12.圧倒
「それじゃあ早速冒険だー!」
「おー!」
待ちに待った冒険。
ここまですごく長かった気がする。まだ2日目なのに不思議な感覚だ。
「ギルド寄ってく?」
「ん~今はいいや」
「オッケー!」
冒険者ギルドに寄れば効率がいいのはわかっている。だが、今はあまり人目に晒されたくなかったので、今回は見送ることにした。
ただ、それよりもなによりも、私は早く町の外へ出かけたかった。
私はまだ、おっさんとしか戦闘をしていない。そうではなく、早くモンスターと呼ばれている者達と戦いたかった。
血湧き肉躍るとはまさにこのこと。
今宵の相棒は血に飢えて……あ。
「あ」
「どしたの?」
私の呟きを素早く聞きとったアクアが不思議そうに顔を傾けながら覗き込んでくる。近い近い!
「ちょ、ちょっと待っててね。確認したいことがあるんだ」
「オッケー」
私はメニューを人差し指で開き、そのままインベントリの項目をタップした。
よかった。相棒のフライパンが入ってた。
おっさんに相棒がぶっ飛ばされたタイミングで私も転送しちゃったもんだから、もしかしたら、あそこに置きっぱなしになっちゃったかも、と少し不安だったのだ。
「オッケー。おまたせ」
「はーい!」
そして、この相棒をこれから使っていくかどうかなのだが……正直言ってわからない。
ただ、少なくとも今はお金も持っておらず、これしか武器がないということもあり、必然的に相棒を使うことになる。
まぁあのおっさんと、手加減されていたとはいえ、そこそこ戦えた我が相棒だ。きっとなんとかなるだろう。たぶん。
とりあえず、しばらくは様子見ということで。恒例の先延ばしだ。
「そういえば、アクアって何を耐久無限にしたの?」
「もちろん武器だよ。っていうか、ほとんどの人がそうしたんじゃないかなぁ?」
そういえば、広場にいたプレイヤーのほとんどが私と同じ何かの革でできた防具を着ていた。たまに何だ? と思うような人もいるにはいたけど……着ぐるみとか。
あれはやっぱりそうなんだろうか。
「だよねー。ちなみにどんなの?」
「それは向こうに行ってからのお楽しみということで!」
「おー! そんなにハードル上げて大丈夫なの?」
「ムフフゥ……」
アクアが不敵な笑みを浮かべながら私を見る。
ホントリアルと一緒だなぁ、なんて感想を持ちながら私達は町の外へと踏み出したのだった。
「ここらへんでいいかなぁ?」
「おーいるいる」
周囲を見渡せば、あちこちにモンスターが見え隠れする。
ここははじまりの町【ニューディール】より東の門を抜けた先にある【ニューディール平原】だ。
といっても、【ニューディール】の周囲はすべて平原に囲まれているので、東門に限った話ではないのだが。
むしろ、【ニューディール平原】のど真ん中に【ニューディール】を作ったといった方がしっくりとくる作りとなっていた。
ところどころに背の低い木が生えているものの、基本は膝下までの草が生い茂っているような場所で、リアルで言えばサバンナみたいなところだった。
視界も開けていて戦いやすそうだ。さすが初心者フィールド。
改めて周囲のモンスターを確認してみる。角のあるウサギ、硬そうなものに覆われた芋虫、あとデカイ蝶。
パッと見た感じそんなところだろうか?
それらをプレイヤーがばったばったと薙ぎ倒している。どうやらあまり強くはないらしい。まぁ最初のフィールドだしね。
「それじゃまずパーティを組もう!」
「オッケー」
フレンドとは違いパーティは一時的なものだ。それでもパーティ同士であれば、たとえ自分がモンスターを倒さなくても経験値が等分で振り分けられるらしい。
エリアボス戦ではこれを使って何百人という軍隊という名のパーティを結成したのだとか。
普通パーティって上限があるはずなのにこのゲームだとないんだね。さすが『自由』。
「それじゃまずは私からいくねー!」
「オッケー」
さて、とうとうアクアの武器、初お目見えである。
どんなのがでるのかな? 剣かな? 杖かな? まぁ私みたいな調理器具なんていうパターンもあるのだから、何がきても驚くことは無――
――パンッ!
乾いた音が辺りに鳴り響いた。
直後、十数メートル先で優雅に飛んでいたデカイ蝶がパタリと落ち、そのまま動かなくなる。
「……へ?」
アクアを見ると筒の先から煙を出す何かを持って佇んでいた。
煙をフッと吹き飛ばし、その凛とした雰囲気から一転、いつもの笑顔で私に向き直る。
「どうよ!」
「文明の利器!」
アクアの手には拳銃が握られていた。
次回は18時投稿予定です。




