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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
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第8話

――彩暦635年4月12日

於:リグル村


……――


あれから5日たった今日の朝、透とセレスは村の騎士団詰め所兼乗合馬車停留所にやってきていた。

今日で、リグル村を発つのである。


「トール殿には本当にお世話になりました。子供たちだけでなく、男衆にも剣の手ほどきまでして頂き……」

「あぁ、いえ、気にしないでください。本当に基礎の基礎、体作りの一環な程度、ですから」

「それでも彼らは『剣を教わった』という自負を得ました。子供たちも『強くなる』という目標を得ました。万が一次に村に盗賊共がやってこようとも、トール殿に教えていただいた『常在戦場』という言葉をかみ締め、抵抗しましょう」

「……はい」


 ロイドと握手して挨拶する最中にも、透は自分に注がれる視線を強く感じていた。

 それは村の若者たち数名と子供たち……セレスが冒険者としての依頼を一人で行っているときに構って遊んだ子供たちのものだ。

 ロイドもそれに気づいているのか、苦笑してからその場からどくと、子供たちがわっ、と走ってくる。

 透はしゃがみ、その子供たちの体当たりを受け止めてから一人一人頭をなでて。


「あぁもう、ギュンターくんもランドくんも……ほら泣かないの。ガントくん、喧嘩の時には教えた剣を使っちゃだめだからね?ラウくん、君は筋がいいからちゃんと剣を習うとそっちのお仕事できるかも。頑張ってね。フィアーくんはお姉さん、剣を覚えるのはやめた方がいいと思うな。正直」

「トールおねーちゃん……」

「うぅ、やだよ、寂しいよぅ……」

「へんっ、トールが見てない間に俺様がもっともーーっと強くなって今度こそ倒してやるんだからなっ!」


 泣く子をあやしつつ、遅れてきた青年たちと挨拶をしている傍らで、セレスはセレスで村の小母さん達に囲まれていた。


「トールちゃんもセレスちゃんも、行っちゃうの寂しいわぁ」

「冒険者さんなら仕方ないわよね。セレスちゃん、トールちゃんをできればずっと助けてあげてね?」

「もし身を落ち着けたいならうちの息子とかいいわよ?最近トールちゃんに鍛えてもらって頼りがいも出てきたし」

「カティア、そういうのは抜け駆けっていうのよ」

「あ、あはは、ありがとうございます。でもまだ結婚とかはその考えてないかなぁ、って……」


 冒険者ギルドの依頼のひとつである、村の加工品に使う北の森の宝石花の採取やさらにその先、北の海にある結晶石の採取などでセレスはセレスで村の人たちに慕われていた。

 それだけでなく、【白】の術を村人の誰よりも上手に使うことができ、怪我や病気の治療と――死者の鎮魂なども、セレスが手伝い行えたからだ。


 5日間とはいえ、その間にこの村の人々との親交は大きく深められる事ができた。その事に喜びを覚えつつ、手を振り分かれて巡回騎士団の乗合馬車に乗る。

 今日は特に客はなく、透とセレスの2人だけだ。


「さてお二人さん、準備はいいかな?」

「はい、ビーンさん。道中よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますー」

「ははは、元気でいいことじゃのう!セレスちゃんは知ってるじゃろうが、ラフィンまでの旅は2日かかる。今回の乗客は二人じゃから、寝るときは馬車を使うといい。あとは何か分からないことがあれば、いつでも聞いてくれ。わしは馬車の隣で馬を走らせておるからな」


 馬車の扉を閉めにきたビーンさんと挨拶をしてから、簡単な道のりを教えてもらう。

 ついでに、と草原の街ラフィンからリグル村までの簡素な地図ももらい、道中に読むものとして受け取った。

 そして扉が閉められ、セレスがいそいそと馬車の木窓を開けて外を見る。

 そこには、村人がそろって手を振ってくれていた。


「よし、巡回騎士団三番隊出発するぞぉ!」

「みんな、またねーっ!」


 ビーンさんの掛け声とともに馬が足を進ませ、透は最後に身を乗り出して村人たちに手をふる。

 やがて馬車は村近くの丘へと登り、そこを下りお互いの姿が見えなくなるまで手を振るのだった。


 それからの2日の旅は順調なものだった。

 馬車のルートはある程度固められているようで振動も少なく安定して道を進む。

 時折、座り続けるのに飽きた透は馬車を降りて馬車と併走したりもして、騎士たちに驚かれもした。

 夜は馬車の内鍵を閉めてセレスと地球のことについて色々と話したり、逆に彩星についての話をセレスが説明することもあった。


 魔物の襲撃は1度だけあり、セレスも透も出るか?と考えたがビーンが車内で待つように指示したため素直に従い馬車から観戦をした。

 そのとき出た魔物は下級の『ゴブリン』という、人間のような形をした魔物だった。

 どうやら魔物というものは今この世界に存在している何かの存在を歪めたものらしく、こういう『人間型』の魔物も多くいるのだという。

 緑の肌をした、日本人に分かりやすく言うなら、手には粗末な木の棒のようなものを持ち、全裸のまま襲い小鬼のような姿の『ゴブリン』。

 戦闘力は低く、装備をした騎士や冒険者であれば1対1で負ける事は無いだろう。ただし、この魔物は群れを作り襲ってくるのだ。ただ知恵がないため、真っ直ぐに奇声を上げて襲ってくる。


 巡回騎士の敵ではなかったようで、ビーンの指示で動いた騎士5名の手でゴブリン合計12匹はすべて討伐されていった。

 なお死体は討伐を担当した騎士たちの『インベントリ』に戦利品部分だけ回収されて、残りは闇の塊になって空気中に霧散した。

曰く『あの霧がまたどこかで集まり魔物になる』らしいのだが、闇の塊を確保することはどうしてもできずに諦められているのだという。

 実際に透も剣術で闇の塊を切り裂いてみたが、何事もなかったかのように霧となって消えていった。


 そうして順調な旅はやがて終点にたどり着く。

 3日目の朝、固焼きパンを使ったサンドイッチで朝食をセレスと透がとった少し後に馬車の窓がコンコンとノックされる。

 透が鍵をはずして窓を開くと、そこにはビーンが笑みを浮かべて進行方向を指さしていた。


 そこには、大きな街が広がってる。城壁で包まれた広い町並みはリグル村の数倍はある。

 現在向かっているラフィン北大門から南大門へ続く大通りがあり、街の中央よりやや東の位置には広場も見える。

 ずれているのは、街の北西から南東にかけて流れていく川、ルアーナ川のせいだろう。

 街の生活用水でもあるその川沿いには、朝早くにも人影が多くみることができた。


「草原の街『ラフィン』にようこそ、若い旅人さん!ラフィンは君たちを歓迎する!」


 にか、っと笑みを浮かべて歓迎用の台詞を吐くビーンに、乗るように周囲の騎士たちも拳を突き上げわいわいと歓声をあげた。


「トール、街でゆっくりするならまた騎士団詰め所で剣教えてくれよ!」

「いいかぁ、中央通は南北も東西もいいけど、北東の貴族区画にゃ近づくなよ?ホントあそこはお貴族様の居住地なんで捕まっちまうからな?」

「おいおい、西通りの『チックの串屋』がお勧めだろうが!あのジューシーな肉を味あわずに……」

「女の子相手に肉とかどうなんだよお前は。それよりルアーナ川沿いの『狭霧の夜明け亭』を教えておくべきだろ?トールちゃん、街の北西から南東に向けて流れるデカい川見えるよな。北西区画の川沿いにある宿は女の子には最適だぞ」


 馬車の護衛中は任務中であったためか、薄く緊張が広がり寡黙だった騎士たちも大きな声で無事に目的地にたどり着いた事を喜んでいる様子だった。

 そうして1人1人ビーンと入れ替わりに馬車から顔を出した透のところにやってきて、街のお勧めスポットについて語っていくのだ。

 透はにこにこと笑みを浮かべて相槌を打ち、街について話を聞いているところで馬車の中からセレスに服を引っ張られて馬車内に顔を戻した。


「ほらトール、そろそろ下りる準備しないとです」

「あ、そうだね。……まぁ、大体の荷物はセレスの『インベントリ』だし、あんまりないけど」

「せめて寝癖くらいは直しましょう?」


 あきれたようなため息を見せるセレスに首をかしげる透。

 本人が気づいていない事を理解すると、セレスは透を座らせてインベントリから櫛をだし髪を梳いた。


「こんなにきれいな黒髪なのに、透は手入れがザルすぎます」

「あー、うん、日本の洗髪料はすごかったんだな、って最近ようやく理解できつつあるよ……」


 日本では頭を洗ってある程度タオルとドライヤーで乾かせば癖などつかなかったというのに、この世界の頭も体も服もなんでもこれ1個という冒険者用の洗剤で体を洗うと髪の毛が非常に癖が強くなってしまったのだ。

 ほんの数日前までは真っ黒のストレートだった髪の毛が、左右にぴんぴんと跳ねてしまっている。

 別にそれが不格好にあまり見えないのが役得でもあるのだが、セレスは最初のストレートの艶やかさを知っているだけに勿体無い勿体無いと櫛を通しては癖になった毛を見てため息をつく。

 ここ数日の日課に、透は苦笑しながらセレスの好きにさせていた。


「はいセレス時間切れ。馬車もついたし降りるよ」

「あぁ~……また挑戦させてくださいね」


 馬車の速度がだんだんと落ちて、ついに停止すると透は片手をあげて中断させるようにし、セレスもあきらめて櫛を衣類のポケットにしまう。

 馬車の扉を開けて外におりると、ちょうど丘の上から見えた門の手前だった。

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