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35.スキル

『ここが各種スキルを取り扱っている部屋よ』


「なにこれ……」


「すっごーい!」


「広ぇ……」


 そこは、私達が想像しているよりもずっと広い場所だった。

 正確にはわからないけどたぶん100畳以上あるんじゃないだろうか?

 ここって本当にあの小ぶりな屋敷の中なんだよね?

 明らかにそれ以上あるように見えるんだけど……


 ずらりと並んだ棚、棚、棚。

 それらには戸も何もついていなかった。本当に棚だけ。

 そして、その中にソフトボール大くらいの半透明状の玉が、転落防止用の窪みにハマって等間隔に陳列されている。

 ざっと見渡しただけでも、膨大な数に及ぶその玉達は、各々が色彩鮮やかに自己主張しており……とても綺麗だった。


「これが……【技珠わざだま】ですか?」


『そうよ。何、貴方達もしかして見るの初めてなの?』


「ええ……」


「すっごい綺麗だね!」


「だな」


 この【技珠】。巷では色んな呼ばれ方をされていたりする。

 例えば、スキルボールだとか、スキル玉だとか。時にはちょっと下品な呼ばれ方をされていることすらあるらしい。

 私はちゃんと【技珠】と呼ぼうと思う。


 だって、こんなに美しいのだから。

 

 棚に陳列された【技珠】達は、窓から差し込む光に様々な色を加えて反射させ、木製の部屋をとてもカラフルに彩っていた。

 木漏れ日だからだろうか。時折微かに揺れ動く光によって、ただでさえ多種多様な色の光がさらに混じり合い、複雑な色を演出しだしたかと思えば、次の瞬間には拡散し、そしてまた交じる。

 そこはまるで一種の異世界のようで。


 私達は言葉を失い、しばらく夢見心地な気分で、ただただその光景を眺めることしかできなかった。




『そろそろいいかしら?』


「あ、すみません。つい……」


『ふふーん。別にいいのよ。初めてこの部屋に入った者は大体そんな感じになるしね』


 なぜか、マリアさんは誇らしげにそう説明してくれる。

 そか。考えてみたら、この部屋を作ったのは紛れもなくマリアさん自身なのだ。

 それに見惚れた私達はきっと思惑通りなのだろう。

 悔しさなんて当然ない。

 むしろ、そこには感謝しかなかった。


「こんなに綺麗な光景を見せてくれてありがとうございます」


『そ、そう? なんだかそこまでまっすぐに言われちゃうとなんだか、その……』


 思わず声に出して言ってしまう程、私は感動していた。

 言われた幼女さんは戸惑ってしまっているみたいだけど……もしかして照れてるのかな?


『そ、それよりもこっちよ!』


 あ、行っちゃった……やっぱり照れてたみたいだ。

 マリアさんて案外照れ屋さんなのかもしれない。


 私はマリアさんの背中を見ながらそんなことを思っていた。

 って置いてかないで!




 いつもの調子に戻ったマリアさんは棚と光の波を抜け、私達をあるところまで案内してくれた。


『貴方達が希望する【魔法】となると大体この辺になるわね』


「ここ全部がそうなんですか?」


『そうよ』


「ほえー……」


「こんなにあるのか、すげぇな……」


 棚一面に陳列された【技珠】の数々。相変わらず物凄い量だ。

 そのほとんどが違う色をしているところを見ると、おそらくすべてが違う種類なのだろう。


 ん? あれ? なんだろうこの違和感。

 あ、そうか……


 多すぎるんだ。


 『忘備録』にもたしかに数多くの種類のスキルが記載されていたものの、それは【料理術】などを含めたすべてのスキルが紹介されているからだ。


 先程、マリアさんはなんと言っていただろう。

 うん、たしか私達が希望する【魔法】はと言っていた。


 き、きっとあれかな?

 反射で色が混じってそう見えるだけなんだよね。

 そうだ。そうに違いない。

 なーんだ。ドキドキして損したよ。


 ホント私ったらせっかちなんだか――


『ベタなところだと、ここらへんね。【火】【水】【風】【地】【光】【闇】【炎】【氷】【空】【鉱】……』


「ちょ!? ちょちょちょちょ!」


 はいアウトー!


『……何よ?』


「い、今なんておっしゃいましたか?」


『だから、ベタなのはこの辺にって……』


「その後です!」


『いやだから 【火】【水】【風】【地】【光】【闇】【炎】―― 』


「はい、ストォオオップ!」


 超アウトーッ!


『だから一体なんなのよ!』


「【炎】ってなんなんですか?」


『何って……【火】の上位じゃない。それがどうしたのよ』


 即アウトーッ! スリーアウトチェンジッ!


「ちょ、ちょっと待って下さいね!」


『なんなのよ……』


 私は急遽タイムを宣言!

 作成会議という名の相談を開始する!

 こんなこと相談せずにいられるかってんだ! べらぼーめー!


 動揺に動揺を重ねた末、江戸っ子になった私は、すがるような気持ちで2人と向き合った。


「ねぇねぇ2人共。今の話……聞いてた?」


「うん……」


「ああ……」


「私思うんだけど、これってさ……ヤバくない?」


「「……」」


 そもそも、【炎魔法】なんてものを聞いたことがない。

 少なくとも『忘備録』には記載されて……いや、掲示版にすらそんなこと欠片も書いていなかった。

 あったとしても、せいぜい妄想レベルの話だ。

 それが今、現実に目の前に、【技珠】として陳列されているのだ。

 大事件なんてもんじゃない。

 こんなもの使って目撃された日には、即質問攻めに合うことは容易に想像がついた。

 いや、【炎魔法】はもしかしたらまだ誤魔化しが効くかもしれない。だが、【氷魔法】以降は完全にアウトだろう。

 誤魔化し切れるわけがない。


 ここは素直に……


「基本のだけにしよっか」


「だな」


「賛成」


 どうやら、2人もその結論に達していたらしく、私達はお互いに頷きあって決意を確かめあっていた。


『もういいかしら?』


「あ、はい。お待たせして申し訳ございませんでした」


『ホント、私を待たせるなんてどんなご身分だって話よ。今後は注意しなさい』


「は、はい」


『で、続きだけど、ここからが【魔法関連・・】のスキルになるわね。【混合】【拡散】【凝縮】【核融……』


「も、もう止めてぇ……」


 私はその場に崩れ落ちた。




 結論から言うと杞憂だった。

 なぜなら、そもそも【技珠わざだま】を購入するための経験値が圧倒的に足らなかったからだ。

 私が今のところ取得していた経験値は600弱。

 だが、一番安価な初期の魔法である【火魔法】ですら、1つなんと500も経験値が必要だったのだ。

 そして、上位魔法に至っては、その中でも一番安いランクである【炎魔法】でさえ、なんと1個2万もするのだ。手も足も出なかった。


 とはいえ、情報としてそれらの上位と言われる【魔法】が存在していることを知ってしまったのは大きい。大きすぎる。

 こんなの公表できる勇気なんてあるはずがない。


 2人に関しても、迷惑をこうむるのが自身だけならまだしも、それ以外の2人にも及ぶ可能性があることを考えると……と、こちらも一切口外しないことを約束してくれた。

 こればっかりは遠慮なんてしていられない。

 私に関しては、ただでさえ『厨二病』なんて言われて注目されてしまっているのだ。ありがたくご好意に甘えることにした。


 そのお礼と言ってはなんだけど、今度2人には何か甘い物を作る予定だ。まだ直接言ってはいないんだけどね。あくまで私の中の決意の話で。


 そうして、ある程度今後の方針が固まって、さぁどのスキルを購入しようかと思ったその時……


『あ、そうそう。言い忘れてたけど、貴方達にプレゼントがあるのよ』


「プレゼント……ですか?」


『そうよ。久々のお客様だしね。それに、あんな斬新な入店方法を発見した記念も含んでいるわ』


「斬新……ですか?」


 あれ以外の方法があるというのだろうか。

 私が2人を見ると、同時に首を傾げる。

 そうだよね。やっぱりあれ以外の方法なんて思いつかないよね。

 まさか、隠しスイッチでもあったのだろうか?


『あの扉はね、ゆっくり力を加えれば、弾かれることなく結界の中に入れるようになっているのよ。元々そういう仕様なの。張り紙に書いてあるような下手な挑発に乗らない賢さと、あえて扉を攻撃しないという選択肢がとれる視野の広さを試してたのよ。本来はそうやって入店するものなの。まぁ貴方達は、強行突破しちゃったから知らないのは当然の話だけどね』


「あぁ~……そうだったんですね……それはなんていうか……すいません」


『別に謝らなくてもいいわよ。それにさっきも言ったけど、それ以外の方法を見つけたっていう方がよっぽど凄いことなんだから。ただし、今度来る時は、今言った方法で入ってくるのよ。扉直すのって地味に面倒臭いんだから』


「は、はい」


 マリアさんの場合、面倒臭いで済んじゃうだ。

 さすが、これだけの【技珠】を管理している人なだけはある。

 ええ、もちろん壊しません。言われた通りにいたします。


「それで、あの……プレゼントというのは一体……?」


 私の問いかけに、マリアさんはフフンと鼻を鳴らし、これでもかといった具合のドヤ顔で言い放った。


『ここにある【技珠】のうち、どれでも1つ。好きなものを選んでプレゼントしてあげる。どう? 嬉しいでしょう?』


「「「……え?」」」


 杞憂が杞憂じゃなくなった瞬間だった。




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