41.開戦
本日は2話更新です。
この話は2話目ですので、ご注意ください。
さて、やると決まったらそれはそれで問題があった。
大集団との距離が遠すぎるのだ。
その距離およそ200メートル。
私達から見て、横切る形になるため、戦うには追いつく必要があった。
でもどうやって?
走ったところで相手はモンスターだ。
追いつけるとは思えない。
追いつけないのであれば、今度は逆に呼び寄せないといけないのだけど……
「そうだ! 2人とも少し離れてて!」
「あ、ああ」
「カノン何するの?」
「ちょっと、大きい音を出してみようかなと思ってね」
うまくいくかどうかはわからない。
でも、気づいてこっちに来てもらえればラッキーくらいの感覚でとりあえず。
「さぁ……いっくよぉ~!」
私は相棒を取り出すと、2人が距離を取ったことを確認したのち、大きく深呼吸をして気合を入れた。
私はその場で【宛転】によるステップを開始。
2回転したあとに相棒をそのまま地面へと叩きつけた。
周囲に轟く爆音。
どうだろう。
届いたかな……って!?
「ひぃいいい! 手がぁあ! 手がぁあああ!」
直後、私の両手に襲いかかる衝撃。
痛い痛い痛い!
あと痺れるぅ~!
地面みたいな物なんて今まで攻撃したことなかったんだけど、こうなるんだね! ひぃ! へ、ヘルプミー!
ち、違う! 私にはアレがあるんだ!
早速出番だよ!
私は急いで先日取得した【光魔法】を使い、その光を両手に押し当てた。
この光にはどうやらそれだけで、回復作用があるとのこと。
『忘備録』にもパーティーメンバーの内、最低でも1人は持つようにと書いてあったので、取得しておいたのだ。
本当に取得しておいてよかったと、改めて実感。
みるみる痛みが引いていくのがわかる。痺れも急速に取れていった。
それらと入れ替わるように私を襲う倦怠感。なるほど、これが精神力を消耗するってことか。
連発は控えた方がよさそうだ。気をつけよう。
でも、まさかこんなに早く使うことになるなんて思わなかったなぁ……
「ああ~染み渡るわぁ~……」
「カノンなんだかお年寄りみたいだよ?」
「し、仕方ないでしょ~! 実際、超痛かったんだから。それよりも……」
「ああ、どうやら成功したみたいだぜ」
見れば大集団の一部が大きく進路を旋回させ、こちらに向かって来ていた。
来たのは2種類。オオカミとクマだ。
また、よりにもよって強そうなのが来ちゃったな……ま、仕方ないね。
それだけ、好戦的な種族ということなのだろう。
モンスター名はわからない。
だって、まだ誰も倒したことがないからね。名前は、そのモンスターを倒してインベントリに入れて初めて確認できるのだ。
一応、オオカミの方はこの世界の住人からは【オオオオカミ】っていう名前で呼ばれているみたいだけど……うん、凄く呼びづらいです。
もう少しどうにかならなかったの運営さん?
でもって、クマはの方はというと……掲示板にすら挙がっていなかったモンスターだ。
大きい。たぶんあの大集団の中でも1つ2つ抜けた大きさだ。
きっと強いんだろうなぁ。
一方のシカとフクロウ、その他の小動物に関しても同様で名前はわからない。
だから強さも当然わからない。
ただ、こちらは私が出した音に驚いたのか、オオカミとクマ達から離れたあとは、その後バラバラと散開しているようだった。
中には、やたら遠回りして森に帰っていく姿も。
この分だと、街に着くころには、その数もかなり減らしていることだろう。よかった。
よし。これで、とりあえずは街のことを気にすることなく、目の前のモンスター達だけに集中できそうだ。
「でも、まだ結構いるね」
大集団から別れたとは言え、元に大がついていたのだから、未だ集団には変わりなく。
「ん~大体、50匹くらいか?」
「かなぁ?」
オオカミが多い。数えるのが嫌になるくらいいた。
その逆に、クマは、オオカミよりも図体がデカイぶん数えやすい。
たぶん、10匹前後? それくらい。
双方、まっすぐにこちらに向かって来ていた。おそらく、すぐに戦うことになるだろう。
幸いなのが、クマの足が遅いこと。
そのお陰で集団が縦に伸び、とりあえずは、オオカミとクマ、同時に襲われることはなさそうだ。
まぁオオカミに手こずってると、すぐクマも来ちゃうんだろうけど。
2人を見れば、すでに準備万端って感じだ。
巨大な刃物と銃。
うん、物騒極まりない。
でも、今回はその物騒さ加減がとても頼り甲斐のあるものに見えた。
私も相棒を再度持ち、戦闘に控える。
「ん~一応、こっちも頭数は増やしておくか」
「え?」
シズクは唐突にそう言うと、目線を下げ、何やら片手を動かしていた。
おそらく、メニューを操作しているのだろう。
【砕辰】片手に器用なことするなぁ、と思う。肩に担いでるとはいえ、重くないのだろうか?
ってか、なんだかこの前見た時より【砕辰】が大きくなってるような?
私の気のせい?
でも、頭数ってどういうことなんだろう。
フレンドでも呼ぶのかな?
それはさすがに間に合わないと思うのだけど……
私がそんなことを考えながらその光景を見守っていると、シズクの脇の地面が突如光りだした。
そして……
「久々の出番だな! 頼んだぞ【虎吉】!」
『ガウッ!』
「……へ?」
大きな黒い虎が姿を現したのだった。
「え……えと。シズク……それ……は?」
「あーカノンにはまだ紹介してなかったな。俺の相棒の【虎吉】だ。こう見えて耐久無限装備なんだぜ?」
「え……えぇえええ!?」
耐久無限装備!?
あれって生き物もオッケーなの!?
ランダムにもほどがあるよ!
もう武器じゃないじゃん!
有機物じゃん!
いや、でも一緒に戦ってくれるという意味では、ある意味武器だとも言えなくも無いような……もういいや。
諦めた。
これが『Free』なんだもんね。
それは簡単に言えば黒い虎だった。
虎独特の黒い縞模様はあるんだけど、特徴的なのが、体表。
普通の虎とは違ってこちらは限りなく黒に近いグレーだった。
体長は2メートルほど。
おそらく立ち上がれば3メートルにはなるだろう。
虎を間近で見るのは初めてだけど、正直格好良かった。
まぁ、今はシズクの手をペロペロ舐めてるんだけどさ。こういう仕草は猫っぽい。私も少しだけでいいから触らせてくれないかなぁ。
同時に、シズクが【砕辰】を欲しがった理由も理解できた。
たしかに虎は持って戦うもんじゃないもんね。
ってか、耐久無限装備ってことは、実質無敵なんじゃ?
ある意味、自立型の武器とも言えるわけなんだし……
「こいつさ。すげー強ぇんだけど、燃費がすこぶる悪くてなー。ほら、今も腹ペコらしい」
『ガウッ!』
「そ、そうなんだ」
え!?
ペロペロしてるのってそういうの意味だったの!?
怖いよ! 噛まれないよね!?
「でも、今回は相手も数が数がだからな。素材も気にせず食い散らかしていいぞ」
『ガーウッ!』
シズクが指差した方向を見る【虎吉】。
途端に口から流れ出る涎。
剣呑な雰囲気。
だ、大丈夫?
シズクはちゃんと制御できてるんだよね?
なんだか、今にも走り出して行きそうなんだけど。
ってそんな場合じゃない。
目標の集団は約50メートルの距離まで迫っていた。
いい感じでまとまってきてくれている。
50メートル。
まだまだ遠い気もするけど、私達の中には1人、すでに射程距離の人がいたりするんだよね。
「【ウォータートルネード】!」
アクアの放った魔法はまっすぐ集団の中心を貫いた。
クマまでは届かなかったものの、その威力は絶大で。
オオカミ、3分の1くらい負傷したんじゃ……明らかに動きが鈍くなっていた。
「アクア、次どんくらいで撃てる?」
「ん~10秒頂戴」
「わかった。できたら声かけて」
「オッケー」
あれだけの大魔法だ。
準備にもそれ相応の時間はかかるのも仕方がない。
その間は、私達2人と1匹が頑張りましょう!
「シズク、行こう!」
「ああ。【虎吉】、ゴーだ!」
『ガウガウガーッ!』
こうして、私達の集団戦の火蓋が切って落とされた。
巨大な包丁を持ち、片割れに同じく巨大な黒い虎。
なんだが、主人公より主人公らしいんですけど。




