということ。

 ゲームなのだから無茶な行動をしても、そのリアルさゆえ痛みは伴うが実際の自分の体は絶対に怪我をしない。すなわち、今の自分にできるのかどうかわからない、世間的にいう無謀な挑戦が、ここでは気軽に試すことができるのだ。


 これらの行動はあくまでリアル重視の考え方。ゲーム的にはなんの意味もなさない。ゆえに趣味。


 もちろん、ゲームを楽しみたい私には元からその選択肢は存在しない。

 そもそも帰宅部だしね!

 となると、冒険か生産かになるのだが、それはやる前から決めていた。

 冒険1択だ!

 このゲームで私は学校と家の往復の毎日から脱却するんだ!


 ……いや、実生活の行動はこれからもまったく変わらないんだけどね。

 そこは気の問題で。

 私は、この超リアルな世界で今までに経験したことがない綺麗な景色や、様々な強敵、そしてなにより……フ、フ、フレンドをたくさん作るんだ!

 大丈夫。リアルよりも軽く付き合える分、コミュ障な私にもきっとそのチャンスはあるはず。がんばれ私。

 でも、私は焦らない。そこかしこに声をかけまくる軽い女だなんてみられたくないからね!

 じっくり吟味して吟味して吟味して……


 あれ? リアルと言ってること変わらなくない?

 ま、まぁいいか。

 とにかく今は冒険だ!

 レッツアドベンチャーだ!


 たしか、攻略サイトにはまずは冒険者が集うギルドという場所に行くことをお勧めしていたはず。

 別に行かなくてもいいらしいのだが、ギルドで依頼を受ければ金策も捗るみたいなのだ。

 これは行くしかない。


 こうして私は早速ギルドへと足を運――


『かーなー!』


 ん?


『かーんーなーちゃーんー!』


 だ、誰!? 私の本名を呼ぶのは!

 今は『カノン』ってう名前なんだから!

 お願いだから本名で呼ばないで!


『ゆーうーはーんーでーすーよー!』


 え!? 嘘! もうそんな時間帯なの!?


『はーやーくーおーきーなーいーとー!』


 ってことはこの声って……。


『おしおきするわよ』


 ひぃいいい!

 お母さんだ! 間違いない!

 ロ、ログアウトを!

 私にログアウトをプリーズ!


 あまりの恐怖に思わず半笑いになってしまう私。

 気を緩めれば震えてしまいそうになる手をなんとか気合で押さえつけ、確実な動作でゆっくりと。

 メニューを開き、そして、ログアウトのボタンを……ポチッ。


 直後、画面が暗転し、私の意識は現実世界へと舞い戻るのであった。


 こうして私の『Free』プレイ1日目が幕を閉じた。


 結局、おっさんとしか戦ってないんだけど。これでいいのか私?




次回は12時投稿予定です。

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