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04.切磋

『ハッハッハッ!』


「キィイイイ! 避けるなこのやろう! あとその優雅な笑い声をとめろぉ! って危ねぇ!」


 依然続く戦闘。

 どれほどの時間を費やしたのか、確認する術はない。

 ただひたすらに、がむしゃらに、相棒を振るう。振るう。振るう。振るい続ける。

 だが、当たらない。

 時に躱され、時に受け流され、時に突いてきて、そして――常に笑っていた。

 身のこなしのレベルが違う。しかも圧倒的に。


 もはや、これは戦闘といえるのだろうか。

 明らかにこのおっさんは手を抜いている。

 いくら戦闘経験がない私でもそれだけはわかった。


『しかし、貴方のその動きは……何か習っていますか?』


「うるせぇ! 遅くて悪かったな!」


『ハッハッハッ! そういう意味ではないのですがね』


 私は半分、いや、ほとんど意地になっていた。

 絶対このおっさんに一撃あたえてやる。あの顔面にスパカーン! と相棒を思いっきりぶつけてやる、と。

 そのためならなんだって!


 私はおっさんの動きにクセがないか、相棒を振るいながらも観察を続けていた。

 そして、真似できるところは真似をする。それに努めた。

 なにせ、このおっさんの身のこなしは異常なのだ。ただのジェントルマンではない。

 すべての動作が流れるように滑らかだ。

 その動きに対抗するには私もその域に達せないまでも、最低限、その動きについていく必要があった。

 その1番の近道は、おそらくおっさんの真似をすること。

 そしてそれは――私の唯一と言ってもいい特技であった。


「このっ! このっ! こんのぉ!」


『ハッハッハッ! これは実に面白い! 私をここに呼んでくださった神様には感謝をしないといけませんねぇ! ハイそこぉ!』


「ぬはっ!」


 おっさんの細身の剣が脇をかすめる。

 ずっとこうだ。

 おっさんは最初の一撃から、あえて直撃させないように、私がギリギリで躱せるような、そんな攻撃を繰り返している。

 弄んでいるのだろうか?

 その行動もまた、私がおっさんに怒る理由の1つであった。

 お陰で体のあちこちが痛い。超痛い。

 そういえば、痛覚設定を変えていなかった。しまったなぁ。

 一応、デフォルトでもだいぶ軽減されているとのことなので、これでも現実に比べればマシなんだろうけど痛いものは痛いのだ! ガッデム!




 さらにそこからしばらくあと。

 ようやくと言っていいのか、私は打ち合いの真似事ができるようになってきていた。

 心なしか相棒もより手に馴染んできたような気がする。

 なんというか、コツみたいなものがわかってきたのだ。

 この相棒の重量は相当なものだ。普通に振っただけでは、その重さに耐えかね、振り回され、体が泳いでしまう。

 事実、最初の頃の私はそうだった。


 でも、そうじゃないと気づいた。

 こいつは武器じゃないということに気づくことができた。

 普段、私が使っている物と一緒なのだと。それが多少重くなっただけなのだと。

 その頃からだろうか。私が普段通り、体全体を使って振ることを覚えたのは。相棒の進むその方向を無理に変えようとせずに、ただ支える。それだけでよかった。あとは勝手に威力を増した相棒が暴れてくれるから。

 こうして、今はそれなりに戦うことができていた。


 でも、きっとおっさんに会う前の私ならこんなことはできなかっただろう。

 依然として振り回されていたはずだ。なぜなら、頭ではわかっていても、体が――重心移動が相棒の速度に追いつかなかっただろうから。


 おっさんの体捌きには無駄がない。だから上半身がブレない。ゆえにバランスも崩さないし、そこから繰り出される攻撃も早いし正確だし、そしてなにより重かった。 

 だからそれを真似た。徹底的に観察して、まずはその足捌きを。次にそれに連動した体全体の動きを。

 おっさんがたまに見せる大げさな動きは特に参考になった。なぜそんな動きをしていたのか理由はわからない。単に攻撃のリズムを変えたかったのか、それとも私に見せつけたかっただけなのか。

 後者だと仮定したとき、おっさんは私に体の使い方を教えようとしているのではないか、という結論に至ったのだが即廃棄した。

 なぜなら、おっさんはその後すぐに、物凄い速さの突きを放ってきたからだ。何回突き殺されかけたことか。たぶん、一種のクセみたいなものなのだろう。

 ただ、その動作は私にとってはおっさんの唯一と言っていいスキという名の観察ポイントであったため、大いに利用し、参考にさせてもらった。ごっつぁんです!


 相棒と細身の剣が重なりあう度に周囲に物凄い音が響き渡る。

 私は相棒を水平にした状態にして薙ぎ払う。この方が速度がでるからだ。このおっさんには当たりやすさよりも速度。これが私が出した結論であった。

 それでもなお、おっさんはそれを後ろに下がって避ける。ギリギリ当たらない。うん、知ってる。何回も見た。

 私はさらにそこから踏み込み、おっさんから真似たステップを使い、速度を殺さず、むしろさらに速度を上げて1回転し、2撃目を顔面に振るった。


 ――チュンッ!


 おしい! 前髪を掠った!


『なんとぉ!?』


 おっさんの笑い声も止まる。ざまぁ!


『ハッハッハッ! これは想像以上ですよ!』


「だから笑うなぁ!」


 でも、一瞬だけど、黙らせられたのは気分がよかった。

 と、思ったのも束の間。


「うひゃあ!」


 今までとは明らかに違う一撃。相棒の方が遥かに重量があるはずなのに、それを受けた私の相棒はそのまま後方に吹き飛ばされた。


 ――やられる。


 私は死に戻りを覚悟した。

 衝撃に備えて思わず目を瞑る。


 だが、追撃は来ない。はて?


 目を開ければそこには光り輝くおっさんの姿が。後光? 神なの?


『ハッハッハッ! どうやら、時間切れのようですねぇ。もう少し楽しみたかったのですが、今日はここまでということで』


 いつの間にか、手にはパイプが握られ優雅に煙を撒き散らしている。

 助かった?

 でも、倒さないとダメなんじゃないの?

 そこんとこどうなのよチュートリアルさん。


『ではまたいつかお会いしましょう』

 

「絶対、い、や、だ!」


『ハッハッハッ!』


 私はおっさんにあっかんべーをしながら、絶縁宣言を勧告するが、おっさんは動じることなく、笑いながら光と共に粒となって消えていった。




【チュートリアル:完了】

 おめでとうございます。これにてチュートリアルは終了です。『自由』の世界へようこそ。




 なんとか無事? にチュートリアルはクリアしたようだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。


 落ちついて見れば、私もうっすらと光りだしている。

 どうやらこのまま他のプレイヤーがいる場所に転送されるらしい。

 なんだか、ここまですごく長かった気がする。

 いや、確かに半分は私のせいではあるんだけどね。

 残りはチュートリアルさんのせいだろ、絶対。

 あんなおっさんとみんな戦っているの?

 このゲーム、どれだけハードル高いんだか。先が思いやられる。

 ゲームってそもそももっと気楽なものだと思うんですけど!


 長いため息と共に、私の姿もその場から姿を消した。




次回は9時投稿予定です。

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