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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
6/30

第6話

――彩暦635年4月7日

於:リグル村・北の森


……――


「ひゃぁぁ!トール、トール!」

「あぁぁ、っもう!人剣地技ちぎ、《地裂衝ちれつしょう》!」


 人剣地技《地裂衝》。刀を大地に突き刺し『剣気』を炸裂させ、指定した場所を爆発させる技だ。

 透は地球に居た頃は自分の周囲ないし10mまでの直径1m程度の範囲のみを爆発させることができていたが……

 今は逃げるセレスの後ろを走る魔物『ランブリングボア』というイノシシ型の魔物の足元を狙って爆発させることに成功していた。

 本人の感覚ではおよそ射程は50m、範囲は直径30cmから3mまで可変できそうだという実感を得ていた。

 真後ろで炸裂した《地裂衝》に小さく悲鳴を上げ、続いて空に打ち上げられた『ランブリングボア』の墜落した音でまた悲鳴をあげてセレスが飛びのく。


「はー、はー、はー……ぐうぅ、野生系の魔物は苦手です……」

「まぁ、何となくそういう気はしてた」


 どうやら墜落した勢いで死んだらしい『ランブリングボア』の様子に刀を収めながら、透は呆れた様子を見せつつ地面にへたり込んで荒い息を吐くセレスの隣に座った。


「やっぱり、動物と、魔物は、違います……」

「まぁ、確かに違うね……ってかこんなのが自然に居たら、そりゃこうもなるか」


 セレス曰く『下の上』という強さの『ランブリングボア』が縄張りとしていた場所を見て、透は顔をしかめる。

 その視線の先にあったのは、酷く荒らされた森だ。

 先ほどセレスと一緒に崖上から確認した時は、かなりの広さの森が荒らされているのが見えた。

 どう荒らされているかと言えば……折れた樹木に、肉の腐った臭い。

 生きるためでもなく、ただ破壊したかったとしか思えないような樹木のなぎ倒され方と、生前の姿から肉が潰れた姿で腐っている動物の死体だ。

 セレスから魔物は『存在する』ために特に何かを消費する必要がないが、何かを破壊し続けているという話を聞いていなければ気が狂ったのかと思うような情景がそこにはあった。


「そもそも、話が、違います……聞いてたのは、『ランブルビー』、の、討伐、だったのに……」

「そっちだと楽だったの?」

「ぜんっっ……ぜん違います!『ランブルビー』は最下級の魔物で、わたしでも一人で倒せる魔物でした……」


 悔しそうにセレスが手甲を付けたまま地面をどん、と殴る音が聞こえて透が振り返る。

身長は透と同じくらいだが、肉付きはスレンダーと言う様子で特に筋肉があるというわけでもない彼女であるが、所謂『内気功』のような技術を体得しているとの事だった。

 ただし、今装備している手甲の補助が必要であるため完全に素手での戦闘力はかなり低い。

 その為、『凶骨の牙』からは逃げていたのだという。


 そしてセレスが言うとおり、『ランブルビー』という蜂型の魔物は非常に弱い。『下の下』に分類される、冒険者初心者が倒すような相手だ。

 二人は知らない話だが、ほんの昨日『ランブリングボア』がこの森に発生して『ランブルビー』を捕食、巨大化して森を荒らしていた。

 つまり『凶骨の牙』が来なければセレスは無事に『ランブルビー』討伐を行い、『ランブリングボア』が発生しなかっただろう。


「そう言えば、セレスはどういう魔物相手だったら得意、とかあるの?」

「そうですね……わたしは【天使の白(エンジェ・ブラン)】なので、死霊系の魔物であればそこそこ戦えます。あと虫系は得意ですね。苦手なのは無機物系と軟体系です。あいつら、練華拳れんかけんがぜんぜん通じないです……」


 【天使の白】というのは、セレスの魔法の属性の事だ。この世界の人間は基本的に以下の6つの色のどれかを持っている。

 【勇気の青(ブレイブ・ブルー)】・【情熱の赤(パッション・ルージュ)】・【賢者の黄(ワイズ・ジョーヌ)】・【迅鷹の緑(ホーク・ベール)】・【天使の白(エンジェ・ブラン)】・【祓魔の黒(イクソス・ノワール)】の6つだ。

 セレスの持つ【天使の白】は『白い』色の属性を持っている。

 この世界で『白』といえば天に浮かぶ太陽――月と違って一つだけ浮かんでいる――のみ。名前はセァラだ。

 その太陽から溢れる『光』を扱えるのが、【天使の白】の力である。

 例えば先日多用した光の球体を生み出す《ピュアライト》のほか、セレスの言う死霊系の魔物に強い効果を発する光の槍を投げる《シューティングレイ》や傷を癒す《ヒールライト》などが白属性の主な魔法となる。


「練華拳、ってのがその格闘術の話?」

「はい、そうです。手や足にの魔力をためて、魔法として放つのではなく攻撃時に直接体内に魔力を打ち込み攻撃する格闘術、です。まぁその……奥義伝授までされている方は魔力を魔法とは違う形で打ち出したり、私が覚えた柔拳じゃなくて剛拳ってのも使えるみたいなんですけど」

「セレスはそっちは覚えてないってことか……残念だね」


 透はドンマイ、と言ってセレスに村で貰った麻布を渡す。

 渡しながら、この『統一言語』というものが何なのかを透は思いを馳せた。

 セレスや村人からすると透は流暢な『統一言語』という、現存六国全てで通じる汎用言語をしゃべっているらしい。

 だがもちろん透に自覚はあまりない。ただ、日本語をしゃべっているときと口の動きが違うのは認識していたため、やや強引に日本語をしゃべってみたが……それは、セレスにも村人にも決して意味が通じることはなかった。

 理由はわからず、今も棚上げしている。

 なんせ、異世界人なのだと知っているのは今のところセレスとロイドたちリグル村の村人だけなのだ。

 そしてその誰もが、そもそも透が『統一言語』をしゃべっている事に違和感を覚えていない。調べるにしても手詰まりなのである。


「うーん、やっぱりトールには冒険者登録をお願いしたいです。これだけ強いんなら、正直わたしが護衛するよりトールに戦ってもらうほうがずっとマシですし」

「んんー、なんて言うか面映いなぁ……てかその冒険者ってよく分かってないんだけど、登録したらどうなるの?」


 一息ついた所でセレスは胸元から白い宝石のペンダントトップがついたネックレスと、電子マネーカードくらいの白い板を取り出して透に見せる。


「登録するともらえるものは『ギルドカード』と『インベントリ』、です。ギルドカードは登録している国での身分証明にも使えますし、旅行許可証にもなります」


 ほらここ、とセレスが指差したカードの表面にはこの世界の汎用文字で『セレス・グラスハイト』と記載があり、また『湖国』の紋章と神国の紋章が下に刻まれているのが見えた。


「旅行許可証?そんなのがいるの?」

「トールの世界では要らないんですか?安全なんですねぇ……冒険者ないし商人の登録がない人は、基本的に登録している街や村から出ちゃダメなんですよ。出るにしても、巡回騎士と一緒にくる乗合馬車での移動しかダメです。街道沿いは魔物退治が頻繁に行なわれて安全ですけど、街道から外れると魔物が出て危ないですからね」

「さっきみたいな?」

「いや、『ランブリングボア』みたいなのは流石に……出て『ランブルビー』や『キャタピラー』、出ても『ゴブリン』くらいの雑魚ですよ。乗合馬車と一緒にくる巡回騎士の敵じゃないです。でも、特に戦闘訓練とかもしていない冒険者じゃない一般人だと……それら相手でも、死んじゃうでしょうね」


 はぁ、とため息をつく様子に透はごくりと生唾を飲む。

 実際、特に戦闘訓練も受けていない村の若者が力を過信して一人旅をし、消息不明になるなどよくある話だ。

 たとえ人間相手の『喧嘩』が強くても、『殺意』と『破壊欲求』を持って『自己保存欲』のない魔物相手だなんて無謀にも程がある。

 相手は殺すまで動きを止めず、こっちは逃げようとしても逃がさず追いかけてくる。

 まぁ村のそばにでるような魔物であれば村の巡回騎士などにすぐ討伐されるが……一人旅をしているならば、対処できるのは自分だけだ。

 逃げれたらよし、逃げられなければそのまま魔物の『玩具』として壊される未来しかない。


「で、話戻るけど『インベントリ』ってのは何?」

「こっちですか?うーん、分かりやすく言うと魔法の道具袋、ですかねぇ?」


 話を切り替えたい空気を読んだセレスが、頷き今度はペンダントトップの宝石を指先で撫でる。

 そしてそのまま空中を何事か撫でると……

 ふわ、っとセレスと透の間の空間に、2次元の絵のようなクローゼットが浮かび上がったのだった。

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