13.初戦
「いやいやいや!」
おい運営! てめぇこのやろう!
なんなのだこれは!
いくらなんでもそれはないだろう!
たしかに『Free』とは『自由』って意味だよ? だから私もある程度は見て見ぬふりをしてきたつもりだ。
だが、これはない!
いや、そりゃプレイヤーが開発する分には仕方がないかもしれない。たぶんそういった土壌もきっとどこかにあるのだろう。それを見つけて開発することに、私はとやかく言うつもりはないし、言う権利もないと思っている。なにせ、何をしようとプレイヤーの『自由』なのだから。
でも、だからって運営がそれをやっちゃダメだろ!
「アクアそれって……」
「うん! 私の耐久無限装備! 便利だよ?」
「でしょうね!」
私は愕然とした。
よく見れば周囲のプレイヤー達も呆然としている。
今この瞬間、ここら一帯のプレイヤーの気持ちはおそらく1つになっていることだろう。
だから私は代表してあえて言おう!
「ファンタジーって一体……」
私はいつのまにかその場で頭を抱えてうずくまっていた。
「でも、これね。便利なことばかりじゃないんだよー」
「……そなの?」
アクアを見上げながら疑いの眼差しで問いかける私。
「まず当たりづらいの。今の距離で大体、半々ってところかなぁ? それに、動きながらなんて絶対に無理だからちゃんと構えないといけないし。だから昨日すっごく練習したんだよー」
「へー」
たしかに、素人にいきなり拳銃を持たせて撃てと言われてもまともに当てることなどできないとは、どこかで聞いたことがある。
なるほど、そこもリアルなのね。
「あと、弾はインベントリに自動生成されるんだけど、リロードが凄く面倒くさいの。マガジンも予備が1つしかないし。マガジン1つで15発しか撃てないから、今はいいけどこの先不安だよー」
なるほど。
一応、それなりの不安はあると。
でもなんでだろう。全然納得ができないのは。
私は何とか自分を奮い立たせて立ち上がると、そのまま哀れな被害モンスターのところまでてくてくと歩き、デカイ蝶をつまみ上げた。意外と軽いのね。
「ところで、これってどうすればいいの?」
「インベントリに格納してギルドに持っていけばお金か素材と交換してくれるよ。ただし、状態がいいものじゃないと無理みたいだけどね」
「なるほど」
自動的に素材になったりはしないのね。世知辛い。
「インベントリに格納してみれば色々わかるから試してみればいいよ!」
「そうなの?」
アクアの言われた通り、インベントリを開き蝶を格納してみる。
やり方は簡単。インベントリウィンドウを開いてそこに押し込むだけだ。
【デカチョウ☆3:1】
「……なんか物凄い偉そうな名前なんだね」
「でしょ? 私も最初笑っちゃった!」
「この名前の横にある『☆3』っていうのは何?」
「大まかな品質らしいよ。『☆1〜3』まであって、3が最高みたい。上手く撃ち抜けててよかったー!」
そういえば、弾は蝶の胴体部分に綺麗に当たっていた。何気に凄くない? だって銃持ったの昨日が初めてなんでしょう? いくら練習したからってそんな急に上手くなるもんなのかなぁ? アクアに銃の才能があったってこと? 気づいたら「私の背後に立つな」とか言い出さないよね? 少し心配になっちゃうよ。
「あ、そうそう! アイテムをタップすると説明文みたいなのも表示されるよ」
「へー! どれどれ……」
【デカチョウ☆3:1】
でかい蝶。その見た目に反して羽音はなく、獲物に静かに近寄っては口吻を使って体液を啜る。口吻には対象の痛みを麻痺させる作用も備わっているため、獲物は気づかぬ内に脱水症状を起こし死に至ることだろう。
『ロジャーの寝室にデカチョウを放った。これでイビキに悩まされる生活ともおさらばだ』
~"上手なご近所との付き合い方"より~
「怖っ!」
「意外と物騒な蝶だよねー!」
物騒なんてもんじゃない。
これはもうホラーだ。
見た目が綺麗なだけに尚更そう感じる。
あとロジャー逃げて! すぐ逃げて!
「じゃ、次はカノンの出番だよ!」
「え!? あ、そうか」
気分的には「もう全部アクア1人でいいんじゃないかな」状態だったんだけど、そうだよね。これはパーティ戦だもんね。今はまだお互いの力を見せあう前段階だけど。
と、その前に。
私はインベントリから【デカチョウ】を取り出すとアクアに差し出した。
「はい、これはアクアが倒した獲物だからね」
「別にいいのにー」
「ダメだよ。こういうことはちゃんとしておかないと」
「んーじゃあ、次カノンが倒したやつを私に頂戴! 交換こしよう!」
「まぁそういうことなら別に構わないけど……」
「やった!」
アクアはこうやってたまによくわからない交換条件を出してくる。
今も「カノンの初めてを……」なんてぶつぶつ言ってるけど、言っても初期のモンスターだよ? 今からいくらでも倒す予定なのに。変なの。
まぁ、いつものことだから今更どうこう言うつもりもないけどね。
さて、それよりもだ。
「よし、じゃあ私も頑張るかー」
「ファイトー!」
私は目標を芋虫にセットした。理由は単純で動きが鈍そうだからだ。
あと、何気に芋虫が余りぎみというのも理由の1つだったり。
周りのプレイヤーはなぜか避けてるんだよね。理由はわからないけどやってみればわかるさ!
私はインベントリから相棒を取り出した。相変わらず重い。そして、相変わらず不思議とよく馴染む。
「それがカノンの?」
「うん。でも、アクアに比べればしょぼいけどね」
「そんなことないよ! 凄い強そう! なんていうかその……サマになってるというか、堂に入るというか、雰囲気があるというか……とにかくかっこいいよ!」
「フフッ、ありがと」
アクアのキラキラした瞳で見られながら褒められるとなんだかむず痒い。
てっきり、笑われるかな? なんて思ってたんだけどね。
さて、ではやりますか。
私は肩に相棒を担ぎながらそのまま芋虫に向かって走りだした。
相手の実力がわからない以上、今できる最大の方法で攻撃するつもりだ。
私は攻撃する前に、例のステップを使い2回転。そうしてできた横方向の勢いを殺さずそのまま縦方向に変換し、速度と重量を乗せた相棒の底で思いっきり芋虫を押し潰すように叩きつけた。
同時に周囲に物凄い爆音が轟く。
ホントはもう1回転くらいなら増やせそうなんだけど、もつれてこけたらかっこ悪いからね。現状、確実にできる最大の攻撃がこれなのだ。
どうだ? 幸い芋虫からの反撃はなし。
私は慎重に相棒をどけて芋虫の様子を見てみた。
「ちょっと、やりすぎたかも……ウプッ」
そこには、なにがなんだかわからなくなった芋虫だったであろうものが、ただただ散乱しているだけであった。グロい。
ちょっと吐きそう。
「うっわぁ~……」
後ろで見ていたアクアも、その惨状にさすがに引き気味だ。
「おい、芋虫ってあんなに簡単に倒せたっけ?」「少なくとも俺は固くて無理だった」「だよな?」「あの子ってほら例の……」「あ、本当だ!」
周囲も若干引き気味なのか、ざわざわしている。これはさすがにやりすぎたと反省。次からはもう少し加減しよう。
「で、でも、すっごいよ!」
アクアのフォローが虚しく響き渡る。
「ちなみに……これいる?」
「いらない!」
即答だった。ですよねー。
次回は0時投稿予定です。




