第5話
――彩暦635年4月5日
於:リグル村・村長宅
……――
「なるほど、トール殿は西のお山からこの世界にいらっしゃった『来訪者』殿、なのですね」
「自分で説明しておきながらなんですが、えらくあっさり信じますね!?」
「えぇ。村長ですし、人を見る目くらいは養っております。トール様が嘘をついている様子などありませんので、つまりそれは真実でしょう。それに、この村に伝承がありますので、信じやすい土壌があったと思っていただければ」
村長宅に招かれた透とセレスは、村長相手には誤解を解かねばと考えて透の素性を打ち明ける事にした。
それに対して村長はあっさりと信じてしまい、むしろセレスの方がうろたえている様子を見せてしまう。
「伝承、ですか?」
「えぇ。まぁざっくりとお話すると遠い昔に西の山からトール殿のように見慣れぬ姿の旅人がやってきた、と。その旅人は自らを異世界人だと名乗り、村を襲う魔物を北の入り江に封じたと伝えられております」
「そんな伝説のような話で信じれるんです?」
「セレス殿には信じられぬでしょうが、言い伝えもありますので」
朗らかな笑みを浮かべるロイドに対して訝しげな視線を向けるセレスだったが、ロイドは特に気にする様子も見せない。
むしろ、何処か安心するような視線を透に向けて笑みを浮かべた。
「まぁ、ロイドさんが納得するならいいです……あ、騎士詰め所に置いていた荷物取ってきてもいいです?」
「む、それは後で村人に取ってこさせましょう。今は外出を控えて頂けないでしょうか?……今は、夜を通して亡骸を弔っている所です。村人以外の姿を見ると、不安を覚えるかもしれません」
少しだけふてくされた様子でセレスが手を上げて提案するが、ロイドがそれを止める。
その理由も納得できるものであったために、セレスは大人しく腰を下ろした。
そこで奥の扉が開き、ロイドと同じ黄髪をした若い女性がやってくる。
夜であるのに、ぬれた髪。何かの香のような香りと疲れた顔を見て、透もセレスも何事があったかを理解して表情を硬くする。
「ルシア。もう大丈夫なのか?」
「えぇ、お父さん……平気、平気よ。……セレス様、そしてトール様、村を救って頂き、本当にありがとうございました」
ロイドの気遣う様子に儚げな笑みを浮かべ、透とセレスに頭を下げるルシア。
それを見て、透もセレスもどう反応していいのか悩ましげに視線を交わしあい。
「いえ、その、はい」
「……もっと早く助けに来れたら、と思っています。そこは、申し訳ありません」
「いえ……お気になさらず。命が助かっただけでも、幸いです」
頭を下げる二人にも、ルシアは何も感情を動かす事なく頭を下げるのだった。
そうされれば何も出来ずに居心地の悪さを感じてしまう二人を見かねたのか、ロイドがあぁ、と口を開き。
「そろそろ夜も更けてきます。お二人とも、そちらの客間をお使いください。田舎の村であり満足はできないかもしれませんが、そこはご容赦いただければ……」
「いえ、宿を貸して頂けるだけでもありがたいので」
「そうですね。ではトールさん、お部屋に行きましょう」
提案に乗り、透とセレスは揃って席を立つ。その様子にロイドは少し苦笑を漏らすが、特に何も言わずに部屋に案内するのだった。
簡単な鍵のつけられた部屋は明かりが灯っていなかったが、セレスが《ピュアライト》を使い照らし出した。
ベッドが2つあり、それなりに大きな木のチェストと椅子、テーブルがある。この世界の農村の客間としては上等な部類だろう。
ただしガラスはないのか窓部分は木の蓋をしてあり……先程のロイドの言葉もあってふたりともそこには手を出さずに椅子に座る。
「さて、と。改めて自己紹介しましょうか。わたしは、セレス・グラスハイト。神国出身の……冒険者です」
「……まぁいいか。私は貴陽・透。出身は日本、でいいかな。職業で言うなら高校生だったよ」
「……」
先ほど、村に入る直前に簡単に名前程度の自己紹介しかしていなかった為に改めて自己紹介を行なうのだが……
冒険者だと言うときに一瞬言いよどんだ様子に透は訝しげな視線を浮かべつつ改めて名前と出身、職業を名乗る。
だがこの世界において何処にも存在しない国の名前と職業に、今度はセレスのほうが訝しげな視線を浮かべた。
「異世界、日本……というか、さっきの話だとそもそも『彩星』じゃなくて『地球』とか言う所、でしたっけ」
「うん。ってかその『彩星』って何?」
「この世界、『フリークフィレア』の事でしょう……ってこの名前すら分からないって……」
「だからそうだって最初から言ってるじゃん……私だって正直信じられないんだけどさ」
ティーテーブルよりかは一回り大きい程度のテーブルの上に肘をついて頭を抱えながら嘘でしょ、と呟くセレスに透も腕を組み背もたれに寄りかかりながらため息をついた。
「あーもう、まぁいいや、その異世界人って話をとりあえず信じます。……これは、母様に一度意見聞いた方がいいかなぁ……」
「母様?なんで?」
「わたしのお母様、召喚や転移の術に詳しいからあなたの事何かわかるかもしれないですし。ううう、ヤだなぁ、まだ冒険者なって半年も経ってないのに戻るのヤだなぁ……」
「……セレスさんが困ってる理由は分からないけど、私の事情が分かるんなら是非ともお話させてもらいたいな」
葛藤する理由を言わないセレスに対して少々憮然とした様子を見せる透に、うぐ、とセレスはうめき声を上げる。
ちらりと視線を透の顔に向けてその表情を伺い、困った顔をしている透を見てからはぁ、と再びため息をついた。
「わかりました。じゃあ、一緒にとりあえず神国に行きましょう。……戻るのがヤなのも、母様に『冒険者として立派になるまで帰ってきません』って言ったから、ってだけだから不都合ある訳じゃないですし。わたしがちょっとまだぜんぜん立派になってないから母様にからかわれるのがヤなだけですし……」
「ん。ありがとうございます。……口裏合わせとかならするよ?」
「いや、嘘はよくないです。わたしの事情で困った人を放置するのも信義にもとる行為ですから気を使わないでいいですよ」
内心の葛藤を諦めたのか、さっぱりした顔を見せつつセレスはこれからの行動を提案する。
それに対して透がフォローしようとするが、それは断られた。そんな所に、透は少しセレスに対して好印象を抱く。
「わかった、了解。……これから一緒に旅するんだよね。じゃあ私の事は別に『さん』付けじゃなくていいよ」
「そうです?……じゃあトール、わたしも敬称なしでお願いします」
「おっけー、よろしくセレス」
笑みを浮かべて手を差し出すと、セレスも笑みを浮かべて握手を行なった。
二人そろってほっとしたような表情を浮かべ、緊張を解く。お互いにその様子を見て、苦笑しあった。




