第4話
――彩暦635年4月5日
於:リグル村
……――
「ぐぇっ」
「がっっ!!」
ずん、と音を立ててまた『凶骨の牙』の男が2人地に沈む。
刀を抜いたまま進む透の前には、もうあと10人ほどしか『凶骨の牙』は残っていなかった。
「ご、5人がかりでやっちまえっっ!」
「いくぞこらァァ!」
「このアマがぁぁああ!!」
ガーライルの横にいた男がかけた号令に従い、5人の男のうち3人が手にそれぞれ赤、青、黒の光を生み出し、残る2人は剣と槍を手に透に向かって走る。
歩調が合っていない様子を見た透は、わずかに足が速い槍使いの男の懐にすべるように潜り込む。
そうすると、透の姿は槍使いの男の体が影となり、立ち止まり魔法を使おうとしていた男たちから見えなくなってしまった。
「ディラン邪魔だどけぇっ!」
「お前のせいで魔法撃てねぇだろうが!てめぇにあてるぞ!」
同士討ちを避けようとあげる叫びに、透は薄く笑みを浮かべながら槍使いの懐に潜り、刀の峰を使って男の腹を殴打して吹き飛ばした。
「がほぉっ!?」
「あ、っっ!?」
ディランと呼ばれた男が吹き飛ばされた先は、剣を持ち近づこうとしていた男の方向だった。
抜き身の剣を透に突き出すようにして走っていたため、その剣を引くこともできずに飛んできたディランと呼ばれた男の背に剣を突き刺してしまう。
「ディランっ!?そ、そんなつもりは――げあっっ」
剣を持つ男が動揺している隙を突き、透は駆け抜けながら刀を振るう。
さくり、と音を立てて男の首が切り裂かれ、血を噴出しながら倒れていった。
残る3人が慌てた様子で手に浮かべていた色の玉から炎の玉、氷の槍、黒い雷のようなものを打ち出すものの……
透はそれらの軌道を見切っている様子で的確に回避しながら男たちに肉薄し、3度の斬撃音を立てて斬り捨ててしまった。
「さぁ、て、と。村に押し入り強盗をするくらいだもの、相応の覚悟は決めてきてるんだよね?」
「う、うるせぇ!これ以上やるとコイツらを殺」
「人剣風技、《風鳴斬》」
透が『凶骨』ガーライルに向けて問いかけた所で、人質として集められていた村人を挟んで反対側にいた男が剣を振り上げる。
しかし、その剣は振り下ろされることなく透の放った技により斬り飛ばされてしまった。
「糞……なんだって、こんな辺境の村にテメェみたいなのがいるんだ……!」
「それは私も聞きたいわ」
唾を吐き捨て不機嫌そうに呟くガーライルに、透も思わず自分の頭に人差し指をあてつつ返事をしてしまう。
「お前、俺を逃がす気はないか?」
「あると思う?」
「金は出すぞ」
「――あのね、私は『盗賊』が大っっ嫌いなの」
透が返事をしたせいか、交渉ができるかとガーライルが話しかけるも透はそれをばっさりと斬り捨てる。
少しの余地も見せない返事に、ガーライルはほぞを噛むように低く唸った。
「あぁぁあ!クソクソ!お前ぇら、全力であのクソ女ブッ殺すぞ!でねぇと俺たちがブッ殺される!いくぞぉ!」
「「「「お、おおおおおおおお!!」」」」
ガーライルのやけっぱちな叫びに、残る『凶骨の牙』メンバーも怯え混じりの声をあげる。
残る『凶骨の牙』の数はガーライル含めて5人。
先ほどまでの動きで勝ち目がないと理解しながらも、各々武器を振り上げて透に向けて走り出す。
槍、剣、斧といった統一性の無い武装での攻撃は、しかし透に当たる事はない。
「くそ、くそっっ!!」
「グウィード!体当たりしてでも動きとめろ!」
「わかっちゃいるけどあたらねぇ!!なんだこいつ!!!」
最初は斬り、刺し、削ぐ事ができるように『武器』を扱っていた男たちが、次第になりふり構わず当てる事だけを考えて武器をふりまわしはじめる。
だが、あたらない。
その程度の攻撃にはまるで反撃する価値がない、とでも言っているかのように、透は刀を抜かずにただただ回避し続ける。
大振りなガーライルの槍をよけた透がこれまでと打って変わって大きく後ろへ跳んで。
――そして、一番最初にガーライルが気づく。だが、遅すぎた。
「っ!?」
「ぎあっ!!」
背後から襲う炎の玉に、ガーライルの横にいた小さな男が包まれ、焼かれる。
背後から、だ。
振り向いたガーライルの目には、見張りもなくなり自由になった村人たちが怒りと憎しみを浮かべた顔で手に色の輝きを宿しているのが見えて。
「畜生」
それが、ガーライルの最後の言葉になった。
次の瞬間、雨あられとガーライルたち『凶骨の牙』の残党に魔法が降り注いでいく。
ちゃんとその範囲内から離れていた透は、力を抜いて崩れ落ちていく『凶骨の牙』の面々を冷めた目で見ていた。
「まぁ、盗賊の末路なんてこんなもんでしょ」
ふぅ、と息を吐いて村人の怒りの反撃が収まるのを待ち、セレスが隠れていた方に透は目を向ける。
そーっと物陰から顔を出したセレスと視線が交わり、それでセレスも安全だと理解したのか物陰から出て透に向かって走ってくる。
「トールさん、急に行くとかやめてくださいよっ!?心配したでしょ!?」
「あはは、ありがとう。や、まぁ結果はこんな感じで大丈夫だったしね?」
「大丈夫だった……ってもう本当にそうなんだけど信じられない……異世界人ってみんなトールさんみたいに強いんですか……?」
「いや、そんな事はないんじゃないかなー……?」
安心したやら不安だったやらでいろんな表情を綯い交ぜにしたセレスが透に食って掛かり、透は血糊を拭いた刀を鞘におさめつつ首をふってみせて。
村に来ていた冒険者であるセレスと会話している所から、村人には『冒険者仲間が助けにきてくれたんだ』という誤解が広まり少しずつ喜びと、悲しみの声が広まっていく。
そんな中、1人の大柄な男性がゆっくりと透とセレスのところへ歩いてきた。
「セレス殿、そちらのお方は……?」
「あ、村長さん!えー、っと、援軍、です?」
「援軍……ですか。……いやしかし、お強い。女性ながらにあの立ち回り、感服致しました。申し遅れました、リグル村の村長ロイド・フレンジアと申します。よろしければ、我が家でお休み頂けないでしょうか?」
頭を深々と下げる村長の姿に、透は慣れない様子で少しうろたえてから、はい、と返事をするのだった。




