31.魔法
「たしかここら辺だよね?」
「って書いてあったな」
「こっちじゃない? そんな匂いがするよ! 私の勘がそう言ってるもん!」
「当てになんねー勘はしまっといたほうがいいぞー」
「何をー!」
「そもそも、アクアは方向音痴じゃねーか」
「そんなことないよ! たぶん!」
「自分でも自信はないんだね」
「もーカノンまで酷いよー!」
「フフッ、ごめんごめん。アクアが可愛いからついねー」
「ホント!? なら許す! ぎゅー!」
「こら! 今はスキル屋を見つけるのが先でしょー! 離しなさい!」
私達は文字通り、姦しくスキル屋を探し続けていた。
それにしても、やっぱり広いよ【ニューディール】。
そりゃ、はじまりの町なんだから、何万人ものプレイヤーを収納できるキャパが必要なことはわかってるんだけどさ。
こうも道に迷うような状況ってどうよ。
思えばちゃんと辿りついた記憶があまりない気がするんですけど。
これでいいのか運営さん? いいんだろうなぁ。動かざること山の如しを地で行く運営だもんなぁ。
『山山山山』って揶揄されてるくらいだし。
とりあえず、今はスキル屋を見つけるのが先決だ。
私も前回のサカキさんのところの件があったから、『忘備録』でスキル屋の位置を調べてきているもんね。
それによると、何軒かあるスキル屋のウチの1つがこの近くにあるはずなんだけど……
そんな私達がこれから取得しようとしているスキルの1つ、【魔法】。
このゲームでは火、水、風、地、光、闇の6属性が基本となっている。
ゲーム的にはベーシックな属性構成になるとは思うのだけど、その中身は一転『自由』だ。
まずMPという概念が存在しない。
では、何を代償に魔法を使用するのかというと……精神力的な物を代価とするらしい。
『的』やら『らしい』やらとやたら曖昧なのは、私が直接使用していないのでよくわかっていないということもあるんだけど、それ以上に『精神力』というのがあくまでもユーザー側が定義したにすぎないからだ。
ゲームの根幹の一部を担う要素のはずなのにである。
ここまでくるとさすがに運営の職務怠慢だろうと糾弾したくもなるものだが、大半のユーザーは既に諦めているのが現状で……これも運営の狙い通りなのかな? と若干私は釈然としていなかったりする。
まぁ運営の態度云々は一旦隣に置いておくとして……とにもかくにも、代償が『精神力』とユーザが定義しているのにはやはりそれなりの理由があるわけで。
魔法を使用するとなんというかその……気だるくなるらしい。
そして、気だるいで済んでいる内はまだいいのだが、無理をして使用を重ねると、時には気絶にすら及んでしまうという、なんともリスキーな仕様となっているのだ。
ただし、よっぽど使いすぎない限りは『だっるいなぁ』程度に留まるとのことなので、今のところはそんなリスクよりもメリットとロマンの方が勝っている状況なのだとか。
で、この『だっるいなぁ』。『だっるいなぁ』のままでは、攻略サイトや日常の会話内で非常に使いづらいということになり、それをなんとか言葉したのが『精神力を消耗する』という表現なのだ。
そして、その精神力を消耗して使用する肝心の魔法。
こちらも、『Free』らしいというかなんというか。一言でいうとやはり『自由』なのだ。
1つを例にとると、【火魔法】というスキルがある。
取得すると精神力を代償に手元に火を起こすことができるという魔法だ。
現象としてはそれだけ。実にシンプル。
あとはこれをどうするかはプレイヤーに委ねられるというわけだ。
投げつければ攻撃魔法になるし、手元でそのままにして、火種や明かりにしてもいい。
これだけでは、特に面白味はないのだが、ここからが『Free』独特で。
魔法の操作方法が『体の動作』なのである。
イメージや思念で操作できるのが1番楽だと思うのだが、残念ながらそこまでの技術は未だ開発されていないとのこと。脳波でアバターは動かせても、思念までは読み取れない、ということらしい。私には違いがよくわからないが、ないものを求めても仕方がないので納得している。
それで具体的な魔法操作だが、わかりやすいところで言うと、投げるフォームをすれば、魔法が飛んでいく。
ただ、そのフォームの細かな違いでも様々な変化があるらしく、未だ全ては解明されておらず、研究段階なのだそうだ。
ただ、かなり色々なことがわかってきており、攻略サイトにも動画つきで掲載されていた。
変わったところだと、【風魔法】に移動速度をアップさせる魔法がある。
これは【風魔法】で風を起こして、自身を後ろから押させることで、結果速度が上がるという、結構無理矢理な魔法なのだが、慣れれば使いやすいらしい。
その現象を発生させる動作がまんま足踏みだった。見た目は……正直ダサかったが、その後物凄い速さで走り回っているところをみると、たしかに効果的なのだろう。
発見した人も色々試したんだろうなぁということが伺える魔法だ。
そして、一応これらの決まった効果を発生させるものに関しては、わかりやすく識別するために魔法を開発したプレイヤーが暫定的に名前をつけており、前述の【風魔法】は『ヘイスト』と名付けられていた。私が想像している『ヘイスト』とはだいぶ印象が違うんだけどね。足踏みて。
まぁこんな感じで各魔法スキルはあくまでもその現象を発生させるだけ、あとはお好きにどうぞというのが、『Free』の魔法なのだ。
ちなみに、精神力を込めた量で威力を調節することができ、込めれば込めるほど、【火魔法】なら温度が、【水魔法】なら圧力が、【風魔法】なら速度が、【地魔法】なら密度が、【光魔法】なら明るさと回復量が、【闇魔法】なら暗さと吸収量が、それぞれ向上するとのこと。
魔法範囲の広さは魔法操作で調整するようで、両手を胸の前で球を撫でるような動作をすれば、各魔法のサイズが大きくなり、それに伴って威力も分散されるみたいだった。
上級魔法、というか色々命令が複雑化した魔法となると、舞っているように見えるようで、華麗だがなかなかに体力も消耗するらしい。
魔法使いってひ弱なイメージがあるんだけど、『Free』では運動神経も求められるのね。
一応、魔法専用の杖を持てば威力に補正が加わるそうなので、力こそパワー理論で単純な動きでもある程度戦えると、攻略サイトには記載されていた。運動神経が悪い人用の救済措置みたいなものなんだろうか?
以上のような魔法の仕様上、現状β経験者が圧倒的に有利らしく、物理スキルの仕様もよくわかっていない状況もあいまって、最前線の攻略組のほとんどはβ経験者なのだそうだ。
そりゃそうだ。精神力の消耗は大きいが短時間で最大威力を出す動作、逆に精神力の消耗を少なく効率的に使用できる動作、軌道を変更する動作、形状を変更させる動作、分散する動作、サイズを大きくしたり小さくしたりする動作と、言えばキリがない動作の数々を正式サービス開始3日目でマスターできているプレイヤーなんてβ経験者以外皆無だろうしね。
私はどうなんだろう。
動作はたぶんマネできるだろうけど、体力と記憶力がなぁ……
まぁでも折角のファンタジー要素ではあるので、使わない手はない。
【光魔法】の回復とか持ってるだけで便利そうだしね。杖も買おう。
早く魔法を我が手に! なんてね。
ということで、魔法の説明でございます。
やっと説明できました……




